僕らの好きな人を、振り向かせる方法。

「やりぃ!オレトップ~~~!!」

悟がガッツポーズした、ふんっと鼻を鳴らして得意げに。バカでかい声もゲーセンだとそこまで響かなくて、さすがに隣にいたらうるさかったけど。

「悟くんすごいね!すごい早かった!」
「だろ~!!」

3人で遊ぶってどこに行けばいいのか迷ってとりあえず学校帰りゲーセンに来てみた。ここならすることに困らないし気まずくもならないかなって、一応そんなことを考えて。

「つーか真斗も上手くね!?オレにこんな迫って来る奴初めてなんだけど!」
「本当?好きでよくやってるんだけど、あんまり誰かと対戦したことないから」
「マジ!?超上手いし、これランキングイケんじゃねーの!?」

……。
悟を挟んで俺と屋中が座って、ゲーセンの奥にあるカーレースゲームをしていた。
昔から悟が好きなやつで俺も何度かやったことあるけど…会話に入れないぐらい差をつけられてのゴールだった。たぶん2人は喋ってて俺がゴールしたことにも気付いてない。
こうゆうのマジでセンスない、何度やっても上手くならねぇんだよな。

「も1回やらね!?」
「うん、やりたい!」
「……。」

チャリンとお金が入れられる。
俺は別にエントリーしなくていっか、ひたすらに事故り続けて走るレースの何がおもしろいのかわかんねぇし。
チラッと2人の方を見て、悟越しに屋中の顔を見る。
最近よく喋るようになったけど、そんな笑ってるとこ初めて見た。よっぽど楽しいんだな、今が。
“紡くんならどうする?何を話すの?”
あるじゃん共通の話題、見付かったじゃん。
よかったな話すこと出来て、よかった…

「……。」

会話に困らないようにゲーセンにしたけどやっぱ普通に気まずい。いや、気まずいっていうか…結構酷だ。
この状況を、見てるのは。
…帰るか。最初からそのつもりだったし、テキトーな時に帰ろうと思ってたし。
だからこのまましれーっと消える、俺の役目は果たしたしあとは屋中の好きにしてくれたらいい。
邪魔したくないから、屋中のこと。だから、俺は…

「紡」

気配を消してさっと立ち上がったつもりだったのに、こっちを見てる悟と目が合ってしまった。めっちゃくちゃ気まずい。
レースに夢中で気付かないと思ったのにがっつりこっち見てんだけど、なんで?あ、上手いせいでもうレース終わってる!

「どっか行くのか?」
「え?あー…ちょっと座ってんの疲れたな~って」
「それな~!じゃあ違うとこ行くか!」
「…あ、あぁ」

完全にタイミング失った、今だったろ抜けるタイミング…
しまった、屋中の顔が見れない。なんかじーっと見られてる気がする、まだ何もしてないのにすでにミスった気分だ。

「なぁあれやろーぜ!」

こんな状況も全く見ていない悟が指を差した。レースゲームからちょっと離れたとこ、暗いこのエリアからガラッと雰囲気の変わるピカピカ光る方を。

「クレーンゲーム!」

無駄にでかい地元のゲーセンはゲームの種類も多いけどクレーンゲームの台数が1番多い。商品の入れ替わりも早いし、人気なのも取り揃えてるし。

「悟くん得意なの?」
「超得意!」

ちなみに悟とゲーセンに来て1番やるのがレースゲームで次にやるのがクレーンゲームだった。

「紡が!」

上記の理由で、これに関してはセンスあったのかやればやるほど上手くなった。だからクレーンゲームはわりと好きで、この誘いには普通に頷いた。

「紡これやってくれよ!」
「そんなでかいぬいぐるみいらないだろ」
「最悪隠れ身の術に使えると思うんだよな」
「使えるわけねーだろ」
「なぁ真斗…」

商品を覗きながら悟とどうでもいい話をしてたらクレーンゲームを前にピタッと固まった屋中がいた。じぃーっと中を見つめて、顎に手を当てて神妙な顔で何か考えてる。

「真斗どーした?」
「あ…、これどうやって取るのかなって思って」

屋中が指差したのはちっちゃなぬいぐるみのキーホルダーがこれでもかって山積みになったクレーンゲームだった。

「これって難しい?それとも簡単なのかな?」
「簡単な方じゃね?」
「そうなんだ、クレーンゲームやったことないからわからなくて…」

クレーンゲームなんて生産性のないゲームだからな、絶対買った方が安いだろうし。やらないならやらない方がいい、無駄遣いしなくて済む。
俺は楽しいと思ってるけど。

「じゃあ紡に教えてもらえば?」
「え!?」

がしっと肩を掴まれて引っ張られた、必然的に屋中の前に立つように。

「超上手いぞ!」
「え?」
「本当!?じゃあ教えてほしい!」
「え~…っ」

パァッと嬉しそうにする屋中を前に少しだけドキッとしてすぐに目を逸らした。

「…わかった」

変に思われないようにクレーンゲームの方を見て誤魔化した。
今のは俺にじゃなくてただクレーンゲームがしたいから、ただそれだけで…

「どうすればいいの?」
「……。」

だから近付いてくるな、隣に並ぶな。
体が触れそうになるだろ…!

