愛の重い蓮と素直になれない結羽の恋愛ゲーム

 昔あるところに、家が隣で太陽のような幼馴染みがいました。その幼馴染みは男の子でなんでもできるかっこいい子。昔から助けてくれる優しい子。ずっと一緒にいる内にその子のことを僕は好きになりました。

「あのさ、僕、蓮のことが好きなんだけど」
 中学からの帰り道、いつものように一緒に帰っていた僕は勇気を振り絞って幼馴染みの森宮蓮に告白した。
 返事や反応を待っている時間は心臓のバクバク音しか耳には届かない。
「俺も、俺も結羽のことが好きだよ」
「ほ、本当!? 嘘じゃない?」
「そんな嘘はつかないよ」
 夢のような光景に目を疑いたくなる。本当に、嬉しい。
「じゃあ僕たちはつき合えるってことだよね」
「もちろん」
 僕は嬉しくなって勢いよく蓮に抱きついた。
「蓮、大好き」
 蓮を見上げながら伝えると、蓮も僕のことを抱きしめ返して「俺も結羽が好きだよ」と聞いて本当に好きなんだと実感する。
 その日から僕と蓮の関係は、幼馴染みから恋人へ変わった。当時は周りに同性カップルがいなかったこともあって、内緒でつき合うことにしていた。
 だから互いの家に行っても今まで通り幼馴染みのように振る舞って、部屋で2人きりになった時は雰囲気が変わり、節度を持ちながら幸せに過ごした。

 幸せに過ごしてきた約1年、僕の心にも変化が訪れた。ある学校での出来事、廊下で蓮が知らない女子と話しているのを見かけた。
「蓮、あの子誰?」
「ん? あの子は委員会で一緒の後輩」
「ふーん」
 蓮は昔と変わらず人当たりの良さから人気があった。特に女子から。蓮も自ら困っている人を助けに行くような性格をしている。
 対して僕は存外性格が悪かったようで、他の人と話している姿を見ると胸が締めつけられるように苦しくて、口から「僕以外の人とは喋らないでよ」と言って蓮を縛りそうで怖かった。
 そんな中、蓮と後輩がつき合っているという噂が学校中に広まった。その時の僕は自分勝手で、蓮の話を聞こうとはしなかった。だから一方的に別れ話をした。
「あの噂なんなのさ、蓮は僕が好きなんじゃなかったの?」
「結羽落ち着いて」
「蓮はもう僕のこと好きじゃないんでしょ。だからあの子と噂されていい気になって。僕が好きだって言っているのバカみたいじゃん……」
「結羽、違うって。あの子とは本当に委員会が一緒で、困っているから手伝っているだけで」
 蓮が僕よりあの子のことを庇っている姿を見て余計に腹が立った。そのせいで本当は思ってもいないことを口から出してしまって。
「もういい。蓮なんかもう好きじゃない、僕と別れて。もう関わらないで」
 僕はそう言い放ち蓮の部屋を出て行った。

 あれから約2年、蓮とは全く顔を合わすことがなかった。というか、遭遇しそうものなら自らタイミングをずらしたりして避けていた。
 悪いことをしたわけでも、しているわけでもないのにツラい。それに学校で蓮が誰かと一緒にいるところを見ると本当に苦しい。
(本当は別れたくなかった。昔も今も変わらず、本当は好き。でもこう言わないと蓮は本当の気持ちを言えないだろうから)
 僕はたまに蓮と共に笑い合っている夢を見る。だけど目覚める時は限って涙が溢れる。
「久々に蓮の夢見たな。あ、そうか今日から高校生活始まるのか」
 蓮の高校の制服姿見たかったと思いながら、僕も新しい制服に袖を通す。背が伸びるからと少し大きめに作られた制服は、僕が着れば着られてる感がすごい。
 そんなことを考える暇もなく、母の「そろそろ行かないと遅刻するわよー」という声に返事をする。リュックを背負い、ピカピカのローファーを履いて玄関を出ると、隣の家から同じ制服を着ている男の子が出てきた。
「蓮……」
「あ、結羽久しぶり。これから学校だよね、一緒に行こう」
「あ、うん」
 久々だというのにあの時と変わらない蓮の笑顔にキュンと胸が高鳴る。
(蓮、見ない間に大人っぽくなってる。それに背が僕より高くなって……ってダメダメ。僕はもう蓮を恋愛対象として見ないんだから)
 心の中で「好きになってはならない」と呪文のように唱えながら、共に駅までの道を歩く。
「元気にしてた?」
「まぁ、ぼちぼちかな」
「あれから会わなくなったよね」
「……そうだね」
 誰のせいでと言いたくなるような口ぶりに腹が立つ。でも成長した僕はそんなことを口には出さない。
「てか、その制服って」
「そう、結羽と同じところ」
 似合う?と制服を見せながらそう聞いてくる蓮。僕は適当に似合ってると言ってあしらう。蓮も僕に対して結羽も似合ってるよと言ってくる。
 僕は単純だから、褒められたりするだけで好きのメーターが上がるって。
 でも実際には僕より背が高くなった蓮をカッコいいとは思わずにいられなかった。話を逸らすように同じ制服を着ていることを聞いてみた。
「なんで。てか僕がそこ受験するってよく知ってたね」
「おばさんから聞いてたんだ。だから俺も同じところ受けようって思って」
「なんで。僕から解放されたんだから好きなところに行けばいいのに」
 皮肉にも可愛いとは言えない強い口調で言ってみた。だけど蓮には通じていないようでスルーされた。
「うん、だから好きなところ受けたんだ。ねぇ結羽、また俺とつき合わない?」
「は??」
 衝撃的な一言に耳を疑う。
「あの時、結羽に別れようって言われてショックだった。俺はずっと結羽が好きだったのに。だけど会わなかった期間でどうして別れるって判断になってしまったのか気づいたんだ。俺の行動のせいで結羽が傷ついていたことも、不安にさせていたことも」
 あの時僕が伝えれなかったことを、会わなかった2年で蓮は理解してくれていた。
「俺、結羽ともう1度やり直したい。今度は間違えたりしないから」
 真剣な眼差しに押し負けて、僕は条件をつけた。
 だけど今回は僕から蓮に好きとは伝えない。だってまた僕から伝えるって考えたら悔しいし、あの頃と同じことが起こるかもしれないから。
「2年に上がる春休みまでの約1年間で、僕を好きにさせてみなよ。それでも僕が好きになれなかったら諦めて」
「望むところだ。すぐに好きにさせてやるから」
 高校1年生の春、入学してすぐ元彼と再会しもう1度つき合うこととなった。
 これはただの復縁ではなく、れっきとしたゲームだ。