あやかしの癒し子 ~餌として捨てられた私は、鬼の王の唯一となる~

 数日後、堂目道家に人間側からの一行が到着した。
 奈津は紫鬼のそばに立ち、門をくぐってくる者たちを見つめる。

 数名の祓い師。
 その中に、見慣れた亜麻色の髪を見つけた瞬間、奈津の身体がわずかに強張った。

 「お姉様」

 紫鬼の視線が、綾乃へ向く。

 「……綾乃」

 綾乃はいつものように柔らかな笑みを浮かべていた。

 「お久しぶりですわ」

 その一方で、後ろに控える祓い師たちの表情には隠しきれない緊張が滲んでいる。
 無理もなかった。
 彼らの目の前にいるのは、堂目道家当主・紫鬼。
 隠そうともしていない妖気は圧倒的で、ただそこに立っているだけで場の空気を張りつめさせる。

 そんな中、綾乃だけは物怖じする様子を見せなかった。
 柔らかな笑みを崩さぬまま、紫鬼へまっすぐ視線を向ける。

 「紫鬼様。本日から数日間、お世話になります」

 綾乃が丁寧に頭を下げる。
 紫鬼はそれに一瞥を返しただけだった。
 その深紫の瞳には、以前対峙した時と変わらぬ冷たさが宿っている。

 「中へ入れ」

 低い声が落ちる。それだけで、祓い師たちの背筋がわずかに伸びた。
 その時、奈津は綾乃の後ろに立つ人物へ目を向け――息を呑んだ。

 「……宗一様?」

 書状に、その名はなかったはずだ。
 奈津が驚いていると、九重が一行へ視線を向ける。

 「追加の同行者として伺っております。久世宗一様ですね」

 穏やかな声音だった。
 けれど、九重もまた並の妖ではない。
 その目を向けられた宗一が、わずかに身を固くする。

 「は、はい」

 答えてから、宗一の視線が奈津へ移った。

 「久しぶりだな、奈津」

 奈津は、すぐには言葉を返せなかった。

 殺そうとした相手を前に、どうしてこんな平気な顔ができるのだろう。
 あの日のことを思い出し、無意識に指先へ力が入る。

 「……お久しぶりです」

 ようやく、それだけを返した。

 「奈津」

 隣から紫鬼の声がした。
 奈津が顔を上げる。

 「中へ行くぞ」

 「……はい」

 その声に、少しだけ身体の力が抜けた。
 奈津は紫鬼の隣へ並ぶ。
 その姿を、宗一がじっと見つめていた。