牢をあとにしてから、数日が経った。
九条家の三人については、今後、人間側で正式な裁きが行われることになっている。
奈津が助命を望んだことで、命までは奪われない方向で話が進められているという。
けれど、それで罪が消えるわけではない。
今回の一件を受け、九条家は祓い師の名家としての地位を失い、取り潰しとなる可能性が高い。
正臣も明美も、二度と祓い師の世界へ戻ることはできないだろう。
そして綾乃もまた、失った《浄化の力》が戻ることはない。
かつて天才の祓い師ともてはやされた少女は、堂目道家に反旗を翻し、多くの鬼たちの命を危険に晒した大罪人として、その罪を背負いながら生きていくことになる。
一方、香玉に霊力を奪われた祓い師たちの多くは、療養を経て少しずつ回復していた。
ただ、宗一だけは違った。診察の結果、霊力の大半を失っただけでなく、霊力を巡らせる経路そのものにも深い損傷が残っていることが分かったという。
命に別状はないものの、かつてのように祓い師として術を振るうことは、もう難しいと告げられていた。
宗一にも、九条家の三人にも、それぞれの代償と償いが残された。
奈津は、その先を詳しく尋ねることはしなかった。
彼らがこれからどう生きるのかは、もう奈津が背負うことではない
奈津には、奈津自身の人生がある。
◇
堂目道家でも、騒動の傷跡は少しずつ薄れ始めていた。
床に伏していた鬼たちは日に日に回復し、静まり返っていた屋敷にも、以前のような声が戻りつつある。
そんなある日のことだった。
「少々よろしいでしょうか」
九重に呼ばれ、奈津は不思議に思いながら一室へ向かった。
中にいたのは、九重と夜刀、それにコマだった。
「皆さん、どうしたんですか?」
問いかけると、九重が奈津の前へ進み出た。
そして突然、その場へ膝をついた。
「……九重様!?」
続いて夜刀とコマも、揃って膝をつく。
「夜刀も、コマまで……。いったい何を……」
「先日の一件で、我々がこうして生きていられるのは、あなたのおかげです」
九重が静かに告げる。
「奈津様がいなければ、夜刀も私も、そして屋敷の者たちも、どうなっていたか分かりません」
「でも、私はただ……皆さんを助けたくて……」
「ええ」
九重は静かに頷いた。
「だからこそ、皆、救われたのでしょう」
奈津はそこで、はっとする。
「……今、奈津様って……」
これまで九重は、奈津のことをずっと《癒し子様》と呼んでいた。
九重は穏やかな笑みを浮かべたまま、改めて頭を下げる。
「癒し子であることに関係なく、あなたはもう堂目道家にとって大切なお方ですから」
胸の奥が、じんと熱くなった。
「九重様……」
九重の言葉が途切れると、夜刀が少し居心地悪そうに視線を逸らした。
「……俺からも、礼を言わせてくれ」
夜刀は一度言葉を切り、奈津をまっすぐ見る。
「助けてくれて、ありがとな。奈津」
ぶっきらぼうな言葉が、奈津の胸に深く沁みた。
「夜刀……」
すると今度は、コマが勢いよく顔を上げた。
「ぼくからも、奈津様に言いたいことがあります!」
「コマ?」
「奈津様がぼくを助けてくれたみたいに、今度は奈津様が困った時、ぼくがそばにいたいです」
大きな瞳で、真っ直ぐ奈津を見上げる。
「だから、これからもずっとここにいてください!」
「……っ」
堪えていたものが込み上げ、奈津の目に涙が滲んだ。
かつては、自分がこの屋敷にいていいのかさえ分からなかった。
食事や部屋を与えられることさえ、何の役にも立てない自分には過分なことのように思えていた。
奈津は涙を拭うと、三人へ笑いかけた。
「……ありがとうございます」
そして、今度は迷うことなく告げる。
「私も、ここにいたいです」
九重が穏やかに目を細める。
夜刀はどこか安心したように息を吐き、コマは嬉しそうに尻尾を振った。
その光景を見ながら、奈津は胸の奥に温かなものが満ちていくのを感じていた。
堂目道家はもう、行くあてのなかった自分を置いてくれた場所ではない。
自分の意思で、これからもここにいたいと思える――大切な居場所になっていた。
