俺と両親は最低限の食事と会話だけをする。預けられた保育園で常識を学び、家族としてのコミュニケーションをほとんど取らなかった。足りないことばかりを見て学ぶ。繰り返せば、真っ当な人間の形に見えてくる。
けれど、他人と比較すれば、浮き彫りになる小さな歪み。
いつも俺は「楽しい」がわからない。
わからないなりに不格好に似せて笑顔を作った。冷や汗をかきながら、バレやしないか心臓が張り裂けそうなほど怯えていた。完璧な笑顔とは程遠い表情を鏡で見る度、気落ちし、ぞわりと恐怖が膜をもって包んでいくようだった。
けれど、それも数をこなせば完成度は増していくようで、ちゃんとみんな騙されてくれた。でもきっと、子供の間だけだ。みんな幼稚だから騙されてくれるんだ。そんな焦りはぬぐい切れない。
目元を腫らし、ぽたぽたと涙を流す女の子の弱さ。誰かのせいにして、先生の怒りの矛先を必死に逸らそうとする狡さ。そういった行動の意図を理解できても、本能的になぜそんなことをする必要があるのかを、理解することが俺には難しかった。
人と比べれば感情の未発達さは明白で、指をさして「こいつはおかしい」炙り出されることばかりに怯えていた。
だって俺にはわからないから。
なぜ大きな声を上げて走り回って、相手を追い回すのか。それが遊びだと言われたところで、納得がいくほど俺は人間を理解していなかった。その時はうっすらと希死念慮が芽生えていた。
年を増すごとに、他人がひたすらに高性能のマシンのように思えた。差異は開くばかりなのに、上手に騙されてくれるのが何より怖い。その仕組みもその無関心さも、本当は気づいていて、騙されているのは俺なんじゃないかと猜疑心ばかり芽生えていた。
臆病さから、発育の本を読み漁れば、生後五歳までに様々な経験をさせなければ、感情の神経が広がらず、感情が発達しないことを知った。
恨めしい。こいつらが真っ当に俺を育てなかったから、俺はこんなに怖い思いをしているのか。
人の輪の中で生きるしかない絶望。かごめかごめで、囲われた中で後ろの正面誰だ! と閉め出されるその時を待つしかない。
しかし、ひょんなことがきっかけで、そんな俺の臆病さは崩壊する。どこにでもある同級生のいじめがきっかけで。
臆病なしぐさと丸まった猫背が印象的で、どこか虚ろな目をしたその彼女、嘉村 沙月は、いじめの標的にされた。いつも口をぎゅっと結んで、目元が痙攣するように震えているイメージしか今もない。
最初は、ものを隠される。私物を捨てられる。無視される、なんて典型的ないじめだったのに、だんだんとその悪意はエスカレートしていく。
悪意に染まる人たちの目は、新興宗教で狂った隣のおばさんに似ていた気がする。何かに快感を覚えて、いけないとわかっていても自身さえ騙して、酔狂していく様。
他人事だ。いじめをするクラスメイトも、傍観する俺も。堕ちていく様は哀れに思えるのに、俺は彼女を救おうとはしなかった。一番、閉め出されることに怯えているのに、友人でもない彼女を助けるなんてできなかった。
正義感ってなんだ。それで自分が満たせるのか。満たす正義感は偽善なのか。何もわからないし、知りたくなかった。
次第に、彼女はトイレを使うことを禁じられ、いじめる女子たちにトイレに行くことを邪魔されるようになった。トイレに駆け込もうとするたび、邪魔されて突き飛ばされて、彼女は限界を迎えた。
「あっ、ううっ」
冷や汗をかき、耐えるような呻きを上げ、彼女は座り込んでしまった。頬には汗をかき、赤らんだ頬がどんどんと青くなっていく。
「トイレにいかせ……て」
息も絶え絶えで、長い前髪の中の瞳が揺れる。潤んだ眼が、悩まし気な眉が、上がる息がどこか色っぽく、来るものがあった。
彼女の色白の肌が赤く染まって、悩まし気な息遣いにドキドキした。それは俺だけではなく、その場にいた全員がそうだった。彼女がいじめられる原因になった一つに、その目を引く容姿も一因としてあったのだ。彼女の目は大きく、真っ黒な瞳は澄んだ夜の色をしていた。静かに笑う声はどこか上品さもあり、その指先の動きまで目で追ってしまうほどに、洗練され、お淑やかだ。
それでも彼女はいつも自身がなさげにうつ向きがちで、その隙が余計に嗜虐心をくすぐっていた。
「おね……がい……。お願い……そこをどいて」
苦し気な吐息。赤い頬、蒸気の上がるような肌の質感。周りの変な息遣いと人間の熱気が、じとりと肌にまとわりつく。うめき声が、その赤らんだ頬が、その煽情的に潤む目が。
