あやかしの癒し子 ~餌として捨てられた私は、鬼の王の唯一となる~

 それから、屋敷の空気は目に見えて変わっていった。
 奈津が廊下を歩いていても、以前のように声をかけてくれる鬼はほとんどいない。
 目が合ってもすぐに逸らされたり、中にはあからさまによそよそしい態度を取る者までいた。

 「あの……」

 奈津は盆を抱えて歩いていた鬼へ声をかけた。
 以前、地下水路での一件をきっかけに、よく言葉を交わすようになった鬼だ。

 「何か、お手伝いしましょうか?」

 「……結構です」

 返ってきた声は、思いのほか冷たかった。
 奈津が戸惑っていると、その鬼の表情がぱっと明るくなる。
 視線の先から、綾乃が歩いてきていた。

 「綾乃様。お茶をお持ちしましょうか?」

 「まあ。よろしいの?」

 「もちろんです」

 先ほどまでのよそよそしさが嘘のような笑顔だった。
 奈津の胸が、ずきりと痛む。
 ようやく、この屋敷の中で少しずつ居場所を得られたと思っていた。
 それが、たった数日で崩れていく。

 「奈津様」

 足元から聞こえた声に視線を落とすと、コマが心配そうに奈津を見上げていた。

 「……みんな、やっぱり変です」

 「コマもそう思う?」

 「はい。前は奈津様と普通にお話ししてたのに……」

 少し怒ったように頬を膨らませるコマに、奈津は小さく笑った。

 「ありがとう、コマ」

 「ぼくは何にも変わってませんからね!」

 その言葉に、奈津の胸が少しだけ温かくなる。
 屋敷の者たちが次々と変わっていく中で、コマだけは何ひとつ変わらない。それだけでも、今の奈津には救いだった。