十人一色 ─トランスジェンダーをかかえたふたり─


 数学の授業中……先生が黒板に数式を書く音と、生徒たちがノートにシャーペンを走らせる音だけが聞こえる静かな教室に、突如暴れん坊将軍のテーマが響き渡った。

 途端に教室は笑いの渦に包まれる。

「誰だー。携帯はマナーモードにしとけと言っただろう」

 先生が教室を見渡す。

「す、すみません、すぐ切ります!」

 和香はカバンに手を突っ込んで、手探りで電源ボタンを探り電源を切る。

 マナーモードにし忘れたことを心の底から悔やんだ。

 何事もなかったかのように授業は再開されて、授業の終わり、隣の席の女子に声をかけられた。

「さっきのマジ笑ったんだけど! なんで暴れん坊将軍なんて着メロにしてんの?」

 どうしよう、話しかけられたけどこの子の名前はなんだ?

 同じ中学から来たらしい子たちとワイワイ喋ってる明るい子、ということだけ認識している。

 中学時代のブレザー制服を改造して着ているのが、すごく似合っている。

「……む、昔、おじいちゃんと観てたから。メールが暴れん坊将軍で、電話は水戸黄門」

 およそ女子の趣味ではない自覚はある。

 青春恋愛ドラマよりも時代劇。

 少女向けアニメよりも戦隊ヒーロー。

 小学生や中学生のとき変だと言われたことがあるから、高校では隠そうと思っていたのに。

 早々に趣味がバレてしまった。

「あははは。ほんと面白い。えっと、たしか水沢、和香さんだっけ」

「あなたは?」

「わたし希沙(きさ)。ねぇ、和香は〜」

 希沙は昔なじみの友だちかのようなノリで話し始めてしまった。

 ついでに教室内にいる、同じ中学出身の子を呼んで紹介される。

 人類みな友だちというくらい底抜けに明るいな。

 和香はおおいに戸惑った。

 それに、あることに気づいてしまってどうしようもなく背筋がゾワゾワした。