俺は静かに彼女の道に立ちはだかるいじめっ子たちを、突き飛ばした。
「ほら、早く行きなよ」
「……うん」
うめくような声で返事し、顔をゆがめても、それすら美しく、どこから見えても心が震える。
「何するのよ」
「女子トイレにまで入ってきて、変態」
「何が変態だよ。お前らの方がよっぽどやってること変態だろ」
その時の俺は、憎悪が渦巻いていた。
まともな家族とまともな教育を受けて、恵まれているくせに、どうしてこれほどまでに歪むのか。俺が正しくあろうとする、苦しみも知りもしないくせに、不平不満を口にして偉そうにほざくその姿に、俺は「死ねばいいのに」と声に出していた。
「気持ち悪い!」
「あんたが死ねばいいのよ」
そういった瞬間、俺は目の前の女子を本気で殴った。拳とほほ骨がゴツンと当たる音が響いて彼女が口から血を吐き、その血の中に白い歯が混じっているのが見えた瞬間、悲鳴が聞こえた。
一人が叫んだかと思うと、悲鳴は伝染し、殴った女子をかばうように立たせると、みんな逃げていく。
何が怖いんだか。今まで俺に散々、秀でたものの、優遇されて、愛されたものの幸せを見せつけてきたやつらが。
その時、初めて気づいたのは、俺が感じていた恐怖は激しい憎悪と怒りだったこと。恨めしい、初めから用意されていた、幸せになるための列車に乗れる切符。それを持っている奴らが、人からそれを略奪して、奪うさまが。憎かったのだ。
怒りで頭が沸騰しそうになりながらも、自分の顔を抑えた。
口元は醜くゆがみ、頬に伝う涙が止まらない。奥歯がカタカタと鳴り、恐怖で膝が笑っていた。
俺は今、無茶苦茶な表情をしている。
心の奥底に何一つ、理解してあげられない虚しさが、面積を増していく。どこかの本で読んだことがある。生きていない人間の話だ。この世の中には魂のない人間がいるという。オーガニックポータル。まるで都市伝説のような話だ。魂のない人間は自分の生まれた意味が分からないんだそうだ。
その話を聞いたとき、真っ先に自分がそうだと思った。自分が生きている理由どころか、自分は周りの人間の行動のすべてが本能的に感じることができても、何一つもわからないのだ。
それが恐ろしく、まるで自分を含めた人間すべてが、魂のない機械のように感じた。それは一人ゾンビ映画の中に閉じ込められるより、恐ろしく身震いの絶えない事実だった。そう、俺はいずれ死ぬつもりだった。勧められた小説を読んで、この部分が面白かった。この主人公に共感したと話されたところで、俺にはおおよそ共感なんてないのだ。
俺が欠陥品だから、俺が恐ろしく壊れた人間だから、何も感じない。何も得られない。何もかもが嘘で埋め尽くされ、心を刺すのは羨望と嫉妬。
死んでしまいたかったんだよ、もうずっと前から。この嘘ばかりつくこの口が。思ってもないのに、この目に見える景色を、綺麗だという口が。本当のことを何一つ語ろうとしない。受け入れられないと決めつけて、この恐ろしい無感情に一人で立ち向かわないといけない孤独と悲しみが。誰か一人でいいから、俺の心を動かしてほしかった。全部、それは自分本位で他人に対する優しさなど一つもないのに。
「気持ち悪い……」
トイレから出てきた嘉村さんがポツリと、そういった瞬間、俺はもう戻れないのだと悟った。
次の日から、いじめの標的は俺に変わった。
私物を隠され、無視をされる。でもその頃の俺は、私物を探したりなんかしなかった。こそこそと陰で笑うクラスメイト達に近づいて、手をひねり上げ、壁に押さえつけた。
淡々とした作業、何も感じない。悲鳴を上げるクラスメイトたちと、青い顔をして押さえつけられる主犯格の女子、田部。
「骨を脱臼させるのって、どうするか知ってる?」
「えっ」
主犯格の女の子の肩を強く外側に引っ張りながら、俺は話し続けた。骨の継ぎ目をあとは思い切り――。
その刹那、悲鳴が教室に叫び声がこだまする。高すぎる声に耳を傷めながら、俺は彼女の脱臼させた方の肩を足で、汚物みたいに踏んでみる。
女の子はじたばたとひきつけを起こし、口から泡のようなものを吐き出し始めた。苦痛をごまかすためなんだろう、動く足だけをバタバタと動かして、激痛を逃がすようにもがいている。
「肩をひねった状態で、外側に強く引っ張るんだ。今の状態ならやりやすいね」
冷静にそう言っても聞きやしない。呆れて、俺はそっと主犯格の女の顔をこちらに向かせる。
「ばーか」
その有象無象の中で、一人だけ俺を違った目で見る人がいた。佐倉 ハル、その人だった。