「とりあえず金入れて」

スッと避けるようにコインの投入口の前を開けた。悟の隣に立ってちょっと離れたところから見ることにした。
この台ならそんなに目視しなくてもいいし。

「お金入れたよ、次はどうすればいいの?」
「アームが弱いから掴むのは諦めて上から転がして落とす感じで」
「こ、転がして落とす…??」
「…山の上のぬいぐるみとぬいぐるみの隙間を狙ってアームを入れて、奥に入れ込んで掴むイメージ…なんだけど」
「わ、わかった!やってみる…」

だいたい感覚でやってるから人に教えるって案外難しい、なんとなくこの辺にアーム入れたらイケそうかな~ってざっくりとした感覚でやってるから。
あとこれ系の商品ってほぼいらなくて、だた欲求を満たすだけなんだよなー…

「あ、取れた!」

屋中がボタンを押したアームは間には入らなかったけど運よくタグに引っかかった。そのおかげで器用にアームがぬいぐるみを運んできた。
なんだよ、俺よりセンスあるじゃねーかよ。

「ねぇ見て紡くん!取れた!」

すぐに商品を取り出した屋中が見せてくれる、ほらっと言わんばかりの嬉しそうな表情で…

「ぶっ」

隣で吹いた、悟が思いっきり。だいぶ濁った音がした、絶対それ唾飛んだだろ。

「真斗なんだよそれ~~~!」

ケラケラケラーッと腹を抱えて笑って、相当おもしろかったらしい屋中の取ったぬいぐるみが。緑色のもふっとした、何のぬいぐるみかよくわかんないやつにめちゃくちゃ笑ってた。

「なんだそれ!サボテンか!?マリモか!?」

それくらいだよな、だけどトゲトゲもしてなければ丸くもない。なんならちょっと鍵穴みたいな形してるけど…

「“古墳くん”って書いてある」
「古墳かよ!!?」
「……。」

絶対いらな過ぎるぬいぐるみに俺も笑いそうになった。でもなんか笑っちゃいけない気がしてグッと堪えた、屋中は全く笑ってなかったから。
初めて取ったクレーンゲームの商品だ、あんま笑うのはあれだ。
笑わないで、笑わないで…
いや古墳ってなんだよ!しかも全然可愛くねぇー…

「ビギナーズラックだな!」

悟、それ意味全然違う。
いや、合ってんのか?間違ってはない、のか?まぁ取れなかったよりはマシか、たぶん。
ヒーッと声を出した悟はまだ笑って、俺の方が居たたまれなくなった。
とりあえずなんか話題変えるか、屋中がじっと古墳くんを無言で見つめてる時間をどうにかするために。

「他になんかやる?なんか欲しいやつとかー…」
「あれがいい!」

で、これには速攻食いついてくるんだよ。

「紡これ取ってくれよ!」
「…いいけど」

笑い過ぎて流れた涙を拭きながら悟が反対側の台を指差した。今度はぬいぐるみじゃなくて大量のポテトチップスが山積みになったクレーンゲームで、ぎゅうぎゅうにポテトチップスが詰め込まれていた。

「腹減った!」
「今から食うためにかよ」
「笑ったら腹減った!」
「……。」

ふぅっと息を吐いて台を確認する、このパターンも要領的にはさっきのぬいぐるみと一緒で軽い分こっちのが取りやすいと思う。でも1回で取らないと損にはなるけど。
とりあえず100円を入れて軽く操作してみる。
様子見しなくても1個くらいはイケると思うんだよな~…

「お、いいとこじゃね!?」

サクッと間にクレーンが入り込んで、上がった時には山積みのポテトチップスたちがガサガサと動き出した。
ガラスにベタッとくっついた悟がドヤ顔で実況してるのを見てこれはいいとこいったなと、あとはこのまま流れるように落ちてくれたら…

ズサァァァァーッ

「すっげッ!!!」

俺より驚いた悟の声がキーンと耳に響いた、ガラスの前だから反響がすごくて。
1個取れたらいいやと思ってたのに雪崩みたいに勢いよくポテトチップスが転がっていったから、こんなに取れるとは思わなくて俺も驚いた。

「紡くんすごいね!いっぱい落ちたよ!」

屋中も興奮気味に声を出して、悟はもうしゃがみ込んでポテトチップスを取り出していた。
ショーケースの中で山積みだったポテトチップスな平面になって、大量のポテトチップスを抱えた悟はホクホク顔で自分が取ったみたいにご満悦だった。

