あやかしの癒し子 ~餌として捨てられた私は、鬼の王の唯一となる~

 「来ないで……!」

 「綾乃」

 「同情のつもり!? 勝ったからって、私を哀れんでるの!?」

 「違うわ」

 白い光が、二人を包み始める。

 「全部お姉様のせいなのよ! 紫鬼様も、癒し子の力も、みんなから好かれることも、お姉様が私から奪った!」

 綾乃は涙を滲ませ、なおも叫ぶ。

 「お姉様が幸せになるなんておかしいのよ! ずっと私より不幸で、惨めでいなくちゃいけないの! そうじゃなきゃ、私が一番じゃなくなるじゃない!」

 奈津はその言葉を静かに受け止めた。
 昔なら、自分には何の価値もないのだと思っただろう。けれど、今は違う。

 「私が幸せになっていいかどうかを、あなたに決めてもらう必要はないわ」

 「……何よ、それ……」

 「私は、私として生きていく」

 奈津の掌から溢れる光が、綾乃を蝕む穢れを包んでいく。

 「だから、あなたも生きて」

 「……っ」

 「あなたは、たくさんの人を傷つけた。この屋敷の皆さんも、祓い師の方たちも。自分の望みのために、たくさんの人を苦しませた」

 奈津は逃げることなく、綾乃の目を見つめた。

 「その罪を、死んで終わらせてはいけないわ」

 綾乃の瞳が揺れる。
 奈津はその手を、今度こそしっかりと握った。

 「だから、生きて償って」

 柔らかな光が強まり、綾乃の身体を焼いていた穢れが少しずつ消えていく。

 「やめて……お姉様なんかに、助けられたくない……」

 「それでも、死なせない」

 奈津は手を離さなかった。
 やがて深く刻まれていた皺は消え、痩せ衰えていた頬にも血色が戻っていく。
 しかし、亜麻色だった髪は白く色を失ったままだった。
 身体からは、かつて満ちていた霊力の気配もほとんど感じられない。

 最後の穢れが浄められると、綾乃は力尽きたようにその場へ崩れ落ちた。