あやかしの癒し子 ~餌として捨てられた私は、鬼の王の唯一となる~

 翌朝、目を覚ました瞬間から、奈津は違和感を覚えていた。
 甘い香りが、強くなっている。

 廊下へ出れば、それは明らかだった。
 昨日より濃い香りが、屋敷全体に漂っている。
 胸騒ぎを覚えながら歩いていると、廊下の先に人影が見えた。

 「……夜刀?」

 夜刀が壁に身体を預け、片手で頭を押さえていた。

 「っ……くそ……」

 苦しげに顔を歪める姿に、奈津は慌てて駆け寄った。

 「大丈夫……⁉」

 震える腕へ手を伸ばした、その瞬間。

 「――触んな!」

 夜刀が勢いよく奈津の手を振り払った。

 「……っ」

 奈津の手が、宙で止まる。
 夜刀も、はっと目を見開いた。

 「俺……」

 苦しげに頭を押さえ、顔を歪める。
 そして奈津から逃れるように、一歩後ずさった。

 「……近寄るな、奈津」