「ちょっと袋もらいに行ってくるわ!」

そのままポテトチップスを抱えて走り出した。クレーンゲーム用の無料ビニール袋をもらいに行ったらしい、それは助かるけどそのせいで屋中と2人になってしまった。悟がいないと意味ねぇのに。

「すごいね紡くん、本当に得意なんだね!」
「ちょっとだけだけど、今のは偶然だし」

何を喋りゃいいのか、少し迷う。最悪喋らなくてもいい空間で何を…

「すごいよ!僕感動しちゃった!」
「そんな感動する要素あったか?ただのクレーンゲームだぞ」
「本当にちゃんと間狙ってたし、あぁやって取るんだって感動したよ!」

ふぅっとしゃがみ込んだらまだもう1つクレーンゲームの中にポテトチップスが残ってた。取り忘れられたポテトチップスに手を伸ばして取り出して、屋中の前に差し出した。

「屋中もいる?」
「え、…僕もくれるの?」
「食うなら、大量に取れたし」

少し戸惑ったように見せた屋中に、余計なことしたかなってやっぱりあげるのをやめようかと思った。
一瞬、出そうとた手に迷いを感じたから。

「いらないなら別にいいけど、いくつあっても悟喜ぶかっ」
「ありがとう!」

ぐいっとポテトチップスが引っ張られ、手から離れて行った。ぎゅっとポテトチップスを抱きしめるように持って、好きだったのかよって思わせるような顔をして。
…喜んでくれるなら、俺のしたことで。それだけでも今日の意味があった。

「あ、何かお礼するね!えっと…っ」
「ただのお菓子だから、しかもクレーンゲームで取ったやつだし」
「でももらったらお礼はしないと!えっと、何かうーん…」

値段で言えば100円ちょいくらい、クレーンゲームで大量に取れたやつだから十数円。わざわざお礼なんてしてもらうものでもなくて、だけどそれも屋中ぽくて思い出してしまう気がした。思い出さない方がいいのに。

「あ、これ!今これしか…っ」

ポケットから取り出されたのは古墳くん、さっき屋中がクレーンゲームで取ったやつ。

「…。」
「……。」
「…いらないよね、これ」

眉をハの字にして控えめに笑った、瞬時にこの場の微妙な空気を察知してだと思う。
だけど迷って、ほんの数秒迷って、手を伸ばしてしまった。

「ほしい!」

これは思い出に、今日の思い出になればいいって。

「あ、悪いっ!なんか、その…っ」

勢いで握っちゃったから、少し目を丸くした屋中にビビって手を離した。
絶対変に思われた、すげぇびっくりしてた。
急に恥ずかしい、何言ってんだ俺…!

「あの、本当に別にっ」
「可愛いよね」

え…?
ふっと顔を緩ませた、控えめだった表情は明るくなっていくみたいに。だからドキドキ、胸が高鳴って。

「悟くんは笑ってたけど僕は古墳くん可愛いって思って案外嬉しかったんだけど…、紡くんも可愛いって思った?」

嘘をついた。

「…うん」

じゃなくて、本当にそう思った。今は、今だけ、今から。

「あげる、紡くんに!」

緑のエセサボテンぐらいに思ってたぬいぐるみのキーホルダーが屋中から渡された瞬間に急にきらめいて、そう思うことも恥ずかしかったんだけど素直に嬉しかった。
手のひらに乗せられたぬいぐるみにドキドキが高まっていく、だけどこれ以上うるさくしないように無理やり飲み込んでぎゅっと握りしめた。
きっとここで、そんな気持ちになっちゃいけないと思って。

「…屋中」

静かに息をする、もらったぬいぐるみを見つめて目を伏せる。
ずっと心に残っていた、頭の中ではわかっていても理解出来なくて。

「なんで俺と仲良くなりたいわけ?」

ぶわっと胸が熱くなると同時、ぎゅっと押し込まれるみたいに息苦しくなった。どっちの感情にも飲み込まれそうになって、だけど胸が痛いのには変わらなかった。

どうしてもあの時の言葉が飲み込めない。
“僕は紡くんと仲良くなりたい!”
そこまでして悟のことが知りたかったのか?

なぁ屋中、俺は…

「好きな人が一緒だと嬉しくない!?」

ピクッと体が反応して動けなくなる。俯いた視線を上げることが出来なくて屋中がどんな顔してるのかわからなかった。
でも声が、いつもより少し高かったから。

「だ、だって好きな物が一緒ってことは気が合うってことでしょ!?紡くんも言ってたし、共通の話題がいいって!」

息継ぎもなしに一気に喋る屋中はどこか必死で、屋中の気持ちがそこに詰まってるんだと思った。
取りこぼしたくない、屋中の抑えきれない気持ちが。

「それに、男…なわけじゃん?僕たち、…だからこんな話他に出来ないから」

それが全ての答えな気がして。
そうだよ、わかってるよ。だからバレた時、まずいと思った。
でも変わらない顔をした屋中を見てどこか安心したんだ。
やっぱり俺に利用するなんて向いてねぇよ。

