翌朝、朝の七時きっかりに泊まっていた部屋を出たまどかはホテルの朝食会場へ向かった。
泊まったビジネスホテルは食べ放題の朝食付き。
口コミによればこのホテルの朝食バイキングはビジネスマンに関わらず旅行客からも評判が良いようで、人気のメニューはすぐに完売するとのことであった。
(これは朝食バイキングという名の戦い……!)
一人旅をしてきたまどかはよく知っていた。ビジネスマンや旅行客は次の行程の都合上、チェックアウトの時間になるとすぐにここを出なけれならない。
つまり朝食は開始時刻になったらさっさと食べて、部屋に戻ってしまうということを。
七時開始という朝食バイキングの会場入り口はすでに宿泊客が並んでいたが、混雑する前に来たからかすぐに会場に入れた。
まどかがトレーを持った頃には料理が次々と会場に運運び込まれて、会場内はあっという間に和洋中の様々な料理の香りに包まれた。
宮城県産の米を使用した熱々のご飯を始めとして、朝食の定番である味噌汁や焼き魚、卵焼き、納豆。
採れたての野菜を使った新鮮なサラダといくつものドレッシング、焼き立てのパンが複数種類並び、トースターまで完備されている。
シェフが目の前で焼いてくれるという目玉焼きコーナーはすでに大行列だった。
数々の惣菜が並び、一際人気だったのは宮城県の特産品コーナーだった。仙台麩を使った惣菜に、牛たんカレー、その中にはまどかの大好きな笹の形をした笹かまぼこもあった。
そして宮城県の特産品コーナーとデザートコーナーの間にそれはあった。
緑色の餡と一口サイズの白い丸餅が大皿にこんもりと盛られた——ずんだ餅が。
「……どうしよう」
昨日はマラサダでは食べたが、ずんだ餅そのものは食べなかった。ただすでにまどかのトレーはいっぱいである。
ご飯の上にかけた熱々の牛タンカレーとサラダ、笹かまぼことデザートコーナーから持ってきたヨーグルト。まどかのお腹的にもずんだ餅が入る余力はない。
それでも久方ぶりの本場のずんだ餅から目が離せない。迷った末に少量だけ取ると、窓側の席に向かう。
窓からは朝日に照らされる仙台駅の茶色外壁と、三階にある新幹線ホーム内を出入りする新幹線の様子が見えたのだった。
「いただきます」
まずはスプーンで牛タンカレーを掬う。
カレー特有のスパイスと舌の上で蕩ける牛タンの旨味に舌鼓を打ちながら、ごろっとした柔らかな牛タンを口の中で転がす。宮城県産のご飯が美味しいのは言わずもがな。
そして笹かまぼこを口にすると、懐かしい白身魚の香りと塩味が口の中に広がったのだった。
(仙台の笹かまぼこって美味しいよね。近所のスーパーにも売っているけど、やっぱり本番の味には敵わない)
時折コーヒーを口にしながら贅沢な朝食を味わう。
こんな朝食は反則だ。今日の夕方には帰らなければならないのに。連泊したくなる。
私は夢中で食べて、やがて残すはデザートのみとなる。ヨーグルトは最後に口をさっぱりさせるために残すとして、次に食べるのはずんだ餅。
箸で摘んで一口食べると、赤子の柔肌のような白い丸餅がびよ〜んと伸びる。もち米の匂いと素朴な甘さが特徴的なベタベタした力強い粘りのある餅はつきたての証拠だ。幼稚園の時の餅つき大会で食べた杵と臼でつきたてのお餅を思い出す。
それらが枝豆の香りが漂うずんだ餡の青みのある甘さと組み合わされて、唯一無二の甘味が口の中を満たしたのだった。
(やっぱりずんだ餅はつきたてのお餅で食べるのが一番だよね)
ずんだ餅は仙台駅や仙台のアンテナショップでも売っているが、加工品の餅は硬くて噛みづらい。喉を通る時もゴツゴツとして歯が疲れるだけで、ずんだ餅も重くて枝豆の粒々した食感もまた本番の味を知るまどかからはいまいち受け入れられないものであった。
やはりつきたてのお餅で作ったずんだ餅が一番美味しい。
(そういえば、昔住んでいた近所にずんだ餅が美味しいお店があったっけ。まだあるのかな?)
何気なく気になってスマホで調べると、数年前に「閉店」となっていた。
まどかが小学生の時は穏やかな老夫婦が営んでいたが、誰も跡を継がずに閉めてしまったのだろう。
口コミサイトによれば、店主の高齢化と持病の悪化で閉店したと常連客が書いたと思しき書き込みが残されていた。
「……変わったな」
そう呟いた自分に、当然のことだと内心でツッコミを入れてしまう。もう十五年も経っているのだから、変わっていないほうがおかしい。
まどかが離れている間に仙台の街はどんどん変化を遂げている。それは十五年前に受けた傷を癒すことにも繋がっているが、やはり時間が経過した分だけ消えてしまうものがあるのは少し寂しい。
(もう少しだけずんだ餅を食べようかな。次はいつ食べられるか分からないし)
食べられないという最初の心配はどこにいったことか、それより今は本場の味を満喫したいという思いに駆られていた。
記憶に刻むように歯を押し返すような餅をずんだ餡の昔ながらの素朴な味と合わせて、まどかはじっくりと咀嚼したのだった。
◆◆◆
泊まったビジネスホテルは食べ放題の朝食付き。
口コミによればこのホテルの朝食バイキングはビジネスマンに関わらず旅行客からも評判が良いようで、人気のメニューはすぐに完売するとのことであった。
(これは朝食バイキングという名の戦い……!)
