「僕は今、沙波と一緒にいて楽しいけど」
思いがけない言葉に、沙波は瞬きをした。
「何も話してないですよ」
「うん」
「私、ほとんど黙ってたのに」
「それでも」
「どうして?」
「同じところにいて、僕は本読んで、沙波は休んでる。それで別に困ってないから」
沙波は返事を失った。
瑠夏は何か特別なことを言ったつもりもないらしく、膝の上の本へ視線を戻している。
「瑠夏さんは、友達といる時もこんな感じなんですか」
「こんな感じって?」
「黙ってても平気というか」
「人によるかな。話す時は話すし」
「明るくしようとか思わない?」
「思ったことない」
瑠夏は少し笑う。
「僕、そんなに明るく見える?」
「……見えませんね」
「でしょう」
沙波も笑った。公園の芝生に寝転がって空を見ていたり、一人で図書館へ来て小説を書いたりする人である。友人の中心に立って場を盛り上げる姿は、確かに想像しにくい。
「でも、瑠夏さんはそれで平気なんですよね」
「今はね」
「昔は違ったんですか」
瑠夏の指が、ページの端で止まる。
「高校の頃は、もう少し気にしてたかも」
「何を?」
「普通にしてた方が楽だなって」
「普通にしてた方が楽だった」という瑠夏の言葉に、沙波は身体を起こした。
「瑠夏さんも?」
「僕だって人間だから」
「そういう意味じゃなくて」
瑠夏は笑ってから、少し遠くを見るような目をした。
「小説を書いてるって、学校ではほとんど言わなかったって話したでしょう」
「はい」
「それと同じ。別に隠したいわけじゃないのに、説明するのが面倒だから言わない。みんなが笑ってる時は笑って、誘われたら都合が悪くなければ行く。そうしてる方が、いちいち自分のことを説明しなくて済んだから」
「それ、今の私と似てません?」
「そうかもね」
意外だ。瑠夏は最初から、自分の好きなものを迷わず選べる人なのだと思っていた。
「どうして変わったんですか」
「大学に入ったから、というのもあるかな」
「環境が変わったから?」
「それもあるけど、高校を卒業してみたら、思ってたより何も残らなかった」
「何も?」
「全員に嫌われないようにしてたこととか、誘いをなるべく断らなかったこととか。あの時は大事だと思ってたけど、卒業したら連絡を取らなくなる人も普通にいたし」
瑠夏は穏やかに話しており、誰かを恨んでいる様子もなかった。
「もちろん今も会う友達はいるよ。でも、その人たちって、僕が誘いを断ったくらいでいなくならなかった人たちなんだよね」
沙波は今日の友人たちを思い出す。
海へ行かなかった自分を、彼女たちは今日もカラオケへ誘った。途中で帰ると言っても、引き留めなかった。
「私、勝手に怖がってたのかな」
「何を?」
「みんなと同じことをしなくなったら、一人になるんじゃないかって」
瑠夏はすぐに否定しなかった。
「そうなることもあると思う」
「あるんですか」
「あるでしょう。人間関係だから」
「そこは大丈夫って言ってくれないんですね」
「大丈夫じゃなかった時、僕が責任取れないから」
瑠夏らしい答えに、沙波は苦笑する。
「でも、同じことをしてないと続かない関係なら、ずっと同じことをし続けるしかなくなるよ」
沙波は黙った。
高校を卒業すれば、進学する人も就職する人もいるし、同じ大学へ進んだところで、学部が違えば生活も変わる。恋人ができたり、引っ越したり、働き始めれば休日さえ合わなくなったりするのだから、ずっと同じ形のままではいられない。
思いがけない言葉に、沙波は瞬きをした。
「何も話してないですよ」
「うん」
「私、ほとんど黙ってたのに」
「それでも」
「どうして?」
「同じところにいて、僕は本読んで、沙波は休んでる。それで別に困ってないから」
沙波は返事を失った。
瑠夏は何か特別なことを言ったつもりもないらしく、膝の上の本へ視線を戻している。
「瑠夏さんは、友達といる時もこんな感じなんですか」
「こんな感じって?」
「黙ってても平気というか」
「人によるかな。話す時は話すし」
「明るくしようとか思わない?」
「思ったことない」
瑠夏は少し笑う。
「僕、そんなに明るく見える?」
「……見えませんね」
「でしょう」
沙波も笑った。公園の芝生に寝転がって空を見ていたり、一人で図書館へ来て小説を書いたりする人である。友人の中心に立って場を盛り上げる姿は、確かに想像しにくい。
「でも、瑠夏さんはそれで平気なんですよね」
「今はね」
「昔は違ったんですか」
瑠夏の指が、ページの端で止まる。
「高校の頃は、もう少し気にしてたかも」
「何を?」
「普通にしてた方が楽だなって」
「普通にしてた方が楽だった」という瑠夏の言葉に、沙波は身体を起こした。
「瑠夏さんも?」
「僕だって人間だから」
「そういう意味じゃなくて」
瑠夏は笑ってから、少し遠くを見るような目をした。
「小説を書いてるって、学校ではほとんど言わなかったって話したでしょう」
「はい」
「それと同じ。別に隠したいわけじゃないのに、説明するのが面倒だから言わない。みんなが笑ってる時は笑って、誘われたら都合が悪くなければ行く。そうしてる方が、いちいち自分のことを説明しなくて済んだから」
「それ、今の私と似てません?」
「そうかもね」
意外だ。瑠夏は最初から、自分の好きなものを迷わず選べる人なのだと思っていた。
「どうして変わったんですか」
「大学に入ったから、というのもあるかな」
「環境が変わったから?」
「それもあるけど、高校を卒業してみたら、思ってたより何も残らなかった」
「何も?」
「全員に嫌われないようにしてたこととか、誘いをなるべく断らなかったこととか。あの時は大事だと思ってたけど、卒業したら連絡を取らなくなる人も普通にいたし」
瑠夏は穏やかに話しており、誰かを恨んでいる様子もなかった。
「もちろん今も会う友達はいるよ。でも、その人たちって、僕が誘いを断ったくらいでいなくならなかった人たちなんだよね」
沙波は今日の友人たちを思い出す。
海へ行かなかった自分を、彼女たちは今日もカラオケへ誘った。途中で帰ると言っても、引き留めなかった。
「私、勝手に怖がってたのかな」
「何を?」
「みんなと同じことをしなくなったら、一人になるんじゃないかって」
瑠夏はすぐに否定しなかった。
「そうなることもあると思う」
「あるんですか」
「あるでしょう。人間関係だから」
「そこは大丈夫って言ってくれないんですね」
「大丈夫じゃなかった時、僕が責任取れないから」
瑠夏らしい答えに、沙波は苦笑する。
「でも、同じことをしてないと続かない関係なら、ずっと同じことをし続けるしかなくなるよ」
沙波は黙った。
高校を卒業すれば、進学する人も就職する人もいるし、同じ大学へ進んだところで、学部が違えば生活も変わる。恋人ができたり、引っ越したり、働き始めれば休日さえ合わなくなったりするのだから、ずっと同じ形のままではいられない。