「…そうだな」

本当にそうだったら、よかったけど。
普通に友達になれたらよかった、友達だったらよかったのに。
余計な感情持つんじゃなかった。
体の力が抜けていく、ぶらんっとぬいぐるみを持った手が下がって…俯く視線が上げられなかった。

「紡!袋もらって来た!」

ビニール袋にポテトチップスを入れた悟が戻って来た。その声に慌ててぬいぐるみをズボンのポケットにしまった。

「袋もらったんだけど見て!パンパン!」

だけどケラケラと笑う姿を見てよかったと思った、空気が軽くなるように思えて。
これ以上屋中と2人だったらどうしようかと思った。それを見て笑う屋中も、きっとよかったと思う。
悟はこんな時いてくれると助かる、屋中もこうゆうとこがいいんだろうな。

「あ、僕ちょっとトイレ行ってくるね」
「おー」
「……。」

行くなよ、今。俺が悟と2人になるだろーが。
たまにこんなとこあるよな屋中って、散々悟をどう誘ったらいいのかとか言うくせに。
…屋中も迷ってるのかもしれないけど、簡単に叶う気持ちじゃないことに。

「紡、これ!」
「え?」

どんっと持っていたビニール袋を渡された。袋に入っていても思った以上にポテトチップスがいっぱいで抱えるしかなかった。

「え…、なんで?」
「なんでって紡のじゃん」
「でも悟が欲しいって…」
「うん、欲しい!1個くれ、今から食うから!」

ひょいっと1つだけ手に取ってバリッと袋を開け始めた。
本当に今から食うんだ、マジで腹減ってたから欲しかったのかよ。てゆーか俺こんなにいらないんだけど、自分が持って帰る想定してなかった。

「紡に誘われるって何気に初じゃね?」
「え?」
「いっつも俺からだったし!」
「あー…そうだっけ?」

誘わなくても誘われてたから、昔は。高校になって友達も変わってあんまり誘われることもなくなっただけで、それも特に何も思ってなかった。

「俺、紡と遊ぶのけっこー好きなんだよな~!」

だからそんな風に思われてることも知らなかったけど。幼馴染だし子供の頃から一緒だったから、なんかあたりまえみたいで。

「楽しくね?」
「…そうだな」

なっと笑ってポテトチップスの袋を向けられたから手を伸ばして1枚取った。美味いけど、やっぱりこの大量のポテトチップスはどうしようかと思いながら。

「あ、そーだ!ちょっと紡に聞いてほしいことあってさ」

なんかその入りは嫌だ、また何か頼まれるのかと思うと。
無性にドキドキした、今まで何回も頼み事はされてきたけどこのパターンは初めてだったから。
何を言われるのか、ごくりと息をのんで…

「俺、文化祭で告白しようと思ってんの!」

え?告白って…

「告白!?」

あ、やばい。思いっきり声出た、繕うことも出来なくてそのままオウム返しになってしまった。
だって告白って、告白だぞ!?
悟からこんなこと初めて言われたからテンパっちゃったじゃないかよ。

「いや~~~っ、俺も迷ってるけどな!でも()うならここじゃね!?」

カサカサーッと最後に残った粉々のポテトチップスを流し込んでごくんっと飲み込んだ。
さっきまでドキドキしていた心臓の音がバクバクと低音に変わる、体の中から内臓が殴られてるみたいだった。
き、聞いてもいいのか?聞いたらダメなのか?でも俺に報告してくるぐらいだから別に…っ

「誰に、すんの?告白って…」
「それは言わな~い!秘密~!!」
「なっ、なんだよそれ!」
「成功したら教えてやるよ!」
「…っ」

ニッと笑う悟はもう決めてるんだと思った、もう心の中に決めた人がいて伝えようとしてて。
俺が告白するわけじゃねぇのに変な汗が出て来る、ぎゅっと手を握りしめることしが出来なくて。

「でも紡の知ってる奴だから!」

俺の知ってる奴?
そんなの限られてるじゃねぇかよ、絶対学校の奴しか…っ
焦るな俺、落ち着くんだ。息を、するんだちゃんと。
ゆっくり吸って吐く時には平静を装って、何でもないフリするんだ。

「じゃあ…、なんで俺に話したわけ?」

少し上を見て悟と目を合わせる。表情に力が入らないようにすーっと息を吐いて。

「だって幼馴染だろ?紡に聞いてもらいたかったんだよ」


****


昨日は眠れなかった、頭の中でぐるぐる駆け巡るせいで落ち着かねぇし気分は悪いしで一睡も出来なかった。
何度も繰り返されるから、悟の言葉が。
そのたびに胸がおかしくなる、ずっと閉じ込められたみたいに苦しくて。

