鳥のさえずりに誘われるようにして窓の外に目を向ける。
雨上がりの美しい青空が目にまぶしい。
気息を調え、姿勢を正す。身体の調子はすっかり良くなって、気怠さはなかった。
一通り身支度を整え、ふと窓の外を見ると小鳥が飛び立っていくのが見えた。
急がねば、と歩を速め、玄関へと続く階段を降りきったところで、突然声をかられた。
「レギナルト!」
振り向くと、そこには父がいた。そしていきなり肩を叩かれた。
「でかした!」
父は、ひどく上機嫌な様子だった。しかし、でかしたと言われるような心当たりが私にはない。
なんのことか分からず、問い返してみると父は「うぅむ」と唸って、太い腕を組んだ。
私を呼びとめたものの、どうやら突発的な行動だったようだ。
そういえば、父がこんなに嬉しげに……上機嫌で私に話しかけてくるのは、いつぶりだろうか。……思い返しても、いつぶりなのかわからないほどに、久しい。
「うむ……言ってやりたいところだが、今はまだ、な。時機を見てと言われておるし……、商談に焦りは禁物。約束を違えるのも禁物……」
何かしら商売で良い取引でもあったのか。だとして、なぜ私にそれを言うのか。
父は私の不思議そうな視線を意にも介さず独りごちる。
「しかし、望みは薄かろうと思っておったが……。何が幸いするかわからぬものだ。この幸甚、偉大なる御神ルーサに感謝を」
「…………」
父の信仰心はそれほど篤くない……はずなのだが。その父の口から、さらりと神の名がこぼれ出て、私はさらに戸惑った。
父の上機嫌の理由がますますわからない。
しかもわざわざ私を引き留め、私に対して「でかした」というのだから、私が何かしら父の意に叶ったことをしたのだろうか。身に覚えはないが……。
「今日はリーゼロッテ伯爵令嬢の家庭教師の日であったか」
「はい」
「そうか。励めよ、くれぐれも失礼なきようにな」
よろしく伝えてくれ、と妙に強く念を押される。
頷いて、私は釈然とせぬまま家を出た。
つまり、伯爵令嬢リーゼロッテ様に関わることなのだろうか、父の上機嫌の理由は?
馬車に揺られる道中、父の上機嫌の理由を考えてみた。
しかし、わかるはずもない。
唐突に出されたリーゼロッテお嬢様に関することだろうかとまでは推察できたが、「関する」「何か」に思い当たることがない。
なにしろ私は、アスク家の不出来な次男として常に父母を落胆させてきた。褒められるようなことはないといっていい。伯爵家のご令嬢の家庭教師となることが決まった時にしても、それ自体は父の功績だ。社交的な父がどんな話の手管か、伯爵家の三女リーゼロッテお嬢様の家庭教師として私を推薦したのだ。
父が「でかした」と私に言ったのは、実はこれで二度目だ。一度目は当然、家庭教師として正式に採用された時だ。
つまり、今回の「でかした」もお嬢様に関することなのだろう。
「リーゼロッテ伯爵令嬢」
馬車に揺られながら、ぼんやりと思考にふける。
リーゼロッテお嬢様の信頼を得たことが、父を喜ばせているのだろうか?
今になって、とも思うが……ともあれ、リーゼロッテ伯爵令嬢に関することで、ほぼ間違いはなかろう。
リーゼロッテお嬢様の、あまり動かぬ表情を思い出して、ふと微笑がこぼれた。
雨上がりの美しい青空が目にまぶしい。
気息を調え、姿勢を正す。身体の調子はすっかり良くなって、気怠さはなかった。
一通り身支度を整え、ふと窓の外を見ると小鳥が飛び立っていくのが見えた。
急がねば、と歩を速め、玄関へと続く階段を降りきったところで、突然声をかられた。
「レギナルト!」
振り向くと、そこには父がいた。そしていきなり肩を叩かれた。
「でかした!」
父は、ひどく上機嫌な様子だった。しかし、でかしたと言われるような心当たりが私にはない。
なんのことか分からず、問い返してみると父は「うぅむ」と唸って、太い腕を組んだ。
私を呼びとめたものの、どうやら突発的な行動だったようだ。
そういえば、父がこんなに嬉しげに……上機嫌で私に話しかけてくるのは、いつぶりだろうか。……思い返しても、いつぶりなのかわからないほどに、久しい。
「うむ……言ってやりたいところだが、今はまだ、な。時機を見てと言われておるし……、商談に焦りは禁物。約束を違えるのも禁物……」
何かしら商売で良い取引でもあったのか。だとして、なぜ私にそれを言うのか。
父は私の不思議そうな視線を意にも介さず独りごちる。
「しかし、望みは薄かろうと思っておったが……。何が幸いするかわからぬものだ。この幸甚、偉大なる御神ルーサに感謝を」
「…………」
父の信仰心はそれほど篤くない……はずなのだが。その父の口から、さらりと神の名がこぼれ出て、私はさらに戸惑った。
父の上機嫌の理由がますますわからない。
しかもわざわざ私を引き留め、私に対して「でかした」というのだから、私が何かしら父の意に叶ったことをしたのだろうか。身に覚えはないが……。
「今日はリーゼロッテ伯爵令嬢の家庭教師の日であったか」
「はい」
「そうか。励めよ、くれぐれも失礼なきようにな」
よろしく伝えてくれ、と妙に強く念を押される。
頷いて、私は釈然とせぬまま家を出た。
つまり、伯爵令嬢リーゼロッテ様に関わることなのだろうか、父の上機嫌の理由は?
馬車に揺られる道中、父の上機嫌の理由を考えてみた。
しかし、わかるはずもない。
唐突に出されたリーゼロッテお嬢様に関することだろうかとまでは推察できたが、「関する」「何か」に思い当たることがない。
なにしろ私は、アスク家の不出来な次男として常に父母を落胆させてきた。褒められるようなことはないといっていい。伯爵家のご令嬢の家庭教師となることが決まった時にしても、それ自体は父の功績だ。社交的な父がどんな話の手管か、伯爵家の三女リーゼロッテお嬢様の家庭教師として私を推薦したのだ。
父が「でかした」と私に言ったのは、実はこれで二度目だ。一度目は当然、家庭教師として正式に採用された時だ。
つまり、今回の「でかした」もお嬢様に関することなのだろう。
「リーゼロッテ伯爵令嬢」
馬車に揺られながら、ぼんやりと思考にふける。
リーゼロッテお嬢様の信頼を得たことが、父を喜ばせているのだろうか?
今になって、とも思うが……ともあれ、リーゼロッテ伯爵令嬢に関することで、ほぼ間違いはなかろう。
リーゼロッテお嬢様の、あまり動かぬ表情を思い出して、ふと微笑がこぼれた。