のたうち回っている主犯格が、気絶したのか動くのをやめ、浅い息を繰り返すようになってから、俺は我に返ってその場を逃げ出した。
別に先生に怒られるからとかじゃない。両親に怒られるとかでもない。
彼女にあれ以上、見つめられるのが怖かったからだ。心臓よりも心よりももっと奥の方に眠る。知りたくない感情がずるりずるりと引きずり出されて。
苦しくてたまらない。
孤独には慣れている。ガラス戸に雨が吹き付けて、なでるように落ちていく様をみていた。一人が寂しいと思ったことはない。雨粒を叩きつける窓に背を任せ、うつむいたまま立っていた。
水滴の青い影が、流れ落ちるのが映る。寂しいと思うのは、この世界で指をさされてお前は異常者だと弾き出される時だけだ。
他は寂しくない。誰の目にこの姿が映らなくても、きっと寂しくない。
遠くの方から誰かが走ってくる足音が聞こえる。長い廊下で足音が反響して、複数人が俺を囲むように近づいてくる。
「先生、いた! あいつがやったんです」
クラスメイトが指をさした。いつだってそうだ。ドブ色の眼をしたクラスメイトが攻めるように囲って黙っている。
「どうしてこんなことをしたんだ」
教師は静かにでも、確かな威圧感を放って言った。
「むかついたから」
俺は静かにそういうと、俯いた。
「むかついたら、クラスメイトを傷つけていいのか?」
俺はすべてを話してしまおうかと少し躊躇し、口を開こうとした瞬間。
「違います。八坂くんはやり返しただけです」
庇うような言葉を発した相手は、佐倉ハルだった。
「いじめようとしてきた人にやり返して何が悪いんですか?」
ハルはさらに言葉を加える。
「本当なのか?」
真偽を問うように、先生は俺の方を見た。その目は少し歪んで、面倒なことになったと揺らいでいた。
俺は黙ったまま、視線を逸らす。
「でも、どう考えたってやりすぎだ」
クラスメイトの三坂が非難の声を上げる。それは波紋となって同調を生み、他のクラスメイトたちもまばらに声を上げる。同調圧力に屈するように、ためらいながらも白は黒にひっくり返る。
いつも自己保身に走りたがる。自身でさえそうだった。保身しか見えていないその目で正しいを何度見落としてきたのか。一瞬、目を閉じて虚しさを抱く。
「多勢に勝つには、圧倒的な力でねじ伏せるしかない」
呼吸を繰り返し、落ち着いてから瞼を上げた。目に映るすべてに吐き気がする。夕闇が近づいている。クラスメイト達の表情が見えず、口元だけがせわしなく動いているのが不気味だった。
眉を吊り上げた有象無象は悪霊のようだ。
荒い呼吸の凶暴な自分を、必死に隠す飼い犬。けれど、それも理性を失えば、獰猛な野獣でしかない。
「お前ら、俺があそこで生ぬるい威嚇でもしようものなら、嘉村さんみたいにいじめをエスカレートしてないか? それにお前らのいじめは、集団暴行だっただろ」
俺はそっと三坂に近づき、耳元で告げてやる。
「お前、さっきから口が笑ってんだよ」
そういった瞬間、三坂はとっさに口を隠した。隠した瞬間、顔に血が上っていく。赤く染まるその顔は恥を自覚したのだろう。
三坂は濁った怒声を上げ、俺を殴りつけた。
不意を突かれたことで、よろけた。けれど、殴られてやる。やり返すことはない。わかりやすいんだ。最初に手を上げたやつが悪で、最後まで手を上げなかった奴が善だと。
きちんとレールを敷いてこちらに引き込みやすい下地を作る。だから多少の痛みを受け入れてやる。
鼻血が三坂の拳についたところで、三坂はハッとした表情を浮かべる。拳についた血がまざまざと事実を突きつける。自分が悪いことをしたと。
この後に起こることに怯えたのだろう、唸り声をあげて、現実を否定するように俺を突き飛ばした。
廊下の壁に腰を打ち付けた俺は、痛みによろめく。ハルはそんな俺のそばまで来ると肩を貸してくれた。
「大丈夫か?」
「ああ。大丈夫」
助けてくれたハルを見上げると、少しこそばゆい感じがした。その中世的で整った容姿の彼が、周りににらみを利かせた。吊り上がった眉、恐ろしいほどに冷徹に見える眼光にぞわりと鳥肌が立った。
ハルは先生に向かって言い放つ。
「なぁ、先生。あんた、生徒が殴られているのに、何ぼんやり見てんだよ。みんなそうだよな? 嘉村さんがいじめられた時も、いじめていた主犯格の田部さんが殴られていても、お前らいつもそうやって、見ているだけじゃないか」
傍観者は黙るしかない、事実だからだ。言い返す隙などない。