悟の告白の相手って誰なんだ?
俺の知ってる奴って誰だよ、それはもしかしてー…

「紡くんおはよう」
「やっ、屋中…おはよう」
「…どうかした?あんまり顔色よくないよ」
「全然!全然普通だけど!」

朝っぱらから屋中に会ってしまった。下駄箱で上靴に替えようとしたら話しかけられて、変に焦っていつになく強めに返しちゃったし。

「…ちょっと寝不足なだけだから、全然大丈夫」

いつも通りを装って、上靴を取り出して履き替えた。
考えるのは1回やめよう。頭が重過ぎる、一旦離れないとまずい1日中このままはやばい。
必死に顔に出ないようにしてんのに、このままじゃ…

「おっはよーーーーーースッ!」

なのに最も顔を見たくない相手がご機嫌にやって来たんだけど。

「なんだ?どうかしたか??」
「おはよう悟くん」
「おはよ!で、どーした?」
「紡くんがあんまり寝てないって話をしてて…」
「……。」

屋中も屋中で話さないでくれ、もうこれ以上広げたくねぇんだよ。てゆーが原因そいつだし、今この話したらまたややこしくなるんだよ。
いや、話すつもりもねぇけどなんか気持ち的に…!

「あ、それってあれだろ!?」

ニヤッといやらしい顔で笑ってくる、マジでややこしくなるその顔は。ただでさえ寝不足で気持ち悪りぃんだよ黙ってくれ、マジで。

「昨日もナレーションの練習してたんだろ!?」

……。
わっとバカでかい声で話す悟を見て思い出した、悟がこうゆう奴だったって。16年幼馴染やってんのに忘れてた。

「紡気合い入れてんもんな~~~!超ストイックじゃん!!」

良いんだが悪いんだが、もうそれでいいと思った。なんかいい感じにこの場がどうにかなればそれは助かる。

「ナレーション?」

いまいちピンと来てない屋中は首を傾げてたけど。

「文化祭の!紡はナレーション才能あるからな!」
「テキトーなこと言うな、一応練習してるだけだわ!」
「上手かったぞ、感動したね俺は」
「バカにしてんだろっ」

これで収まったならこれでいい。まぁナレーションだって嘘じゃないけど、上手く出来たらいいなぁとか思ってやってんだけど。
チラッと屋中の方を見たら笑って返された、微かに聞こえた心臓の音に恥ずかしくなってすぐに目を逸らしてしまった。

「紡くんのナレーション僕も聞きに行くよ!」

心臓がキュッとなってまた止まらなくなる。

「真斗怖いの嫌いじぇねーの?」
「がっ、がんばる!」
「…いいよ来なくて、普通のナレーションだから」
「行きたいから!」

そんな繰り返しだ、些細なことで惑わされる。
こんな時もうどんな顔をしたらいいのかわからなくて、平気な顔ってどんな顔だったっけ?

「つ、紡くんのナレーション聞きたい!」

所詮文化祭のお化け屋敷だ、ショッピングモールのお化け屋敷みたいなクオリティーは出せない。
出せないけど、やる気にはなってた。楽しみだって言ってくれたあの日から。
単純なんだな俺って、自分のことでも新しい発見だったよ。
今も、嬉しいって素直に思えたらよかった。

「俺も行くぜーいっ!」
「…勝手にしてれ」

それでもとりあえず今やれることをやる、それが上手くいってもいかなくても。それが今俺に出来ることだから、落ち着きのないこの気持ちを少しでも落ち着かせたくてやるしかないんだ。

せめて文化祭まではー…

「奥江くん、ナレーション代わってくれないかな!?」

と、思ってたのに。

「……え?」

教室に入ったら手を合わせた山下さんが立ってた。ぎゅっと目をつぶって合わせた手にも力が入ってる。

「ほんとごめんね!すっごいごめんね!!?」
「…何かあった?あ、実は山下さんナレーションやりたかった?」
「ううん、代わってほしいのはあたしじゃないんけど…っ」

申し訳なさそうにした山下さんがチラッと後ろを見た。その目配せにすっと席から立ち上がった上野がスマホを手にして山下さんの前に立った。
なんだ?何かあったのか…

「AIに任せるのはどうかと思ってさ」

…AIに任せる?
上野がトントンッとスマホをタップして用意して来たっぽいデータを開いた。トンッともう一度タップしたらナレーションが流れ始めてBGMまでついてた。

「こないだのお化け屋敷もさ、あれたぶん作ったやつかと思って人の声じゃなかったと思うんだよ」

確かに人の声にしてはキレイ過ぎたかとは思うけど、今の時代あれくらい作るのは簡単で金払って見るお化け屋敷なんだからそらそーだろとも思う。毎回人の声でやってらんねぇし、商売なんだから。
でもこれは文化祭、みんなで作るのが文化祭って矢野先生も…