一人旅をしてきたまどかはよく知っていた。ビジネスマンや旅行客は次の行程の都合上、チェックアウトの時間になるとすぐにここを出なけれならない。
つまり朝食は開始時刻になったらさっさと食べて、部屋に戻ってしまうということを。
七時開始という朝食バイキングの会場入り口はすでに宿泊客が並んでいたが、混雑する前に来たからかすぐに会場に入れた。
まどかがトレーを持った頃には料理が次々と会場に運運び込まれて、会場内はあっという間に和洋中の様々な料理の香りに包まれた。
宮城県産の米を使用した熱々のご飯を始めとして、朝食の定番である味噌汁や焼き魚、卵焼き、納豆。
採れたての野菜を使った新鮮なサラダといくつものドレッシング、焼き立てのパンが複数種類並び、トースターまで完備されている。
シェフが目の前で焼いてくれるという目玉焼きコーナーはすでに大行列だった。
数々の惣菜が並び、一際人気だったのは宮城県の特産品コーナーだった。仙台麩を使った惣菜に、牛たんカレー、その中にはまどかの大好きな笹の形をした笹かまぼこもあった。
そして宮城県の特産品コーナーとデザートコーナーの間にそれはあった。
緑色の餡と一口サイズの白い丸餅が大皿にこんもりと盛られた——ずんだ餅が。
「……どうしよう」
昨日はマラサダでは食べたが、ずんだ餅そのものは食べなかった。ただすでにまどかのトレーはいっぱいである。
ご飯の上にかけた熱々の牛タンカレーとサラダ、笹かまぼことデザートコーナーから持ってきたヨーグルト。まどかのお腹的にもずんだ餅が入る余力はない。
それでも久方ぶりの本場のずんだ餅から目が離せない。迷った末に少量だけ取ると、窓側の席に向かう。
窓からは朝日に照らされる仙台駅の茶色外壁と、三階にある新幹線ホーム内を出入りする新幹線の様子が見えたのだった。
「いただきます」
まずはスプーンで牛タンカレーを掬う。
カレー特有のスパイスと舌の上で蕩ける牛タンの旨味に舌鼓を打ちながら、ごろっとした柔らかな牛タンを口の中で転がす。宮城県産のご飯が美味しいのは言わずもがな。
そして笹かまぼこを口にすると、懐かしい白身魚の香りと塩味が口の中に広がったのだった。
(仙台の笹かまぼこって美味しいよね。近所のスーパーにも売っているけど、やっぱり本番の味には敵わない)
時折コーヒーを口にしながら贅沢な朝食を味わう。
こんな朝食は反則だ。今日の夕方には帰らなければならないのに。連泊したくなる。
私は夢中で食べて、やがて残すはデザートのみとなる。ヨーグルトは最後に口をさっぱりさせるために残すとして、次に食べるのはずんだ餅。
箸で摘んで一口食べると、赤子の柔肌のような白い丸餅がびよ〜んと伸びる。もち米の匂いと素朴な甘さが特徴的なベタベタした力強い粘りのある餅はつきたての証拠だ。幼稚園の時の餅つき大会で食べた杵と臼でつきたてのお餅を思い出す。
それらが枝豆の香りが漂うずんだ餡の青みのある甘さと組み合わされて、唯一無二の甘味が口の中を満たしたのだった。
(やっぱりずんだ餅はつきたてのお餅で食べるのが一番だよね)
ずんだ餅は仙台駅や仙台のアンテナショップでも売っているが、加工品の餅は硬くて噛みづらい。喉を通る時もゴツゴツとして歯が疲れるだけで、ずんだ餅も重くて枝豆の粒々した食感もまた本番の味を知るまどかからはいまいち受け入れられないものであった。
やはりつきたてのお餅で作ったずんだ餅が一番美味しい。
(そういえば、昔住んでいた近所にずんだ餅が美味しいお店があったっけ。まだあるのかな?)
何気なく気になってスマホで調べると、数年前に「閉店」となっていた。
まどかが小学生の時は穏やかな老夫婦が営んでいたが、誰も跡を継がずに閉めてしまったのだろう。
口コミサイトによれば、店主の高齢化と持病の悪化で閉店したと常連客が書いたと思しき書き込みが残されていた。
「……変わったな」
そう呟いた自分に、当然のことだと内心でツッコミを入れてしまう。もう十五年も経っているのだから、変わっていないほうがおかしい。
まどかが離れている間に仙台の街はどんどん変化を遂げている。それは十五年前に受けた傷を癒すことにも繋がっているが、やはり時間が経過した分だけ消えてしまうものがあるのは少し寂しい。
(もう少しだけずんだ餅を食べようかな。次はいつ食べられるか分からないし)
食べられないという最初の心配はどこにいったことか、それより今は本場の味を満喫したいという思いに駆られていた。
記憶に刻むように歯を押し返すような餅をずんだ餡の昔ながらの素朴な味と合わせて、まどかはじっくりと咀嚼したのだった。
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