あやかしの癒し子 ~餌として捨てられた私は、鬼の王の唯一となる~

 「綾乃……!」

 紫鬼は険しい表情でそれを見据えた。

 「おそらく、あれは禁呪を用いた呪具だ。一時的に本来以上の力を得る代わりに、その反動を使用者へ返す」
 「あれだけの霊力を扱ったのなら、代償は霊力だけでは済まん。生命力まで奪われれば、いずれ死ぬ」

 「……そ、んな……!」

 綾乃の顔が絶望に歪んだ。
 だが、次の瞬間には奈津を睨みつける。

 「お前の……せいよ……!」

 息も絶え絶えになりながら、それでも憎しみだけは消えていなかった。

 「全部……お姉様のせいよ……! お姉様が、私から全部奪った……!」

 奈津は何も言わず、綾乃へ歩き出した。

 「奈津。近づくな」

 紫鬼に呼び止められ、足を止める。

 「行かせてください」

 「こいつがお前に何をしたか、忘れたわけではないだろう」

 「忘れていません」

 虐げられた日々も、宗一を奪われたことも、死ぬと分かっていながら結界の森へ捨てられたことも、忘れられるはずがない。

 「それでも、綾乃は私の妹です」

 「許すのか」

 「いいえ」

 奈津は迷わず首を振った。

 「許したわけではありません。されたことを、なかったことにするつもりもありません」

 だからこそ、自分の手で終わらせなければならない。

 「このまま綾乃を見殺しにしたら、きっと私はこれからもずっと、あの日々に囚われたままです」

 奈津は紫鬼を見上げた。

 「最後は、自分で決着をつけたいんです。そうしないと、私は本当の意味で前へ進めないから」

 紫鬼はしばらく奈津を見つめたあと、それ以上止めることはしなかった。
 奈津は再び歩き出し、穢れに覆われた綾乃のそばへ膝をつく。
 白く色を失った髪に、深く刻まれた皺。頬は痩せ落ち、かつての面影が霞むほどに老いさらばえたその姿は、まるで老婆そのものだった。