合理的な俺が、幼なじみを愛してしまった理由

「怖い? あいつは、怖くないだろ」
「だってさ、東雲くんに渡して〜って頼んだら。なんで。って、聞いたことないぐらい声が低かったよ」
「寝起きか? 昼寝でもしていたのか」
「……あ〜、城島くん大変だろうな」

 小林に聞いたのだが、俺に渡すつもりだったらしい。そうか、伶依にじゃなかったのか。
 ならば、問題はない。俺が勘違いすることは、絶対にないからな。

 そうか、よかった。胸の奥が、す〜と軽くなったような気がする。
 それにしても、あいつが怖い? 怒っているのは、数回しか見たことないぞ。

 あいつの怒りの沸点は、高いからな。普通なら、怒ることでもニコニコしているぞ。
 もしかして、俺が知らないだけで怒っているのか? それとも、ただ単に眠いだけなのか?

 俺の分の家事もやって、大学の勉強もある。俺も何か、するべきなのか?
 しかし俺は、母親にも匙を投げられたからな。洗濯物を干すと、Tシャツが変な形になるんだ。

 東雲家、七不思議の一つだった。流石に、この言い訳は違うということは分かっている。

「貰っておく。って、上から目線だったんだよね」
「伶依は、ブルーベリー食べないからな」
「きっと、違うと思う」

 伶依の様子を聞いて、ブルーベリーが苦手だからな。俺も昔は苦手だあったが、あいつが食べないから食べるようになったんだよな。
 俺が食べないから、伶依も食べない。だから、俺が食べるようになった。

 今では、嫌いではない。

 伶依が食べないものを、俺まで嫌いになる必要はないからな。

「あっ! そうだ! 城島くんが、東雲くんの作った料理食べたがっていたよ」
「俺が作っても、不味いぞ。あいつが作ったほうが、合理的だ」

 小林が思い出したかのように、教えてくれた。俺の料理か、食べられるものなのか。
 自分で言うのもなんだが、基本的にテストでは高得点だった。しかしなぜか、家庭科だけはギリギリだった。

 俺が作ったら、人の食べ物ができないかもな。最悪、倒れるかもしれない。
 あいつは、繊細だからな。俺は滅多に風邪を引かないが、あいつは毎年のように罹っている。

 つい先日も、風邪で寝込んだから。俺は何もできずに、慌てることしかできなかった。
 おばさんが来たから、どうにかなったんだ。そんな俺には、料理なんてできない。

 胸を張って、断言できる。以上のことから、あいつが作るのが合理的である。

「味じゃなくて、気持ちだよ」
「ふむ、なるほど」
「それにね〜城島くん、口を開けば東雲くんのことしか言わないよ」
「そ、そうなのか……まあ、俺たちは一心同体だからな」

 なるほど、味じゃないのか。ならば、気持ちだけで作ろう。
 気持ちだけなら、誰にも負けない。あいつの好きなものや、嫌いなもの。

 色々と知っているから、取捨選択はできる。技術面では、物足りない。
 しかし気持ちなら、上乗せできる。それでいいなら、できる気がしてきた。

 伶依が、俺のことを話していたらしい。そんなことがあるのか。

 ……嬉しいな。

 口では絶対に、喜ばないがな。なんか、子供みたいだからな。
 俺も今月で、十九歳になる。子供みたいなことは、卒業しないとな。

 心なしか、暑くなってきた。風邪の予兆なのか?
 風邪を引いたら、卵入りのおかゆがいい。腹減りすぎて、思考が食べ物で固定されている。

 小林は、ニコニコしながら彼氏と消えて行った。恋愛など、非効率なのによくやるな。
 伶依の顔が見たくなってきて、抱きつきたくなった。しかし俺はもう、大人だからな。

 我慢しないといけないが、あいつの体温も香りも好きなんだ。こればかりは、どうしようもない。

「あいつは、いつも何かをしてくれる。しかし、俺も何かをするべきか? しかし……掃除も洗濯も料理も、あいつがやるのが効率的だ。しかし、小林の言っていることも一理ある。よしっ! 今日は、俺がご飯を作ろう!」

 料理を作ること自体は、問題ない。しかし何一つとして、知識がない。
 スマホで検索をかけ、初心者が作れるものを調べる。煮物など、簡単そうだな。

 乱切り? とは、なんだ? 乱れる? 分からないな。
 切り方以前に、調味料がどこにあるのか分からない。鍋の位置など、全てにおいてな。

 あいつは几帳面だから、冷蔵庫の中身を把握している。卵が何個あるのか、牛乳がいつまでなのか。
 俺には到底できないが、あいつはすごいやつだ。例えば、冷蔵庫を開けても俺には食材がある。

 これは焼かなくても、食べられる。それぐらいにしか、視認できない。
 俺には食材があるとか、見えない。しかし伶依には、その先まで見えている。

 卵が何個あり、牛乳の賞味期限はいつ。これなら、何が作れる。
 やはり、すごいやつだ。俺なら、そのまま牛乳を飲んでしまうだけだ。

 極めて合理的かつ、最高の嫁である。あいつと、結婚できるやつは世界一の幸せ者だろう。

「よし、これでいいだろう」

 俺はスマホで、伶依にメッセージを送った。『用事がある。少しだけ、寄り道を許可する』
 送信してから直ぐに、既読がついた。いつも直ぐに確認するのは、いい心がけである。

 『なんで、お前が許可する側なんだよ(笑)』『俺の部屋に行くなら、冷蔵庫にプリンあるぞ』
 俺は直ぐにメガネの位置を直し、口元が綻んだ。プリンは、俺の大好物だからだ。

「甘いものは、脳の働きにいいからな」

 プリンを食べたいため、俺は足早でその場を後にする。走るのは禁止のため、スキップで移動する。
 しかし自分でも分かるぐらいに、下手だった。リズム感も悪く、バランスが悪い。
 周りから、クスクス笑われてしまう。恥ずかしいが、それ以上にプリンが楽しみである。

「……色々と入っているな。ふむ……分からない……ということは、分かった」

 足早に伶依の部屋に行き、あいつのエプロンをつける。このエプロン伶依には、ちょうどいいが。
 俺には、少し短いようだ。怒られそうなので、そっと元に戻しておく。

 去年の誕生日に、俺があげた黄色のエプロンである。大事に使ってくれていて、綺麗に折りたたまれていた。

 俺が畳むと、原型を留めなくなる。何か言われても、落としたといえばいい。