「瑠夏さんは、大学、東京なんですよね」
「うん。昨日こっちに戻ったところ」
「夏休み中はずっといるんですか?」
「八月の終わりまでは。そのあと東京に戻るよ」
八月の終わり。まだ七月で、その頃のことなど随分先に感じられた。
「大学って楽しいですか?」
訊いてから、進路希望調査のことを考えている自分に気づいた。
瑠夏はすぐには答えず、炭酸水のボトルを膝の上で転がしている。
「楽しい日もあるよ。面倒な日もあるし、東京に出てきてよかったと思う日も、地元にいた方が楽だったかなって思う日もある」
「もっと、大学に入ったら楽しいものだと思ってました」
「僕は急に大人にはならなかったな」
少し笑いながら言う。
「高校を出たら人生のことが分かるようになると思ってた?」
「そこまでは……でも、今よりは決まってるのかなって」
「僕は全然」
「大学は自分で選んだんですよね?」
「一応は」
「そこに行きたかったから?」
「行ってみたいとは思ったよ。でも、それが一番よかったかは今でも分からない」
沙波は思わず瑠夏を見る。
進路は、一度選べば答えが出るものだと思っていた。合格したらそこへ行き、卒業したらその先へ進む。もちろん途中で迷う人もいるのだろうが、少なくとも大学を選んだ人は、自分なりの正解を一つ見つけたのだと思っていた。
「怖くないですか」
「何が?」
「あとから、違ったって思ったら」
「怖いよ。お金も掛かってるし」
現実的な返事に、沙波は少し拍子抜けした。
「でも、ほかの大学へ行った僕がどうなってたかは確かめられないから、結局比べようがないんだよね」
「じゃあ、どうするんですか?」
「どうするんだろう」
「私に聞かれても」
「ごめん」
瑠夏は笑ってから、少し考えた。
「違うと思ったら、その時の僕が考えるしかないんじゃないかな。辞めるかもしれないし、そのまま卒業するかもしれないし」
「未来の自分任せですね。信用してるんですか?」
「してないから、ちょっと困ってる」
今度は沙波が声を立てて笑い、それにつられるように瑠夏も笑った。
何でも自分で決め、迷わず進める人ではないのだ。むしろ沙波と同じように分からないことを抱え、そのたびに確かめながら進んでいるだけなのかもしれない。
「沙波は、大学へ行くの?」
しばらくして、今度は瑠夏から尋ねられた。
「行くと思います」
「そっか」
それだけで話が終わりそうになり、沙波は自分から続けた。
「父も母も、大学くらいは出た方がいいって言っていて。将来の選択肢も増えるし、クラスのみんなもだいたい進学するので」
「うん」
「だから、たぶん」
瑠夏は何も言わなかった。
大学へ行った方がいいとも、行かなくてもいいとも言わず、炭酸水を飲んでいる。
その沈黙が気になり、沙波の方から尋ねた。
「何も言わないんですか?」
「何を?」
「大学へ行った方がいいとか、行かなくても大丈夫とか」
「僕、そんなこと分からないよ」
「でも瑠夏さんは大学生でしょう?」
「僕の大学のことなら話せるけど、沙波がどうしたらいいかは分からない」
「じゃあ、私はどうしたらいいんですか」
言ってから、自分でもおかしくなった。
昨日は両親から将来について言われることが窮屈だったのに、今度は出会ったばかりの人へ、どうすればいいのかと尋ねている。
瑠夏はしばらく黙っていたが、少しして困ったように笑った。
「うん。昨日こっちに戻ったところ」
「夏休み中はずっといるんですか?」
「八月の終わりまでは。そのあと東京に戻るよ」
八月の終わり。まだ七月で、その頃のことなど随分先に感じられた。
「大学って楽しいですか?」
訊いてから、進路希望調査のことを考えている自分に気づいた。
瑠夏はすぐには答えず、炭酸水のボトルを膝の上で転がしている。
「楽しい日もあるよ。面倒な日もあるし、東京に出てきてよかったと思う日も、地元にいた方が楽だったかなって思う日もある」
「もっと、大学に入ったら楽しいものだと思ってました」
「僕は急に大人にはならなかったな」
少し笑いながら言う。
「高校を出たら人生のことが分かるようになると思ってた?」
「そこまでは……でも、今よりは決まってるのかなって」
「僕は全然」
「大学は自分で選んだんですよね?」
「一応は」
「そこに行きたかったから?」
「行ってみたいとは思ったよ。でも、それが一番よかったかは今でも分からない」
沙波は思わず瑠夏を見る。
進路は、一度選べば答えが出るものだと思っていた。合格したらそこへ行き、卒業したらその先へ進む。もちろん途中で迷う人もいるのだろうが、少なくとも大学を選んだ人は、自分なりの正解を一つ見つけたのだと思っていた。
「怖くないですか」
「何が?」
「あとから、違ったって思ったら」
「怖いよ。お金も掛かってるし」
現実的な返事に、沙波は少し拍子抜けした。
「でも、ほかの大学へ行った僕がどうなってたかは確かめられないから、結局比べようがないんだよね」
「じゃあ、どうするんですか?」
「どうするんだろう」
「私に聞かれても」
「ごめん」
瑠夏は笑ってから、少し考えた。
「違うと思ったら、その時の僕が考えるしかないんじゃないかな。辞めるかもしれないし、そのまま卒業するかもしれないし」
「未来の自分任せですね。信用してるんですか?」
「してないから、ちょっと困ってる」
今度は沙波が声を立てて笑い、それにつられるように瑠夏も笑った。
何でも自分で決め、迷わず進める人ではないのだ。むしろ沙波と同じように分からないことを抱え、そのたびに確かめながら進んでいるだけなのかもしれない。
「沙波は、大学へ行くの?」
しばらくして、今度は瑠夏から尋ねられた。
「行くと思います」
「そっか」
それだけで話が終わりそうになり、沙波は自分から続けた。
「父も母も、大学くらいは出た方がいいって言っていて。将来の選択肢も増えるし、クラスのみんなもだいたい進学するので」
「うん」
「だから、たぶん」
瑠夏は何も言わなかった。
大学へ行った方がいいとも、行かなくてもいいとも言わず、炭酸水を飲んでいる。
その沈黙が気になり、沙波の方から尋ねた。
「何も言わないんですか?」
「何を?」
「大学へ行った方がいいとか、行かなくても大丈夫とか」
「僕、そんなこと分からないよ」
「でも瑠夏さんは大学生でしょう?」
「僕の大学のことなら話せるけど、沙波がどうしたらいいかは分からない」
「じゃあ、私はどうしたらいいんですか」
言ってから、自分でもおかしくなった。
昨日は両親から将来について言われることが窮屈だったのに、今度は出会ったばかりの人へ、どうすればいいのかと尋ねている。
瑠夏はしばらく黙っていたが、少しして困ったように笑った。


