あやかしの癒し子 ~餌として捨てられた私は、鬼の王の唯一となる~

 (そろそろ、お姉様も折れた頃かしら?)

 奈津と宗一を二人きりにしてから、しばらくが経った。
 綾乃は庭を望む縁側に腰掛け、鬼たちが用意した上等な茶菓子をつまんでいた。

 今や、屋敷の鬼たちは次々と綾乃へ心を傾け、反対に奈津を疎み始めている。
 そんな時に、今も自分を求める宗一が現れれば、復縁を受け入れるかもしれない。

 それでも意地を張るというのなら――。

 (手籠めにでもされてしまえばいいわ)

 そうなれば、さすがの奈津も紫鬼のそばにはいられなくなるだろう。
 やがて客室の方から鬼たちの騒ぐ声が聞こえ、綾乃は素知らぬ顔で様子を見に戻った。
 そこで最初に目にしたのは、鬼たちに両腕を押さえられた宗一だった。

 「……宗一様?」

 何が起きたのか理解できずにいると、その直後、客室から紫鬼が姿を現した。
 その腕には、奈津が抱き上げられている。

 「……っ」

 綾乃の表情が固まった。
 奈津は紫鬼の着物を掴み、その胸元へ身体を預けている。
 紫鬼もまた、震えの残る奈津をしっかりと抱きかかえていた。

 やがて二人が、綾乃の前を通り過ぎようとする。
 その瞬間、紫鬼の深紫の瞳が鋭く綾乃を射抜いた。

 「……!」

 息が止まる。その眼差しだけで、理解した。

 ここは、綾乃に与えられた客室だ。
 そこで奈津と宗一が二人きりになっていた。
 紫鬼は、自分を疑っている。

 けれど今は問い詰めることなく、すぐに奈津へ視線を戻した。
 まるで、綾乃のことなど後回しだと言わんばかりに。
 そのまま奈津を抱きかかえ、紫鬼は綾乃の前を通り過ぎていった。