あやかしの癒し子 ~餌として捨てられた私は、鬼の王の唯一となる~

 食事を終えると、コマが「お屋敷を案内します!」と張り切って奈津を連れ出した。
 長い廊下を歩きながら、あれが中庭で、向こうには皆が集まる広間があるのだと、ひとつひとつ教えてくれる。
 先ほどまで向けられる視線に身を縮めていた奈津も、楽しそうに話すコマにつられ、いつしか少しだけ肩の力が抜けていた。

 そんな時だった。廊下の先が、ふいに騒がしくなる。

 「夜刀様がお戻りになったぞ」

 行き交う鬼たちの声に、奈津は足を止めた。

 「夜刀様?」

 隣を見れば、コマの耳がぴくりと動く。

 「九重様と同じ、紫鬼様の側近のおひとりです。しばらくお屋敷を留守にされていたんです」

 「そうなのね」

 奈津が何気なく廊下の先へ目を向けた、その時。

 「――人間くせぇな」

 低い声が響いた。
 廊下の向こうから、一人の男がこちらへ歩いてくる。

 長い黒髪に、獣を思わせる鋭い金の瞳。
 背には、その身の丈に迫るほどの大太刀。
 男――夜刀(やと)の金の瞳が、奈津を捉えた。

 「……人間」

 空気が変わった。
 灰黒の鬼角が額から姿を現す。
 その片方は、半ばから欠けていた。

 次の瞬間、白刃が閃く。
 奈津には、夜刀が大太刀へ手をかけたことすら分からなかった。
 気づけば、冷たい切っ先が喉元へ突きつけられている。

 「なぜ人間がここにいる」