「なぁ、明菫。お前、本当は寂しいんだろう。誰とも気安く関われなくて、心の内を誰にも言えなくて」
そういわれた瞬間、頬に熱を感じた。これは恥ではない。この感情は何か俺は知らない。言葉を紡ごうとすればするほど、舌がから回る。
熱い血をこぼしているのかと思った。喉の奥が痛い。肩が震えて、噛みしめて嗚咽を殺すのに必死だった。俺の頬からは涙がこぼれていた。
ハルは何も聞かないし、言わなかった。肩に優しくおかれた手だけが、彼の感情のすべてだったように思う。
「悪かった」
教師が言った言葉で、事態は収束へ向かった。
そんな出来事があってから、俺の両親は学校に呼ばれた。
さすがに無罪放免とはいかず、親に今回の詳細については報告された。
学校に呼び出され、教師から事情を聞いてた両親は無表情に「きつく言って聞かせます」とだけ。
氷漬けの表情。この親はいつもそうだ。人間の面の皮を張り付けただけの人形。
教室を出た瞬間、両親は話し出した。
「忙しいのに、迷惑だわ」
「そうだな」
抑揚のない声の人形劇の芝居を見ているようだった。彼らは俺を視界に入れない、話しかけもしない。
「いいさ。時間がたてばいなくなってくれる」
「そうね。育ち切れば消えてくれるわ」
「どうせ、期待なんかしていないし」
二人の会話を、遥か後ろから聞いていた。問題を起こす子供はSOSを出すために、家族を困らせるんだとテレビで言っていた。視線がこちらを向くことは、これから先もないのだろう。
お互いしか視界に入らない、腹話術のような気味の悪い家族。窓ガラスに映る学ランの自分は、表情の固まった人形に見えた。なんだ、俺はちゃんとこの家族の一員なのか。失望が心に根差して、虚しさが破裂しそうだった。
その瞬間だった。
「明菫! 今日、俺んち来ない?」
ハルの声が聞こえた。あたりを見渡し、声のする方を探る。どこだ? とあちこちを探したけど、見当たらなくて汗をかいていると、ハルは「ここだよ」と声を張り上げる。
声を上げた瞬間、ハルは俺のところまで息を上げて走り寄ってきた。
「俺んち、今日ピザなんだ。食べに来いよ」
そういったハルを縋るような目で見ていたと思う。
「うん、あ」
ありがとうと言いかけて、言葉が詰まった。喉の奥から出そうでない言葉に戸惑いながら、指で触れる。その瞬間、なぜその言葉を言えないか分かった。
両親がここにいるからだ。恐る恐る怯えながら、視線を両親に向ける。真顔のまま、俺の見る視線はどこか侮蔑に似ていた。無表情なのに、その一瞬の表情だけで声が奪われる。表情が凍り付く。
ああ、同じになれってことか。この両親はきっと俺と同じように育てられたのだろう。なんとなくわかる。彼らはきっと、自分たちの子供時代の恐怖を同じように俺にも擦り付けて、俺を同じ不幸に陥れたい。
それは毎日のように触れ続ける両親の悪意。
震える声帯が声を出せずにいると、ハルは俺の手首をつかんで「マリオカートやろうぜ」とすべてを吹き飛ばしてくれる笑顔で言った。
そして走り出し「おばさん、おじさん、明菫借ります!」と叫ぶと走り出す。その時まで、俺はハルとはただのクラスメイトで、ただの通行人だったのに。
握られた手首が温かい。その体温が自分に移し、熱を持って生を与えた。ハルの後ろ姿は背筋が伸びて、細い短髪から汗が滲んでいた。振り返るハルの安心させるような、柔和の笑みと、すべてを薙ぎ払ってくれる強引な行動に。
しわくちゃに顔をしかめてこらえるのに、無駄だと言わんばかりに頬を伝う涙が熱い。ああ、こんなに熱があったんだ。生きている体温が俺にもあったんだ。そう感じれば、涙はとめどなく、みっともなくあふれて止まらない。
いうしかない。前なんか見えないほど涙で歪んでいるのに、この手を信じていれば、目をつむったって大丈夫だって信じられた。
「……連れ出してくれて。ありがとう」
声が歪む。かすれたお礼だった。耐えられなかった。目につながる神経の線が切れて、とめどない雨に滲む。
気づかないはずがない。乱れた息遣いは涙で濡れているのに、ハルはその口をかたく閉ざしたまま。
彼のその沈黙が心を刺した。痛みを遠ざける麻酔の針をハルが刺してくれた。優しさに他ならないそれが今を耐えるだけの、一時の誤魔化でもかまわない。
今日を越えられるだけの心が欲しかった。ハルが耐えるだけの心をくれた。熱を与えてくれた。笑顔を、喜びを初めて与えてくれた。
俺はハルが好きになった。
