あやかしの癒し子 ~餌として捨てられた私は、鬼の王の唯一となる~

 日が傾き始めた頃。

 「夜刀様」

 呼び止められ、夜刀が足を止めた。
 振り返った先にいたのは、昼間、奈津へ絡んでいた二人の若い鬼だった。
 二人とも普段から夜刀の下で働くことが多く、彼をよく慕っている。

 「何だ」

 「少々、お話がございます」

 「手短にしろ」

 夜刀が面倒そうに言う。
 二人は顔を見合わせると、声を潜めた。

 「やはり、あの人間をこの屋敷に置いておくべきではありません」

 夜刀の眉間に皺が寄る。

 「堂目道の血に、人間を入れるなど認められません」
 「まして、あの女を紫鬼様の花嫁候補にするなど……」

 「それを俺に言ってどうすんだ」

 二人が一瞬、言葉を失う。

 「夜刀様も、あの人間を信用してはいないでしょう?」

 その声音には、夜刀も同じ考えだと信じて疑わない響きがあった。

 「紫鬼様のお側に人間を置くことを、夜刀様だって快く思ってはいないはずです」

 少し前までなら、夜刀も同意していただろう。
 けれどこの数日、奈津が何の見返りも求めず、紫鬼の穢れを浄める姿を何度も見ている。

 「……紫鬼様がお決めになったことだ」

 「え……?」

 二人が顔を見合わせる。

 「ですが、夜刀様――」

 「俺が人間を信用するかどうかと、紫鬼様の命令は別だ」

 夜刀は低く言い放った。

 「それに――あいつが紫鬼様を害するつもりなら、とっくにやってる」

 二人が押し黙る。

 「くだらねぇこと考えてねぇで、自分の仕事に戻れ」

 それだけ告げ、夜刀は二人の横を通り過ぎていった。
 残された二人は、遠ざかる背中を見つめる。

 「……夜刀様まで、あの人間を庇うのか」

 「違う」

 もう一人が、すぐに否定した。

 「夜刀様は紫鬼様の側近だ。命に逆らえないだけだ」

 「……そう、だよな」

 「あれだけ人間を嫌っていた夜刀様が、あんな女を信用するはずがない」

 そうでなければ、おかしい。
 人間を嫌う夜刀の考えに共感してきたからこそ、二人は彼を慕っていたのだ。

 「このままじゃ、あの人間はますます紫鬼様のお側へ入り込むぞ」

 「……分かってる」

 短い沈黙が落ちる。
 やがて、一人が声を低くした。

 「なら、俺たちがやるしかない」

 「何をするつもりだ?」

 「追い出せないなら――自分から出ていきたくなるようにすればいい」