クラスの冷笑系は、あの夏の恩人かもしれない件


 今年から加わった早押しのルールを知らなかった俺たちは、神北の俊敏な反応に何度も救われた。
 テレビ番組の影響もあったのか、解答するマイクまで全力疾走するものもあり、浴衣着用を押し切ってくれた美能に感謝するしかなった。

「今のはBだろ!」
「う~ん、これ完全に勘でしか答えられないよね。かさみんとなっちはどっちだと思う?」

 最終問題はプロのヴァイオリン奏者と学生奏者の演奏を聴いて、どちらが地元の人間か当てるという無茶苦茶なものだった。
 美能たちが作成した問題集が役立ったのは二回戦まで。
 その後は、地元民へのインタビューやアンケート結果を基にした問題ばかりで、どのチームも苦戦していた。
 決勝まで残れたのは、運が味方してくれたおかげだ。

『ここまで来れて楽しかった。次のバトル、勝っても負けても最高の思い出になるよね』

 勝利を願って、美能が編んでくれた赤のミサンガが四人の手首に巻いてある。
 
『どうせなら、優勝したいよな!』

 一番最初に弱音を吐いていた神北の勝利宣言に、俺たちはうなずく。
 今回のMVPの直感を信じて、俺たちはBの札をあげる。
 そして訪れたのは、忘れられない勝利の瞬間だった。



「浴衣デートってご褒美だよね」
「ということで、邪魔者のオレたちはあっちの行列に並んできますわ~」

 部活みたいに集まって、時間を共有している間に神北も笠見の気持ちに気づいたそうだ。
 指で作ったハートマークを4つ並べてくれた二人は、俺の方から矢印が出ていないこともわかっている。
 浴衣姿を見慣れていない笠見は、視線の動かし方がぎこちなくて可哀そうなくらいだ。
 ふたりきりにしてもらっても、向こうからアクションを起こすことはないだろう。

 貸してもらえたスニーカーで、境内の階段を駆け上がった姿は確かにかっこよかったけれど、俺への好意を変な方向にこじらせているヤツにほだされるつもりはなかった。
 触れてきたら振り払うし、迫ってきたら距離を取る。自衛本能が発動しない程度にしか、近づかない笠見は正しくて賢い。
 なのに、なぜか俺はそれを物足りなく思っている。

「花火が始まってからなら、並ぶ人間もまばらだろう。呼び戻してやったらどうだ?」

 わざとふたりきりにしてくれた二人の気持ちを知らずに、笠見が合理的な意見を述べる。

「花火はゆっくり見たいんじゃねぇの? 屋台のあたりからだと建物に隠れるし」
  
 他人の浴衣姿で気づいたけれど、思ったほど肌は見えないし、しっとりした色気なんか感じさせない。
 それでも、いつもと違う格好に人の気持ちは揺さぶられるのだろう。
 近づくとすぐ視線を足元に落とす笠見に、俺から半歩近づいた。

「浴衣もコレも、俺たちおそろいだよな」

 からかうように笑ってミサンガを見せると、浴衣は周りも着ていると冷静に返された。
 面白くなくてトンと身体をくっつけたら、早押しクイズみたいな反応で笠見が飛びのく。
 告白なんかしてこないし、アピールだってほぼ皆無。
 あの夏、人助けをしたことだってこいつの記憶には焼き付いていないんだろう。
 だって、それはごく普通の当たり前のことだから。

 俺は笠見が心配するほどセクシーなのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
 どんなフィルターを通して見られているかなんて、誰にもわからない。

 誰かが当たりを引いたのか、カランカランと高らかに鐘が鳴らされる。
 ふっと振り向いた笠見の表情が、あの夏のヒーローと重なった。
 ありがとうはまた今度でいい。今、俺には伝えなければいけない言葉がある。

「笠見のこと、気になってて……」