あやかしの癒し子 ~餌として捨てられた私は、鬼の王の唯一となる~

 馬車の中では、向かいに紫鬼、その隣に九重が座っていた。

 「紫鬼様は、普段から馬車をお使いになるのですか?」

 奈津が尋ねると、九重が答える。

 「いいえ。紫鬼様ほどのお方なら、ご自身で向かわれた方が遥かに早いので」

 「では、今日は……」

 「癒し子様もいらっしゃいますから」

 奈津は申し訳なくなり、紫鬼を見る。

 「私のために……すみません」

 「これでいい」

 返ってきたのは、短い返事のみだった。

 それからしばらくして、馬車の速度がゆるやかに落ちていった。

 奈津が窓の外へ目を向けると、やがて見覚えのある門が視界に入る。
 九条家だ。その姿を認めた途端、指先からじわりと冷たさが広がった。

 ほどなくして馬車が止まり、九重、紫鬼の順に外へ降りていく。
 奈津もあとに続こうと腰を浮かせたものの、そこで足がすくんだ。

 膝の上で握った手に、無意識のうちに力がこもる。
 すると、馬車の外から紫鬼の声が届いた。

 「行くぞ」

 奈津は顔を上げた。
 開いた扉の向こうで、紫鬼がこちらを見ている。

 「……はい」

 小さく息を吸い、奈津は震えそうになる足に力を込めて立ち上がった。

 奈津は小さく息を吸い、震えそうになる足に力を込める。
 そして――自分を出来損ないと呼んだ九条家へ。
 奈津は、鬼の王と共に戻ってきた。