それは恋愛や友愛なんて戯れたものとは、ほど遠い。深い執着。愛してるなんてほど重苦しくもない、誰かの幸せを祈ることしかない奥ゆかしい好意だった。
けれど、他人と比較すれば、浮き彫りになる小さな歪み。
いつも俺は「楽しい」がわからない。
わからないなりに不格好に似せて笑顔を作った。冷や汗をかきながら、バレやしないか心臓が張り裂けそうなほど怯えていた。完璧な笑顔とは程遠い表情を鏡で見る度、気落ちし、ぞわりと恐怖が膜をもって包んでいくようだった。
けれど、それも数をこなせば完成度は増していくようで、ちゃんとみんな騙されてくれた。でもきっと、子供の間だけだ。みんな幼稚だから騙されてくれるんだ。そんな焦りはぬぐい切れない。
目元を腫らし、ぽたぽたと涙を流す女の子の弱さ。誰かのせいにして、先生の怒りの矛先を必死に逸らそうとする狡さ。そういった行動の意図を理解できても、本能的になぜそんなことをする必要があるのかを、理解することが俺には難しかった。
人と比べれば感情の未発達さは明白で、指をさして「こいつはおかしい」炙り出されることばかりに怯えていた。
だって俺にはわからないから。
なぜ大きな声を上げて走り回って、相手を追い回すのか。それが遊びだと言われたところで、納得がいくほど俺は人間を理解していなかった。その時はうっすらと希死念慮が芽生えていた。
年を増すごとに、他人がひたすらに高性能のマシンのように思えた。差異は開くばかりなのに、上手に騙されてくれるのが何より怖い。その仕組みもその無関心さも、本当は気づいていて、騙されているのは俺なんじゃないかと猜疑心ばかり芽生えていた。
臆病さから、発育の本を読み漁れば、生後五歳までに様々な経験をさせなければ、感情の神経が広がらず、感情が発達しないことを知った。
恨めしい。こいつらが真っ当に俺を育てなかったから、俺はこんなに怖い思いをしているのか。
人の輪の中で生きるしかない絶望。かごめかごめで、囲われた中で後ろの正面誰だ! と閉め出されるその時を待つしかない。
しかし、ひょんなことがきっかけで、そんな俺の臆病さは崩壊する。どこにでもある同級生のいじめがきっかけで。
臆病なしぐさと丸まった猫背が印象的で、どこか虚ろな目をしたその彼女、嘉村 沙月は、いじめの標的にされた。いつも口をぎゅっと結んで、目元が痙攣するように震えているイメージしか今もない。
最初は、ものを隠される。私物を捨てられる。無視される、なんて典型的ないじめだったのに、だんだんとその悪意はエスカレートしていく。
悪意に染まる人たちの目は、新興宗教で狂った隣のおばさんに似ていた気がする。何かに快感を覚えて、いけないとわかっていても自身さえ騙して、酔狂していく様。
他人事だ。いじめをするクラスメイトも、傍観する俺も。堕ちていく様は哀れに思えるのに、俺は彼女を救おうとはしなかった。一番、閉め出されることに怯えているのに、友人でもない彼女を助けるなんてできなかった。
正義感ってなんだ。それで自分が満たせるのか。満たす正義感は偽善なのか。何もわからないし、知りたくなかった。
次第に、彼女はトイレを使うことを禁じられ、いじめる女子たちにトイレに行くことを邪魔されるようになった。トイレに駆け込もうとするたび、邪魔されて突き飛ばされて、彼女は限界を迎えた。
「あっ、ううっ」
冷や汗をかき、耐えるような呻きを上げ、彼女は座り込んでしまった。頬には汗をかき、赤らんだ頬がどんどんと青くなっていく。
「トイレにいかせ……て」
息も絶え絶えで、長い前髪の中の瞳が揺れる。潤んだ眼が、悩まし気な眉が、上がる息がどこか色っぽく、来るものがあった。
彼女の色白の肌が赤く染まって、悩まし気な息遣いにドキドキした。それは俺だけではなく、その場にいた全員がそうだった。彼女がいじめられる原因になった一つに、その目を引く容姿も一因としてあったのだ。彼女の目は大きく、真っ黒な瞳は澄んだ夜の色をしていた。静かに笑う声はどこか上品さもあり、その指先の動きまで目で追ってしまうほどに、洗練され、お淑やかだ。
それでも彼女はいつも自身がなさげにうつ向きがちで、その隙が余計に嗜虐心をくすぐっていた。
「おね……がい……。お願い……そこをどいて」
苦し気な吐息。赤い頬、蒸気の上がるような肌の質感。周りの変な息遣いと人間の熱気が、じとりと肌にまとわりつく。うめき声が、その赤らんだ頬が、その煽情的に潤む目が。
俺は静かに彼女の道に立ちはだかるいじめっ子たちを、突き飛ばした。
「ほら、早く行きなよ」
