あやかしの癒し子 ~餌として捨てられた私は、鬼の王の唯一となる~

 翌日、奈津が目を覚ましたのは、いつもよりずっと遅い時間だった。
 障子の向こうはすっかり明るくなっている。

 「……ん……」

 見慣れ始めた天井が目に入り、しばらくぼんやりと見つめて――。

 「……あれ?」

 奈津は目を瞬いた。

 (私、いつの間に……)

 身体にはきちんと布団が掛けられている。

 昨夜の記憶を辿る。
 紫鬼の穢れを消して、急に身体から力が抜けて。
 倒れそうになったところを、本来の姿になったコマが受け止めてくれた。
 そこまでは覚えている。

 『奈津様、しっかりつかまっていてくださいね』

 コマの柔らかな毛並みに身体を預けて――。

 (……そのあと、どうしたんだっけ)

 部屋へ戻ってきたような気はする。
 けれど、そこから先の記憶が曖昧だった。
 どうやら布団へ入るなり、気を失うように眠ってしまったらしい。

 「それほど、力を使っていたんだ……」

 奈津は身体を起こす。
 途端、全身に残る気だるさに気づいた。
 熱はない。けれど、身体の芯から力が抜けてしまったような、妙な重さが残っている。
 ぼんやりと自分の手を眺めていると、障子の向こうから声がした。

 「奈津様。お目覚めでしょうか」

 「は、はい!」

 「失礼いたします」

 障子が開き、九重が入ってくる。
 その手には、小さな椀が載った盆があった。

 「お身体はいかがですか?」

 「少し身体が重いですけど……もう大丈夫です」

 「そうですか」

 九重は奈津の傍らへ腰を下ろし、盆を差し出した。

 「葛湯です。まずはこちらを」

 「ありがとうございます……」

 受け取った椀から、ほのかな湯気が立ちのぼっている。
 ひと口飲むと、優しい甘さと温かさが喉を通っていった。

 「癒し子の力があなたのお身体へどれほどの負担をかけるのか、まだ我々にも分かりません」

 九重は奈津の顔を見つめる。

 「本日は、安静になさってください」

 「でも、もうこれくらいなら――」

 「安静に」

 「……はい」

 にこやかなのに、有無を言わせない。
 奈津は大人しく頷いた。
 九重が部屋を出ていったあとも、しばらくは言いつけ通り布団の上で過ごしていた。

 「……」

 落ち着かない。
 身体はまだ気だるい。それでも、この程度なら奈津にとって休むほどのものには思えなかった。
 九条家にいた頃も、具合が悪いからといって休むことはできなかった。
 少しでも休んでいれば怠けていると言われた。

 奈津にとっては、多少身体がつらくても動くことの方が当たり前だった。
 こうして何もせず横になっている方が、むしろ居心地が悪い。

 (それに……これだけお世話になっているのに)

 でも昨日は、厨房でも洗濯場でも手伝いを断られてしまった。

 (邪魔にならないことで、何か……)

 奈津はしばらく考えた末、そっと布団を抜け出した。