合理的な俺が、幼なじみを愛してしまった理由

 大学の講義が終わり、俺は足早に廊下を出た。走りたいが、優等生の俺はそんなことはしない。
 何故なら、教師に見つかると怒られるからだ。余計に遅くなるため、競歩の域を脱しないようにする。

 十月中旬だが、少し肌寒い。すっかり秋になり、落ち葉も見えている。
 焼き芋や、さんまの季節だな。今日は栗ご飯も捨て難いが、今朝準備をしていた。
 明日にでも、お願いしよう。俺がやるよりも、効率がいい。

「伶依、お腹空いた。何かないのか」
「俺は、涼平のオカンじゃないぞ」
「? 何を言っているんだ? 俺のお袋は、実家にいてだな。お前も知ってるだろ」
「あー、はいはい」

 俺は幼なじみの城島伶依の姿を見つけ、後ろから抱きしめた。俺はそれなりに大きいが、伶依は平均以下の身長だ。
 腰を曲げなくても、腕に収まるから抱き心地がいい。しかしそれを言うと、一週間口を聞いてくれない。

 それは非効率のため、言わないことにしている。
 黒髪でサラサラな俺とは違い、少し明るめのブラウンの髪色だ。黒髪もよかったが、この色もいい。

 後頭部が、黒くなってきているな。俺のメガネに当たってくすぐったいが、寒いから抱きついている。
 瞳は切れ長の俺とは違い、ぱっちり二重である。俺の世話があると、スカウトも断っていた。

 俺の方を向くと、見上げる形になった。伶依の体温も香りも、俺にはどんな食べ物よりも好物なのである。

「クンクン……クッキー……これは、イチゴジャム? ……違うな……ブルーベリーか」
「……鼻いいな」
「どうしたんだ? お前、ブルーベリー苦手だろ」
「貰った」

 伶依から、何やらいい匂いがする。シャンプーではないし、制汗剤でもない。
 こいつは、フルーツ系統は使わない。俺が嗅ぐと、お腹を空かせるからだ。

 少し、論点がズレてしまった。この香りは、お菓子だな。
 クッキーのようだが、ブルーベリーは酸味があるから食べないと言っていた。
 伶依は呆れながらも、微笑んでいる。それよりも、誰からもらったのかが最重要事項だ。

「……誰から」
「ああ、小林から……って、勝手に食べるな!」
「お前が貰っても、捨てることになる。それは、非常に非効率で」
「分かったから……食べるのはいいが、ココア飲めよ。喉に詰まるぞ」
「分かった」

 俺が聞くと、伶依は袋からクッキーを取り出した。俺の口元にきたため、口に入れる。
 クッキーの甘みと、ブルーベリーの酸味が非常に最高だ。しかし、口の中の水分が持っていかれてしまう。

 美味しいが、そこが難点だな。ココアを渡されたため、口の中が程よくなった
 クッキーをくれたのは、小林という女子である。こいつと同じ学部で、いつも行動を共にしている。

 迂闊に異性から、食べ物を貰うな。変に勘違いされ、俺よりも優先順位が下がると困る。
 俺の部屋の片付けや、食事の準備が誰がやるんだ。俺がやると却って散らかるため、非効率だ。

「ふんっ……まだ終わらないのか」

 午後の講義が終わり、俺は廊下で伶依を待っていた。周りの邪魔にならないように、壁に寄りかかっている。
 早く帰って、ご飯を食べたい。伶依の作るものは、全てが絶品だ。

 俺の好みの味付けを熟知しているため、文句のつけどころがない。例え好みではなくても、美味いんだよな。
 あいつの飯を食べるようになって、半年が経過した。数キロ太ってしまったのは、黙っておこう。
 ダイエットと言われ、おかずが一品減るのは非効率だ。あー、早くあいつの飯が食べたい。

「東雲くん」
「小林か」
「不機嫌そうだね〜どうしたの?」
「……別に」
「あっ、もしかして〜クッキー?」

 小林に声をかけられて、楽しい気分が台無しになった。俺は思わず、睨んでしまった。
 メガネをクイっと上げ、腕を組んだ。小林は、特に気にもせずに話しかけてくる。

 小林には彼氏がいる。廊下で、よく腕を組んで歩いているのを見かける。
 恋人など、自分の時間を削られるだけだ。俺には、必要ない。

 俺には伶依がいるからな。

 顔を覗き込むようにして、ニコニコして聞いてきた。こいつ、彼氏がいながら伶依に声をかけたのか。
 クッキーが苦手だから、あいつは俺に渡してきた。なんか、胸の奥がムカムカしてくる。

 もしやあのクッキーに、何か入っていたのか? しかし一般的な、クッキーの材料だった。
 何より、あのブルーベリージャムが絶品だった。何度でも、食べたい。

「美味しかった?」
「ああ……まあ、食べられる程度だった」

 小林に声をかけられて、我に返った。俺は、失礼なことを考えしまった。
 別にクッキーに重たい理由など、あるはずがない。折角くれたのに、最低なことだ。

 心の中だけで、謝っておこう。この度は、大変失礼致しました。
 これで問題なく、話を進められる。美味しかったか? と聞かれ、そっけない態度をとってしまう。

 正直、お店に出していいレベルだった。焼き加減が、絶妙だった。
 自分で作れないのが、少々な難点だ。彼氏持ちの子に、お願いする訳にもいかないからな。

 惜しいが、致し方ない。まあまたもらえることも、あるだろう。
 その時は、褒めてあげなくもない。かなり、評価しよう。

「そっか〜なら、美味しかったんだね〜」
「なぜ、そうなる」
「城島くんが言っていたんだけど〜東雲くんが、メガネをクイっと上げる仕草をする時はツンデレだって〜」
「そ、そうか」

 小林は、俺の言葉が聞こえていないのだろうか。ニコニコしていて、何を考えている。
 少し警戒していると、俺の心を読んでいるみたいだ。伶依が、俺のことを話していたらしい。

 そうか、なら良しとしよう。自分でも気づかなかったが、そんな癖があったのか。
 あいつは、俺自身よりも知っているようだ。自分でも分かるぐらいに、顔がニヤけてしまう。

「クッキーあげた時ね、城島くん怖かったんだよ」