「……うん」
うめくような声で返事し、顔をゆがめても、それすら美しく、どこから見えても心が震える。
「何するのよ」
「女子トイレにまで入ってきて、変態」
「何が変態だよ。お前らの方がよっぽどやってること変態だろ」
その時の俺は、憎悪が渦巻いていた。
まともな家族とまともな教育を受けて、恵まれているくせに、どうしてこれほどまでに歪むのか。俺が正しくあろうとする、苦しみも知りもしないくせに、不平不満を口にして偉そうにほざくその姿に、俺は「死ねばいいのに」と声に出していた。
「気持ち悪い!」
「あんたが死ねばいいのよ」
そういった瞬間、俺は目の前の女子を本気で殴った。拳とほほ骨がゴツンと当たる音が響いて彼女が口から血を吐き、その血の中に白い歯が混じっているのが見えた瞬間、悲鳴が聞こえた。
一人が叫んだかと思うと、悲鳴は伝染し、殴った女子をかばうように立たせると、みんな逃げていく。
何が怖いんだか。今まで俺に散々、秀でたものの、優遇されて、愛されたものの幸せを見せつけてきたやつらが。
その時、初めて気づいたのは、俺が感じていた恐怖は激しい憎悪と怒りだったこと。恨めしい、初めから用意されていた、幸せになるための列車に乗れる切符。それを持っている奴らが、人からそれを略奪して、奪うさまが。憎かったのだ。
怒りで頭が沸騰しそうになりながらも、自分の顔を抑えた。
口元は醜くゆがみ、頬に伝う涙が止まらない。奥歯がカタカタと鳴り、恐怖で膝が笑っていた。
俺は今、無茶苦茶な表情をしている。
心の奥底に何一つ、理解してあげられない虚しさが、面積を増していく。どこかの本で読んだことがある。生きていない人間の話だ。この世の中には魂のない人間がいるという。オーガニックポータル。まるで都市伝説のような話だ。魂のない人間は自分の生まれた意味が分からないんだそうだ。
その話を聞いたとき、真っ先に自分がそうだと思った。自分が生きている理由どころか、自分は周りの人間の行動のすべてが本能的に感じることができても、何一つもわからないのだ。
それが恐ろしく、まるで自分を含めた人間すべてが、魂のない機械のように感じた。それは一人ゾンビ映画の中に閉じ込められるより、恐ろしく身震いの絶えない事実だった。そう、俺はいずれ死ぬつもりだった。勧められた小説を読んで、この部分が面白かった。この主人公に共感したと話されたところで、俺にはおおよそ共感なんてないのだ。
俺が欠陥品だから、俺が恐ろしく壊れた人間だから、何も感じない。何も得られない。何もかもが嘘で埋め尽くされ、心を刺すのは羨望と嫉妬。
死んでしまいたかったんだよ、もうずっと前から。この嘘ばかりつくこの口が。思ってもないのに、この目に見える景色を、綺麗だという口が。本当のことを何一つ語ろうとしない。受け入れられないと決めつけて、この恐ろしい無感情に一人で立ち向かわないといけない孤独と悲しみが。誰か一人でいいから、俺の心を動かしてほしかった。全部、それは自分本位で他人に対する優しさなど一つもないのに。
「気持ち悪い……」
トイレから出てきた嘉村さんがポツリと、そういった瞬間、俺はもう戻れないのだと悟った。
次の日から、いじめの標的は俺に変わった。
私物を隠され、無視をされる。でもその頃の俺は、私物を探したりなんかしなかった。こそこそと陰で笑うクラスメイト達に近づいて、手をひねり上げ、壁に押さえつけた。
淡々とした作業、何も感じない。悲鳴を上げるクラスメイトたちと、青い顔をして押さえつけられる主犯格の女子、田部。
「骨を脱臼させるのって、どうするか知ってる?」
「えっ」
主犯格の女の子の肩を強く外側に引っ張りながら、俺は話し続けた。骨の継ぎ目をあとは思い切り――。
その刹那、悲鳴が教室に叫び声がこだまする。高すぎる声に耳を傷めながら、俺は彼女の脱臼させた方の肩を足で、汚物みたいに踏んでみる。
女の子はじたばたとひきつけを起こし、口から泡のようなものを吐き出し始めた。苦痛をごまかすためなんだろう、動く足だけをバタバタと動かして、激痛を逃がすようにもがいている。
「肩をひねった状態で、外側に強く引っ張るんだ。今の状態ならやりやすいね」
冷静にそう言っても聞きやしない。呆れて、俺はそっと主犯格の女の顔をこちらに向かせる。
「ばーか」
その有象無象の中で、一人だけ俺を違った目で見る人がいた。佐倉 ハル、その人だった。
のたうち回っている主犯格が、気絶したのか動くのをやめ、浅い息を繰り返すようになってから、俺は我に返ってその場を逃げ出した。