「AIに任せた方が怖さ増すんじゃないかと思って」

おどろおどろしたBGMに淡々としたナレーションが流れてく、だけどここぞって時には張った声になって明るい教室で聞いてるだけでもビクッとなってしまいそうなくらい。

「どうかな?」

そりゃAIのが上手いだろ、タイミングとか計らなくても全部忠実に合わせられるんだから。

「奥江には悪いんだけど」

だったら最初からそう言ってくれたらいいのに。最初からやりたいとか思ってなかったし、頼まれたから引き受けただけで別にナレーションなんてやりたくなかった。
もっと早く言ってくれたらよかったのに、もう覚えちゃたじゃねぇーかよ。

「紡くん…」

カンペなんか見なくても、どのタイミングで言おうかも、覚えちゃったんだよ…

「あ、でも奥江がやりたいって言うならっ」
「いいけど」

ここ数日ずっと、いかに表情筋を動かさないことを考えてきたからそれが今役立つことになった。
だから被せるように答えられた、何とも思ってない顔をして。

「ナレーションとか苦手だし、そうしてくれたら助かるよ」

最後にはふっと笑えるくらい、元々得意なんだ自分の感情を殺すのは。
自分殺して喋るナレーションより得意なんだよ。

「マジでいいの!?奥江何て言うかなって言うか迷ったんだけど!」
「ごめんね奥江くん、あたしが言ったのにっ」
「うん、そっちの方がいいと思う俺も」

この場を崩さないように、それが俺の出来る精一杯で俺の役目だ。
みんながやりたいようにやって、穏やかに終われたらそれでいい。それが1番いいから。

「紡、本当にそれでいいのか?」

それなのにこんな時だけ聞いてくるなよ。なんでお前がそんなこと言うんだよ、お前にだけは言われたくねぇのに。

「だって紡っ」
「いいよ」

平気な顔が出来なくなる前に終わりにしたくて、グッと悟の方を睨んでしまった。
たぶんそんなこと初めてで悟もびっくりしてた、いつも頷くことしかしない俺にそんな視線向けられると思ってなくて。グッと瞳に力が入ってしまった。

「それがいいから」

だけどスッと前を向いた時には表情を殺して、最後にはうんって頷いた。
いつも通り、これが最善でこの空気感を保ったまま終わらせることが出来たらなら“それがいい”に決まってる。
それに少し、胸が痛んでも。


****


「あ、やばい金忘れた…」

昼休み、弁当を食べ終えた後中庭の自販機に来たけど金を持ってくるのを忘れたことに気付いた。
教室に取りに戻るのめんどくせぇな、スマホで買える自販機置いといてくれよ。無駄足じゃねえか。…仕方ない、諦めよ。
しょうがないから自販機に背を向けて、教室に戻ることにした。足は重くてあんまり戻りたいとも思わねぇけど、学校の昼休みに他に行くとこもないから。
本当は、はぁっと勝手に漏れるこのやたら重い息を無理にでも流し込みたかった。だけど金忘れるとか本当ツイてない。
今日はそんな日なのか…、気の沈む嫌な日だ。

なんて思いながら、ダル重い足を動かした。無理矢理一歩前に進むみたいに、だけどその瞬間ガコンッと後ろから音がした。
誰かが自販機でジュースを買った音だ。ついその音に反応して振り返る、それはただ何気なく振り返っただけだったのに…屋中がいちごミルクを差し出していたから。

「紡くん、これあげる」

きっとさっき買ったばっかの、いちごミルクを。

「紡くんこれ好きでしょ?」
「…あぁ、ありがと」

ゆっくり手を伸ばして受け取った、ひんやり冷たいいちごミルクに心臓がドクンッとして。

「紡くん…、大丈夫?」
「え、何が?」
「えっと…」

眉をハの字にした屋中が気遣わしげな顔で目を泳がせるから、一瞬何のことかわからなくてきょとんとしてしまった。
言いにくそうに口をパクパクして、何か…

「あ、文化祭の?」
「う、うん…!」

あー…そうだな、あの場に屋中もいたもんな。チャイムが鳴ったから先生が来てすぐにあの話も終わったし、もう誰も気にしてないからいいかと思ってた。
今、屋中に言われると思わなくて。

「全然!やらず済んでよかったと思ってるし、ラッキーみたいな?」

もらったいちごミルクにストローを差して自販機の隣のベンチに腰掛けた、そのままごくんと一口飲んで。
何度飲んでも甘ったるい、一口飲んだらずーっと甘さが残って全然消えない。これをおいしいなんて、一度も思ったことねぇけど。

「…そんな顔には見えないよ」
「……。」

どうして屋中の方が悔しそうな顔してんだよ、なんで屋中の方が泣きそうな顔してんだよ。全然流し込めない、こんな甘ったるいいちごミルクじゃ。

「前もくれたよな、これ」
「え…?あ、覚えてる!?」
「ゴールデンウィーク終わった後?ぐらいの時に」
「そう!僕その時休んでて!」

ゴールデンウィーク明けに体調不良とかどんくさい奴なんだなって思った。しかもまぁまぁ休んでて、テスト前は追い込み授業ばっかなのにいいのかって他人事に思ってたんだけど。

