あやかしの癒し子 ~餌として捨てられた私は、鬼の王の唯一となる~

 正臣は一瞬目を見開いたものの、すぐに頷く。

 「……そうか。では、君から」

 「ありがとうございます」

 宗一は奈津へ向き直った。

 「奈津」

 「……はい」

 真っ直ぐ向けられた視線に、胸が高鳴る。

 「僕と、結婚してくれませんか」

 「……え?」

 奈津は目を見開いた。
 まさか、自分がそんな言葉を向けられる日が来るなんて思っていなかった。

 「でも……私には、浄化の力がありません」

 「分かってる」

 宗一は迷いなく答えた。

 「そんなものがなくてもいい。僕は、奈津がいいんだ」

 ――僕は、奈津がいい。
 その言葉が、ずっと居場所を持てなかった奈津の胸に深く染み込んだ。

 「……私で、いいんですか?」

 「ああ。そう言ってるだろ」

 宗一は優しく笑った。
 その笑顔を見た瞬間、奈津の目に涙が滲んだ。

 この人となら。
 この家を出て、新しい人生を始められるかもしれない。
 自分にも、ようやく居場所ができるのかもしれない。

 「……はい」

 奈津は震える声で答えた。

 「私でよければ……よろしくお願いします」

 「よかったわね、お姉様」

 祝福するような、優しい声だった。
 奈津はまだ知らなかった。
 その笑顔の奥で――綾乃が何を思っていたのかを。