夏にほどける

 その夜、沙波は好きなもののノートを開いた。
 何頁か進んだ紙には、この夏に見つけたものが、順番も種類もばらばらに並んでいる。
 沙波は新しい頁へ日付を書き、その下へ「――まだ決めないこと。」と記した。少し考えてから、さらに一行を続ける。

 ――誰かの話を聞いて、自分で考え直すこと。

 さらにその下へ、

 ――帰る場所があって、会いたい人がいること。

 「会いたい人」と書いたところでペンが止まり、瑠夏の顔が浮かぶ。三十一日までは、あと六日だった。
 その数字を考えるだけで、せっかく軽くなった気持ちがまた狭くなる。
 沙波はスマートフォンを手に取った。

《あと何日、図書館行きますか》

 送ってから少し露骨だったかと思った頃、返信が届いた。

《明日と、たぶん二十八日。あとは原稿次第かな》
《二日だけ?》

 送ってしまってから、子どものような聞き方だったと後悔した。

 瑠夏からは、

《会いたい?》

 と返ってくる。

 画面を見つめたまま、沙波は頬が熱くなるのを感じた。
 誤魔化す言葉はいくつも思いつく。
 完成する前の小説の進み具合が気になるから。本を返したいことも、夏休みが終わる前にもう一度話したいことも、どちらも嘘ではなかった。
 けれど今、問われているのはもっと簡単なことだった。