別に先生に怒られるからとかじゃない。両親に怒られるとかでもない。
彼女にあれ以上、見つめられるのが怖かったからだ。心臓よりも心よりももっと奥の方に眠る。知りたくない感情がずるりずるりと引きずり出されて。
苦しくてたまらない。
孤独には慣れている。ガラス戸に雨が吹き付けて、なでるように落ちていく様をみていた。一人が寂しいと思ったことはない。雨粒を叩きつける窓に背を任せ、うつむいたまま立っていた。
水滴の青い影が、流れ落ちるのが映る。寂しいと思うのは、この世界で指をさされてお前は異常者だと弾き出される時だけだ。
他は寂しくない。誰の目にこの姿が映らなくても、きっと寂しくない。
遠くの方から誰かが走ってくる足音が聞こえる。長い廊下で足音が反響して、複数人が俺を囲むように近づいてくる。
「先生、いた! あいつがやったんです」
クラスメイトが指をさした。いつだってそうだ。ドブ色の眼をしたクラスメイトが攻めるように囲って黙っている。
「どうしてこんなことをしたんだ」
教師は静かにでも、確かな威圧感を放って言った。
「むかついたから」
俺は静かにそういうと、俯いた。
「むかついたら、クラスメイトを傷つけていいのか?」
俺はすべてを話してしまおうかと少し躊躇し、口を開こうとした瞬間。
「違います。八坂くんはやり返しただけです」
庇うような言葉を発した相手は、佐倉ハルだった。
「いじめようとしてきた人にやり返して何が悪いんですか?」
ハルはさらに言葉を加える。
「本当なのか?」
真偽を問うように、先生は俺の方を見た。その目は少し歪んで、面倒なことになったと揺らいでいた。
俺は黙ったまま、視線を逸らす。
「でも、どう考えたってやりすぎだ」
クラスメイトの三坂が非難の声を上げる。それは波紋となって同調を生み、他のクラスメイトたちもまばらに声を上げる。同調圧力に屈するように、ためらいながらも白は黒にひっくり返る。
いつも自己保身に走りたがる。自身でさえそうだった。保身しか見えていないその目で正しいを何度見落としてきたのか。一瞬、目を閉じて虚しさを抱く。
「多勢に勝つには、圧倒的な力でねじ伏せるしかない」
呼吸を繰り返し、落ち着いてから瞼を上げた。目に映るすべてに吐き気がする。夕闇が近づいている。クラスメイト達の表情が見えず、口元だけがせわしなく動いているのが不気味だった。
眉を吊り上げた有象無象は悪霊のようだ。
荒い呼吸の凶暴な自分を、必死に隠す飼い犬。けれど、それも理性を失えば、獰猛な野獣でしかない。
「お前ら、俺があそこで生ぬるい威嚇でもしようものなら、嘉村さんみたいにいじめをエスカレートしてないか? それにお前らのいじめは、集団暴行だっただろ」
俺はそっと三坂に近づき、耳元で告げてやる。
「お前、さっきから口が笑ってんだよ」
そういった瞬間、三坂はとっさに口を隠した。隠した瞬間、顔に血が上っていく。赤く染まるその顔は恥を自覚したのだろう。
三坂は濁った怒声を上げ、俺を殴りつけた。
不意を突かれたことで、よろけた。けれど、殴られてやる。やり返すことはない。わかりやすいんだ。最初に手を上げたやつが悪で、最後まで手を上げなかった奴が善だと。
きちんとレールを敷いてこちらに引き込みやすい下地を作る。だから多少の痛みを受け入れてやる。
鼻血が三坂の拳についたところで、三坂はハッとした表情を浮かべる。拳についた血がまざまざと事実を突きつける。自分が悪いことをしたと。
この後に起こることに怯えたのだろう、唸り声をあげて、現実を否定するように俺を突き飛ばした。
廊下の壁に腰を打ち付けた俺は、痛みによろめく。ハルはそんな俺のそばまで来ると肩を貸してくれた。
「大丈夫か?」
「ああ。大丈夫」
助けてくれたハルを見上げると、少しこそばゆい感じがした。その中世的で整った容姿の彼が、周りににらみを利かせた。吊り上がった眉、恐ろしいほどに冷徹に見える眼光にぞわりと鳥肌が立った。
ハルは先生に向かって言い放つ。
「なぁ、先生。あんた、生徒が殴られているのに、何ぼんやり見てんだよ。みんなそうだよな? 嘉村さんがいじめられた時も、いじめていた主犯格の田部さんが殴られていても、お前らいつもそうやって、見ているだけじゃないか」
傍観者は黙るしかない、事実だからだ。言い返す隙などない。
「なぁ、明菫。お前、本当は寂しいんだろう。誰とも気安く関われなくて、心の内を誰にも言えなくて」
