あやかしの癒し子 ~餌として捨てられた私は、鬼の王の唯一となる~

 宴が進み、張りつめていた空気も少しずつ和らいできた頃。
 少し離れた夜刀たちの席では、コマが頬いっぱいに野菜を頬張っていた。

 「奈津様、これおいしいですよ!」

 そう言って、自分の前の皿を嬉しそうに指さす。

 「こっちに来て一緒に食べませんか?」

 奈津は紫鬼へ目を向けた。

 「あの……少し行ってきてもいいですか?」

 「好きにしろ」

 奈津は席を立ち、コマたちのもとへ向かった。

 「夜刀、隣いいですか?」

 「あ?」

 奈津がそばへ座ると、夜刀はその身体を一瞥して眉を寄せる。

 「お前、相変わらず細っこいままだな。ちゃんと食ってんのか?」

 「食べてますよ」

 「足りてねぇだろ」

 そう言うなり、奈津の皿へ肉をどさりと盛った。

 「もっと肉食え、肉」

 「こんなに……」

 すると、それを見ていた周囲の鬼たちまで加わる。

 「これも美味いですよ」

 「こちらもぜひ」

 「あ、ありがとうございます……」

 断る間もなく、奈津の前には次々と皿が並べられていく。
 最初こそありがたく口にしていたものの――。

 (もう、お腹いっぱい……)

 食べても食べても、料理が減らない。
 それでも残すのは申し訳なくて、奈津は箸を手にしたまま困り果てていた。

 その頃。
 奈津が席を離れたことで空いた紫鬼の隣へ、綾乃が酒器を手に近づいていた。

 「紫鬼様」

 紫鬼が視線だけを向ける。

 「よろしければ、お注ぎいたしますわ」

 綾乃が微笑み、酒器を傾けようとする。

 「いらん」

 綾乃の手が止まった。

 「……失礼、いたしました」

 それでも笑みは崩さず、静かに酒器を下ろす。

 紫鬼は綾乃にはそれ以上目もくれず、少し離れた奈津へ視線を向けた。
 皿の山を前に、困ったように箸を握っている奈津。

 「奈津」

 呼ばれて、奈津が振り返った。

 「戻ってこい」

 「でも、まだ……」

 奈津は目の前に積まれた料理へ視線を落とす。

 「無理して食う必要はない」

 「……!」

 どうやら、困っていたことに気づかれていたらしい。
 奈津は少しだけほっとして、箸を置いた。

 「……では、お言葉に甘えて」

 夜刀たちに一言声をかけ、紫鬼の隣へ戻る。
 その直後。紫鬼は何も言わず、手にしていた杯を奈津へ差し出した。

 「……あ」

 奈津はすぐに意図を察する。
 酒器を手に取り、杯へそっと酒を注いだ。

 「どうぞ」

 紫鬼は何事もなかったように、その酒を口へ運ぶ。

 その一部始終を、綾乃はすぐそばで見ていた。

 ――酒がいらなかったわけではない。
 自分が注ぐ酒はいらないと、そういうことだったのだ。

 綾乃は笑みを崩さなかった。
 けれど、酒器を握る指先には、じわりと力がこもっていた。