「…授業置いてかれちゃって困ってる時に紡くんがノート貸してくれたんだよね」

貸してほしいって言われて、いつもみたいに頷いた。
何が必要なのかわかんねぇからとりあえず全部渡しときゃいいかと思って、あとテスト範囲とテストに出るって言ってたとこと。聞かれそうなこと一通り言っておけばいいかって…

「だからお礼に」

初めてだった、お礼とか。なんかあたりまえで俺も忘れてた。

「すごく嬉しかったから!」

それが初めての屋中と交わした会話だった。

「紡くんがいちごミルク飲んでるとこ見たから好きなのかなって」

その瞬間好きになったんだよ。
全然好きじゃなかったのに、あの甘ったるさが恋しくなって毎日自販機に向かってた。飲んでる時はどこか幸せな気分になれたから。
俺にとってのいちごミルクはそんな存在だった。

本当に些細なことだった。
気付けば目で追ってたんだ、屋中のこと。
嬉しかったのは俺の方なんだ。

「頼まれたら断れない(たち)なんだよ」

まだ半分以上残ったいちごミルクを両手で握って膝の上に置いた。真っ直ぐ前を見るように、だけどどこにも焦点なんか合ってないただ見てるだけで。

「小学生の頃さ、遠足の班決めをすることになったんだけど…男女半々くらいで自由に組んでいいってなったから仲良い奴らで集まって、黒板に名前書いたんだ。それでどこ回ろうかって話してて…」

その間、屋中はずっとその場に立って俺の話を聞いていた。

「もう気持ちは遠足であそこもいいしここもいいなーとか考えて楽しみだなとか思ってたんだけど…」

今でも思い出すと心臓がキュッとなる。
それほど残ってるから、心の奥にずっと。

「1人の奴が俺に向かってやっぱり班代わってほしいって言ってきたんだ」

一瞬、何も言えなかった。目を丸くするだけで何も。

「嫌だ、って…その時は言えたんだよ、言ったんだけど…」

言ってすぐに後悔した。

「その瞬間そいつすげぇー不機嫌になって、あんなに盛り上がってたクラスも一気にテンション下がってさ」

クラスの真ん中にいる奴だったから。いつもみんなに囲まれて、誰にでも話しかけるから嫌いな奴なんていなくて誰より好かれてた。

「楽しい遠足が台無しみたいな雰囲気になった」

だから明るく笑ってないそいつにみんな同情したんだ。

「あ、俺のせいだって思った」

しーんとする教室で間違えたと思った。俺が余計なこと言ったからクラスの雰囲気が悪くなったんだって。

「だからすぐにやっぱり代わる、って答えた」

心臓がバクバクして手が震えて、すぐにどうにかしないとって焦ってた。どんどん重くなる空気に耐えられなくなって大きな声でそう答えるしかなかったから。

「…怖くなって」

それからNOが言えなくなった。どんな嫌なことでも引き受けるようになった、うんって頷くことしか出来なくなった。

あの日からそうすることしか出来なくなった、今もずっとー…

「それ、紡くんのせいじゃないよね?」

黙って聞いていた屋中が静かに口を開いた。眉はハの字のままだったけど、さっきよりも必死な顔をしていた。

「紡くんのせいじゃないよ!悪くないよ紡くん、だってっ」
「いいんだよ、それで」

顔を上げて屋中と目を合わせる、まだ何か言いたそうだった屋中の口を止めるように。

「これが1番いいから」

それ以来これがラクだって思った、こうすることが1番丸く収まって事なきを得る。
だったらそれでいい、別に自分の気持ちなんてどうでも…

「でも紡くんは仲良い人と一緒になれなかったんだよね?それって紡くんが損してるってことじゃ…」

ずっと、そう思ってきた。

「誰かが損するぐらいなら自分が損する方がいい」

俺が我慢したら収まるんだ、ただそれだけのこと。
だからナレーションだってAIに任せたいならそれでいい。その方がいいってみんなが言うなら俺は降りることが出来るから。別に将来役立つとかないんだし。

「…紡くんって優しいよね」
「別に優しくねぇよ、波風立てたくないだけだ」
「でも紡くんは…」
「…。」

屋中がゆっくり隣に座った。じっと俺の方を見て、いつもより近い距離に少しだけドキドキして。

「僕、紡くんには幸せになってほしい」
「…別に不幸なわけじゃねぇけど?」

そこまで深刻なものでもないんだけど、そんな顔されると逆に困る。
幸せとかそうじゃないとか規模でか過ぎる、それにこれは俺が俺でいられるための手段でー…

「じゃあ僕が付き合ってって言ったらYESって言うの?」
「はぁ!?」

自分でもびっくりするぐらいでかい声が出た。ひっくり返るどころじゃない、どこから出たんだって感じの。
目玉飛び出るかと思ったわ!

