あやかしの癒し子 ~餌として捨てられた私は、鬼の王の唯一となる~

 宗一も奈津の姿を見て、僅かに目を見開く。

 「どうしてここに……」

 「綾乃から、お前が僕と話したがっていると聞いた」

 そこでようやく、奈津は先ほどの綾乃の言葉の意味を理解した。

 ――積もる話もあるでしょうから。
 最初から、このために自分を呼び出したのだ。

 「私は呼んでいません。綾乃が勝手に言ったことです」

 奈津はすぐに立ち上がった。

 「先日お伝えしたことが全てです。失礼します」

 宗一の横を通り過ぎようとした瞬間、腕を掴まれる。

 「待て」

 「……離してください」

 「今日のあいつらの態度を見ても、お前は何とも思わないのか?」

 奈津の表情が僅かに強張ると、宗一は畳みかけるように続けた。

 「少し前までお前を持ち上げていたくせに、今じゃ綾乃に夢中じゃないか。だから言ってるんだ。ここは、お前の居場所じゃない」

 その言葉は、奈津がこの数日ずっと抱えていた不安を正確に突いた。

 「妖なんて所詮、こんなものなんだよ。いくら今はもてはやされていようと、気まぐれに人間を気に入って、飽きれば簡単に捨てる。所詮は、人とは違う化け物だ」

 「化け物なんかじゃありません」

 奈津が宗一を見据える。

 「今の皆様の様子がおかしいことくらい、私にも分かります。私は、皆様の本当の姿を知っています」

 優しくしてくれたこと、助けてくれたこと、一緒に笑い合ったこと。
 全部、嘘だったとは思わない。

 「……だから何だよ」

 宗一の眉間に深い皺が寄る。

 「今のお前は、見向きもされてないじゃないか。それでも、まだここにいるつもりなのか?」

 「はい」

 迷いなく答えると、宗一の顔がさらに険しくなった。

 「何でそこまで、あの鬼のそばにいたがるんだ!」

 「紫鬼様だけではありません」

 奈津は掴まれた腕を引きながら、きっぱりと言った。

 「私は、自分でここにいたいと決めたんです」

 「……またそれか」

 宗一の手に、さらに力がこもる。

 「昔は僕の妻になるって決まってただろ!」

 「それはもう終わったことです」

 「綾乃だって、もう僕とは何でもない!」

 「そういう問題ではありません。離してください!」

 奈津が強く腕を引く。
 けれど、宗一は手を離そうとしなかった。

 「僕とやり直せばいいだけだろ。そうすれば全部元に戻る」

 「私はもう、あの頃には戻りません」

 奈津の言葉に、宗一の表情が固まった。
 しばらく睨みつけるように奈津を見ていた宗一が、不意に動きを止める。

 「……そうだ」

 その目に、何かを思いついたような異様な光が宿った。
 嫌な予感に奈津が後ずさろうとした瞬間、強く腕を引かれ、そのまま畳へ押し倒された。

 「……っ、何をするんですか!」

 宗一は逃れようとする奈津を押さえつけたまま、ひどく穏やかな声で言った。

 「子どもを作ろう」