そういわれた瞬間、頬に熱を感じた。これは恥ではない。この感情は何か俺は知らない。言葉を紡ごうとすればするほど、舌がから回る。
熱い血をこぼしているのかと思った。喉の奥が痛い。肩が震えて、噛みしめて嗚咽を殺すのに必死だった。俺の頬からは涙がこぼれていた。
ハルは何も聞かないし、言わなかった。肩に優しくおかれた手だけが、彼の感情のすべてだったように思う。
「悪かった」
教師が言った言葉で、事態は収束へ向かった。
そんな出来事があってから、俺の両親は学校に呼ばれた。
さすがに無罪放免とはいかず、親に今回の詳細については報告された。
学校に呼び出され、教師から事情を聞いてた両親は無表情に「きつく言って聞かせます」とだけ。
氷漬けの表情。この親はいつもそうだ。人間の面の皮を張り付けただけの人形。
教室を出た瞬間、両親は話し出した。
「忙しいのに、迷惑だわ」
「そうだな」
抑揚のない声の人形劇の芝居を見ているようだった。彼らは俺を視界に入れない、話しかけもしない。
「いいさ。時間がたてばいなくなってくれる」
「そうね。育ち切れば消えてくれるわ」
「どうせ、期待なんかしていないし」
二人の会話を、遥か後ろから聞いていた。問題を起こす子供はSOSを出すために、家族を困らせるんだとテレビで言っていた。視線がこちらを向くことは、これから先もないのだろう。
お互いしか視界に入らない、腹話術のような気味の悪い家族。窓ガラスに映る学ランの自分は、表情の固まった人形に見えた。なんだ、俺はちゃんとこの家族の一員なのか。失望が心に根差して、虚しさが破裂しそうだった。
その瞬間だった。
「明菫! 今日、俺んち来ない?」
ハルの声が聞こえた。あたりを見渡し、声のする方を探る。どこだ? とあちこちを探したけど、見当たらなくて汗をかいていると、ハルは「ここだよ」と声を張り上げる。
声を上げた瞬間、ハルは俺のところまで息を上げて走り寄ってきた。
「俺んち、今日ピザなんだ。食べに来いよ」
そういったハルを縋るような目で見ていたと思う。
「うん、あ」
ありがとうと言いかけて、言葉が詰まった。喉の奥から出そうでない言葉に戸惑いながら、指で触れる。その瞬間、なぜその言葉を言えないか分かった。
両親がここにいるからだ。恐る恐る怯えながら、視線を両親に向ける。真顔のまま、俺の見る視線はどこか侮蔑に似ていた。無表情なのに、その一瞬の表情だけで声が奪われる。表情が凍り付く。
ああ、同じになれってことか。この両親はきっと俺と同じように育てられたのだろう。なんとなくわかる。彼らはきっと、自分たちの子供時代の恐怖を同じように俺にも擦り付けて、俺を同じ不幸に陥れたい。
それは毎日のように触れ続ける両親の悪意。
震える声帯が声を出せずにいると、ハルは俺の手首をつかんで「マリオカートやろうぜ」とすべてを吹き飛ばしてくれる笑顔で言った。
そして走り出し「おばさん、おじさん、明菫借ります!」と叫ぶと走り出す。その時まで、俺はハルとはただのクラスメイトで、ただの通行人だったのに。
握られた手首が温かい。その体温が自分に移し、熱を持って生を与えた。ハルの後ろ姿は背筋が伸びて、細い短髪から汗が滲んでいた。振り返るハルの安心させるような、柔和の笑みと、すべてを薙ぎ払ってくれる強引な行動に。
しわくちゃに顔をしかめてこらえるのに、無駄だと言わんばかりに頬を伝う涙が熱い。ああ、こんなに熱があったんだ。生きている体温が俺にもあったんだ。そう感じれば、涙はとめどなく、みっともなくあふれて止まらない。
いうしかない。前なんか見えないほど涙で歪んでいるのに、この手を信じていれば、目をつむったって大丈夫だって信じられた。
「……連れ出してくれて。ありがとう」
声が歪む。かすれたお礼だった。耐えられなかった。目につながる神経の線が切れて、とめどない雨に滲む。
気づかないはずがない。乱れた息遣いは涙で濡れているのに、ハルはその口をかたく閉ざしたまま。
彼のその沈黙が心を刺した。痛みを遠ざける麻酔の針をハルが刺してくれた。優しさに他ならないそれが今を耐えるだけの、一時の誤魔化でもかまわない。
今日を越えられるだけの心が欲しかった。ハルが耐えるだけの心をくれた。熱を与えてくれた。笑顔を、喜びを初めて与えてくれた。
俺はハルが好きになった。
それは恋愛や友愛なんて戯れたものとは、ほど遠い。深い執着。愛してるなんてほど重苦しくもない、誰かの幸せを祈ることしかない奥ゆかしい好意だった。
