あやかしの癒し子 ~餌として捨てられた私は、鬼の王の唯一となる~

 「何?」

 正臣が目を瞬く。
 奈津はまっすぐ父を見た。

 「紫鬼様も、屋敷の皆さんも……あと少し遅ければ、命を落としていたかもしれないんです」

 声が、次第に強くなっていく。

 「それなのにあなたたちは、自分が助かることばかり」

 奈津は手を握りしめた。

 「皆さんを苦しめたことへの謝罪は、ないのですか?」

 正臣と明美が、ぽかんと奈津を見た。
 隣の牢では、それまで床を見つめていた綾乃が、ゆっくりと顔を上げた。

 「……奈津」

 正臣の顔がみるみる赤くなる。

 「父親に向かって、何だその口の利き方は!」

 「そうよ!」

 明美も鉄格子へ詰め寄った。

 「いったい何様のつもりなの!? 少し妖に気に入られたからって、随分偉くなったものね!」

 奈津の肩が僅かに揺れた。

 「奈津」

 紫鬼が名を呼ぶ。
 奈津が顔を上げると、紫鬼は正臣たちを冷たく見据えたまま告げた。

 「こいつらの処分は、まだ決定していない」

 正臣と明美が息を呑む。

 「今回の被害を考えれば、このまま死罪となる可能性は高いだろう」

 「……っ!」

 二人の顔から、一瞬で血の気が引いた。

 「ただし」

 紫鬼は奈津へ視線を向ける。

 「奈津が助命を望むなら、その意向を人間側へ伝えることはできる」

 「お、おい、奈津……!」

 正臣の態度が一変した。

 「まさか、家族を見殺しになどしないだろう?」

 「そうよ、奈津」

 明美も慌てて笑みを作る。

 「さっきは少し言いすぎたわ。悪かったと思っているの。だから、ね? あなたなら分かるでしょう?」

 あまりにも露骨な変わりように、奈津はただ静かに二人を見つめた。
 すると、隣から小さな笑い声が聞こえた。

 「……ふふ」

 綾乃だった。
 乱れた白い髪を垂らしたまま、力なく笑っている。

 「綾乃?」

 明美が眉を寄せる。

 「何がおかしいのよ」

 綾乃は答えない。
 その姿を見た明美は、今度は何かを思いついたように奈津へ向き直った。

 「ほら、綾乃を見なさい!」