あやかしの癒し子 ~餌として捨てられた私は、鬼の王の唯一となる~

 夜刀は奈津から逃れるように一歩後ずさった。昨日まで笑って話していた相手から突然拒絶され、胸の奥がちくりと痛む。
 けれど、夜刀の金色の瞳に浮かんでいるのは嫌悪ではなく、明らかな戸惑いだった。

 「……くそ。何なんだよ、これ……」

 「奈津様!」

 そこへコマが駆けてきた。いつもと変わらず奈津へ寄り添う姿を見て、ふと気づく。

 「コマは……何ともないの?」

 「はい? ぼくはいつも通りですよ?」

 屋敷の鬼たちだけでなく、夜刀や九重まで綾乃を前にすると様子が変わる。それなのに、コマだけは何ひとつ変わっていない。
 その時、また鼻先を甘い香りが掠めた。

 「……また、この匂い」

 「やっぱり、ぼくには分からないです」

 「俺もだ」

 夜刀も低く答えると、再び苦しげに頭を押さえた。

 「……悪い。今は一人にしてくれ」

 心配だったが、それ以上近づけばかえって苦しませてしまうかもしれない。
 奈津は迷った末に頷き、コマとともにその場を離れた。