九条家の三人については、今後、人間側で正式な裁きが行われることになっている。
奈津が助命を望んだことで、命までは奪われない方向で話が進められているという。
けれど、それで罪が消えるわけではない。
今回の一件を受け、九条家は祓い師の名家としての地位を失い、取り潰しとなる可能性が高い。
正臣も明美も、二度と祓い師の世界へ戻ることはできないだろう。
そして綾乃もまた、失った《浄化の力》が戻ることはない。
かつて天才の祓い師ともてはやされた少女は、堂目道家に反旗を翻し、多くの鬼たちの命を危険に晒した大罪人として、その罪を背負いながら生きていくことになる。
一方、香玉に霊力を奪われた祓い師たちの多くは、療養を経て少しずつ回復していた。
ただ、宗一だけは違った。診察の結果、霊力の大半を失っただけでなく、霊力を巡らせる経路そのものにも深い損傷が残っていることが分かったという。
命に別状はないものの、かつてのように祓い師として術を振るうことは、もう難しいと告げられていた。
宗一にも、九条家の三人にも、それぞれの代償と償いが残された。
奈津は、その先を詳しく尋ねることはしなかった。
彼らがこれからどう生きるのかは、もう奈津が背負うことではない
奈津には、奈津自身の人生がある。
◇
堂目道家でも、騒動の傷跡は少しずつ薄れ始めていた。
床に伏していた鬼たちは日に日に回復し、静まり返っていた屋敷にも、以前のような声が戻りつつある。
そんなある日のことだった。
「少々よろしいでしょうか」
九重に呼ばれ、奈津は不思議に思いながら一室へ向かった。
中にいたのは、九重と夜刀、それにコマだった。
「皆さん、どうしたんですか?」
問いかけると、九重が奈津の前へ進み出た。
そして突然、その場へ膝をついた。
「……九重様!?」
続いて夜刀とコマも、揃って膝をつく。
「夜刀も、コマまで……。いったい何を……」
「先日の一件で、我々がこうして生きていられるのは、あなたのおかげです」
九重が静かに告げる。
「奈津様がいなければ、夜刀も私も、そして屋敷の者たちも、どうなっていたか分かりません」
「でも、私はただ……皆さんを助けたくて……」
「ええ」
九重は静かに頷いた。
「だからこそ、皆、救われたのでしょう」
奈津はそこで、はっとする。
「……今、奈津様って……」
これまで九重は、奈津のことをずっと《癒し子様》と呼んでいた。
九重は穏やかな笑みを浮かべたまま、改めて頭を下げる。
「癒し子であることに関係なく、あなたはもう堂目道家にとって大切なお方ですから」
胸の奥が、じんと熱くなった。
「九重様……」
九重の言葉が途切れると、夜刀が少し居心地悪そうに視線を逸らした。
「……俺からも、礼を言わせてくれ」
夜刀は一度言葉を切り、奈津をまっすぐ見る。
「助けてくれて、ありがとな。奈津」
ぶっきらぼうな言葉が、奈津の胸に深く沁みた。
「夜刀……」
すると今度は、コマが勢いよく顔を上げた。
「ぼくからも、奈津様に言いたいことがあります!」
「コマ?」
「奈津様がぼくを助けてくれたみたいに、今度は奈津様が困った時、ぼくがそばにいたいです」
大きな瞳で、真っ直ぐ奈津を見上げる。
「だから、これからもずっとここにいてください!」
「……っ」
堪えていたものが込み上げ、奈津の目に涙が滲んだ。
かつては、自分がこの屋敷にいていいのかさえ分からなかった。
食事や部屋を与えられることさえ、何の役にも立てない自分には過分なことのように思えていた。
奈津は涙を拭うと、三人へ笑いかけた。
「……ありがとうございます」
そして、今度は迷うことなく告げる。
「私も、ここにいたいです」
九重が穏やかに目を細める。
夜刀はどこか安心したように息を吐き、コマは嬉しそうに尻尾を振った。
その光景を見ながら、奈津は胸の奥に温かなものが満ちていくのを感じていた。
堂目道家はもう、行くあてのなかった自分を置いてくれた場所ではない。
自分の意思で、これからもここにいたいと思える――大切な居場所になっていた。