「言うかよっ!何言ってんだよ、誰がそんな…っ」

どこでその思考回路に辿り着いた!?今そんな話じゃなかっただろ!?そんなくりんとした目で見て来るな、見つめるな!
焦ったし、すげぇー焦って…っ
急にいろんなとこから水が噴き出るかと思ったぐらいギュンッて上がった体温に心臓は驚いてる。
バックンバックン、激しく鼓動が鳴って息苦しくて…

「言えたね、YESって」

屋中が微笑む、少しだけ目を細めて優しく頬を上げた。
その瞬間、ふわっと風が吹いたみたいに心が軽くなった気がした。
ドキドキしてるのに、苦しいのに、でも嫌じゃない。

きっと今、恋に落ちたみたいに。

「…逆にそれ俺がYESって言ったらどうするつもりだったわけ?」

自分でも何を言い出すんだって思った、だけどドキドキする心臓の音に刺激されて。ふいっと視線を逸らして俯いた、顔は見られなかったから。

だから屋中が近付いたことにも気付かないでー…

「キスしようかと思った」

くすっと笑うから、耳に屋中の息がかかる。そこからぶわっと熱が吹き込まれていくみたいだった。
スッと伸びて来た屋中の手が俺の手を覆うようにぎゅっと握って、ゆっくり指を絡ませる。1本、1本、繋がれていく指先にピクッと反応してなすがままに手が触れる。

「や、屋中…あのっ」
「何?紡くん」
「何してんの?これ…っ」

キュッと繋がれた手はもうほどけなくて、振り払おうにも振り払えない。だけど振り払うなんてことも、出来なくて。

「離して…くんない?」
「どうして?」
「どうしてってそんなの…っ」

この状況誰かに見られたらどうするんだよ、絶対おかしいだろ何してんだろってなるだろ!男同士で何してんだって…!?
だけどそんなことよりもう限界で、平気なフリをするのはもう無理で。
自分の感情を殺すなんてこの状況で不可能なんだよ、だって俺は…っ

「ドキドキするからだよっ!」

声のトーンも合わせられなくてぎゅっと目をつぶってやみくもに叫んでしまった。ボンッて顔が熱くなる、てゆーかそんなことも気にしてられない気持ちがいっぱいいっぱいで。

「だってドキドキさせてるんだもん」

……は?
それなのにあたかも普通なテンションで返してくるから、てゆーか“だもん”ってなんだよ“だもん”って…
はぁ~~~~~っ!?
隣を見ればパチッと目が合って、どんぐり眼は瞬きもしないで俺を見てた。くりんとした瞳には俺しか映っていない。
くすって顔を緩ませ笑うんだ。

「シチュエーションって、大事だよね」

お、お前屋中…っ
お前~~~~~…っ!
なっんてことしてくれるんだ、こっちはもう限界突破しそうなのにっ

「でも僕もドキドキしちゃった…!」
「!」

手を離した屋中が両手で顔を覆った。長い前髪を利用して必死に顔を隠してる、だけど真っ赤になった耳が少し震えて…
待って、それはちょっと可愛いじゃねーか。そんなの見せつけられてどうしたらいいんだよ、俺までまたドキドキが…っ

「…っ」

手を、繋ごうか迷った。屋中が離した手にもう一度触れようか迷って、手を伸ばしたけど…出来なかった。すぐに戻してしまった。

これ以上はやめておいた方がいい、たぶん戻れなくなる。
ただ見てるだけでよかったんだ、これ以上近付いたらダメなんだよ。

近付いたら…

だからふっと手を下ろして、忘れていたいちごミルクを飲んだ。


****


まだドキドキが収まらない放課後、スクールバッグを肩に掛けて帰る支度をする。あとはただ帰るだけ、用もないしただ帰るだけ、なのに無性に心臓が騒がしい。

今日は普通に帰るよな?何も言われないよな?
いや、言われるなら言われたでそれは…
“つ、紡くん!一緒に帰らない…!?”
どこか期待してた、そう言われることを。
少しだけ待ってたんだ、屋中に誘われることを。

本当はそれさえもドキドキしてたから。

「悟くん!」

だけどそれはあくまで利用するため、振り向かせる方法を探すため。

俺に向けられた言葉じゃないってー…

「一緒に帰らない?」

そんなのわかってたじゃないか。
最初からそうだった、はずなのに。

何を勘違いしてたんだろう?
どこで間違えたんだろう…
屋中の気持ちが叶えばいいって、ずっと思ってたはずなのに。
きゅっと手を握った、感触を忘れたいって思って。
でも熱くなる瞳はもう止められなくて…

「…っ」

教室から駆け出した、廊下を走って一刻も早く帰ろうと思って足を動かした。

無理だ、もうこんなの無理だ。
どうして頷いちゃったんだろう、利用するのも利用されるのもとうに限界は超えてんだよ。
もうやめようこんなこと、こんなことしたって意味ねぇよ。