あやかしの癒し子 ~餌として捨てられた私は、鬼の王の唯一となる~

 「よいしょ……」

 奈津は廊下の隅で、大きな箱を抱え上げた。
 中には、女中たちが運んでいた反物が入っている。

 「癒し子様!?」

 女中が慌てて駆け寄ってくる。

 「何をなさっているのですか!」

 「これくらいなら、私にも運べますから」

 「いけません。まだご無理をなさっては――」

 「もう十分休みましたし、本当に大丈夫です」

 奈津はそう言って笑った。
 九重からは、しばらく無理をしないよう念を押されている。
 けれど身体はもう随分と軽くなっていた。
 それに、何もせずに過ごすのは、やはりどうにも落ち着かない。

 「これを、どこへ運べば――」

 一歩踏み出した、その時だった。

 「あ……っ」

 足元がふらつく。
 抱えていた箱が傾き、奈津の身体も大きくよろめいた。

 倒れる――。
 そう思った瞬間、強い腕が身体を支えた。

 「……何をしている」

 低い声が、すぐそばから落ちてくる。
 奈津は恐る恐る顔を上げた。

 「紫鬼様……」

 紫鬼が奈津の身体を片腕で支えながら、険しい顔でこちらを見ていた。

 「これは、その……」

 「見れば分かる」

 紫鬼は奈津が抱えていた箱を取り上げ、女中へ渡した。

 「なぜお前が運んでいる」

 「もう身体もよくなりましたし、私にも何かできればと思って……」

 奈津が身体を離そうとした瞬間。

 「……痛っ」

 足首に鋭い痛みが走った。
 顔を歪めた奈津に、紫鬼の視線がすぐ足元へ落ちる。

 「足を挫いたな」

 「これくらいなら、大丈夫です」

 紫鬼は黙って奈津を見る。

 「お前の『大丈夫』は信用しない」

 「でも――」

 言い終わるより早く、身体がふわりと浮いた。
 奈津は目を見開く。
 紫鬼の腕に、抱き上げられていた。

 「し、紫鬼様!?」

 「騒ぐな」

 「でも、自分で歩けます!」

 「今、足を挫いたばかりだろう」

 「それは……」

 「暴れるな」

 低く言われ、奈津はぴたりと動きを止めた。
 周囲にいた女中たちも、驚いたようにこちらを見ている。
 けれど紫鬼は気にした様子もなく、そのまま廊下を歩き始めた。