あやかしの癒し子 ~餌として捨てられた私は、鬼の王の唯一となる~

 騒動から、数日が経った。
 奈津の力によって異形化した鬼たちはすべて元の姿へ戻り、堂目道家にも少しずつ日常が戻り始めていた。

 そんなある日、九重から、人間側より知らせが届いた。
 九条正臣、明美、そして綾乃の三人は、今回の事件への関与を調べるため、現在も牢へ勾留されているという。
 そして三人が、奈津との面会を求めているらしい。

 「会う必要はない」

 話を聞いた紫鬼は、すぐにそう言った。
 奈津は少し迷ったものの、やがて静かに首を振る。

 「……会います」

 「奈津」

 「最後に、きちんと話しておきたいんです」

 もう、あの家へ戻ることはない。
 だからこそ、自分の言葉で終わらせたかった。
 紫鬼はしばらく奈津を見つめたあと、短く告げた。

 「なら、俺も行く」

 ◇

 人間側の管理する牢は、冷たく薄暗い場所だった。
 奈津が紫鬼とともに奥へ進んでいくと、鉄格子の向こうから聞き覚えのある声が響いた。

 「おお、奈津! やっと来たか!」

 正臣だった。
 明美と共に一つの牢へ入れられており、その隣の牢には綾乃がいる。

 「遅いぞ! いったい何をしていた!」

 奈津は思わず足を止めた。
 顔を合わせるなり、父の口から出たのは謝罪でも、奈津を案じる言葉でもない。
 正臣は鉄格子へ詰め寄ると、勢い込んで続ける。

 「お前からも一条家へ口添えしろ! なぜ私たちがこんなところへ入れられなければならんのだ!」

 「そうよ!」

 明美もすぐに声を重ねた。

 「私たちは騙されたのよ。あんな危険なものだなんて知らなかったんだから!」

 奈津は何も答えず、隣の牢へ視線を移した。
 綾乃は壁際に身体を預け、虚ろな目で床を見つめていた。
 かつて美しかった亜麻色の髪は真っ白に変わり果て、膝を抱えるようにして虚ろに床を見つめている。
 奈津たちが来ても、顔を上げようともしなかった。

 「まだ、自分たちの罪が分かっていないようだな」

 低い声に、正臣と明美の身体がびくりと強張った。
 紫鬼が奈津の隣へ立っている。

 「あ……これは、堂目道家ご当主様……」

 正臣は先ほどまでの勢いを失い、途端にへつらうような笑みを浮かべた。

 「私どもは、本当に騙されたのです。妖を惹きつける品だとは聞いておりましたが、まさか皆様を暴走させるような危険なものだとは夢にも……!」

 「ですから、どうかご助命を」

 明美も必死に頭を下げる。

 「偉大なる堂目道家のご当主様からも、一条家へお口添えいただけませんでしょうか?」

 奈津は黙って二人を見つめた。
 不思議と、もう怖くも悲しくもない。
 その代わり、胸の奥には静かな怒りが込み上げていた。

 「……こんな時でも、自分のことばかりなのですか」