※※
「……まあ、とにかく無理せず身体を大切にしろよ。あと水分はしっかりとること! これも持っとけば便利だぜ。オレのおすすめ!」
ほいと渡されたのは神北が気に入っている暑さ対策アイテムのひとつ個包装の冷感タオルだった。
口コミ評価ナンバーワンより、ホッキョクグマのパッケージが目立つ製品の方が使い心地において上らしい。
操作されているかもしれない情報に踊らされず、自己判断がしっかり出来るところを見習っていきたい。
バスは時刻表通りに来ないことがほとんどで、停留所は空気までサウナ状態だという。
この学校まで徒歩圏内の俺と違い、バス通学をする友人の暑さ対策は余念がない。
みんなが持ち歩いている日傘やハンディファンだけでなく、フェイスシートにボディシート、クールタオルやアイスミストなど状況に応じて色々使い分けている。
荷物が増えてかさばらないか訊ねた俺に、涼を得ることを何より優先したいと神北は言っていた。
どちらかといえば、暑さの方が苦手な俺と違って神北は寒さに耐性がない。
イヤーマフと顔が半分うまるボリュームのマフラー。もこもこの手袋までセットで装備していた神北は、完全防寒スタイルがもふカワイイともてはやされていた。
校則違反じゃないかと難癖つけてくるヤツも数人いたけれど、体感温度は個人差が大きい。
体調が悪くなるよりマシだろうということで、学校側からの許可も出て神北の冬スタイルはお咎めなしとなった。真似する女子も出てくるほど、神北は周りに影響を及ぼしている。
シャツの前を涼しげに広げた夏スタイルの神北は、眩しい白肌を惜しみなくさらしている。
綺麗と可愛いをバランスよく配分したら、こういう顔に到達するのだろう。
毎日見ていて飽きないし、四季折々で違う魅力を発揮する神北に日々ときめきをもらっている生徒は多い。
こいつを鑑賞できるならと学校へ来てるヤツもいる気がする。
俺みたいなモブ系男子を気にしなくても、見惚れるべき対象は他にいる。
とはいえ、人の好みは様々だから、感情なんて制御のしようがないんだろう。
背中へ届いた微弱な電波に気づいて、俺は同情まじりのため息をついた。
パチパチと短く弾けて、熱もある。
視線にこめられている感情に気づかないほど俺は鈍くないが、当の本人は多分わかっていない。
カーディガンでガードしても、鏡やカメラで後方の確認をしなくても、笠見が教室に戻ってきたとすぐにわかる。
目は口ほどに物を言うらしいが、視線を確かめなくても感情の矢印が向けられていることは嫌でも感じとれた。
不本意に放たれる俺の魅力に生徒がメロメロになっては困る。風紀を乱さないように、暑さに耐え忍んでいる俺をねぎらう気持ちがあるのかは謎だ。
「弁当買うついでに、葉久留のも買ってきてやるよ。炭酸系とお茶ならどっちだ? スポドリ系にしとこうか?」
何にするかと聞かないのは、お互いによく飲む銘柄を把握しているからだ。
「あー、じゃあスポドリで!」
「りょーかい!」
神北が校内のコンビニへ行ってしまっても笠見がこちらに近づいてくる気配はない。
物事を俯瞰し、他人を冷ややかに観察するのが冷笑系なら、コイツの場合は心配性と呼んだ方が良さそうだ。
エアコンのおかげで何とか倒れず済んでいるが、俺の体力にも限界はある。
そのうちやってくる猛暑日に、今の格好を続けたら体調不良に陥るだろう。
飲み物や塩分タブレットを差し出してこいとは言わないが、辛い状況を察して声くらいかけてこいよとは思う。
校内の風紀を乱すのは絶対マズイが、開放的な姿で過ごせるまわりの奴らがうらやましい。
「なっち、今日も暑そうだねー。身体冷やしすぎるのはよくないけどさぁ。無理は禁物だよ」
葉久留有南と美能亜莉奈。
名前が同じじゃんとクラス替え初日に話しかけてきた美能だけが、独特の呼び名を使ってくる。
アイロンで巻いてるだけですと宣言した髪はミルクティーカラー。
日焼け防止のベースメイクにちょい足しですよと説明して、まぶたや唇に色をのせている彼女は今日も堂々としている。
「前髪が汗でしめってるのってさ。なんか……ちょっとえっちだよね。なっちの魅力、爆発してる」
語尾に音符や星マークがつきそうな口調は、パーソナルスペースを気にしない美能のためにある。
ズカズカと踏み込んでは来ない絶妙なコミュニケーション能力は、彼女の武器の1つに過ぎない。
「……まあ、とにかく無理せず身体を大切にしろよ。あと水分はしっかりとること! これも持っとけば便利だぜ。オレのおすすめ!」
ほいと渡されたのは神北が気に入っている暑さ対策アイテムのひとつ個包装の冷感タオルだった。
口コミ評価ナンバーワンより、ホッキョクグマのパッケージが目立つ製品の方が使い心地において上らしい。
操作されているかもしれない情報に踊らされず、自己判断がしっかり出来るところを見習っていきたい。
バスは時刻表通りに来ないことがほとんどで、停留所は空気までサウナ状態だという。
この学校まで徒歩圏内の俺と違い、バス通学をする友人の暑さ対策は余念がない。
みんなが持ち歩いている日傘やハンディファンだけでなく、フェイスシートにボディシート、クールタオルやアイスミストなど状況に応じて色々使い分けている。
荷物が増えてかさばらないか訊ねた俺に、涼を得ることを何より優先したいと神北は言っていた。
どちらかといえば、暑さの方が苦手な俺と違って神北は寒さに耐性がない。
イヤーマフと顔が半分うまるボリュームのマフラー。もこもこの手袋までセットで装備していた神北は、完全防寒スタイルがもふカワイイともてはやされていた。
校則違反じゃないかと難癖つけてくるヤツも数人いたけれど、体感温度は個人差が大きい。
体調が悪くなるよりマシだろうということで、学校側からの許可も出て神北の冬スタイルはお咎めなしとなった。真似する女子も出てくるほど、神北は周りに影響を及ぼしている。
シャツの前を涼しげに広げた夏スタイルの神北は、眩しい白肌を惜しみなくさらしている。
綺麗と可愛いをバランスよく配分したら、こういう顔に到達するのだろう。
毎日見ていて飽きないし、四季折々で違う魅力を発揮する神北に日々ときめきをもらっている生徒は多い。
こいつを鑑賞できるならと学校へ来てるヤツもいる気がする。
俺みたいなモブ系男子を気にしなくても、見惚れるべき対象は他にいる。
とはいえ、人の好みは様々だから、感情なんて制御のしようがないんだろう。
背中へ届いた微弱な電波に気づいて、俺は同情まじりのため息をついた。
パチパチと短く弾けて、熱もある。
視線にこめられている感情に気づかないほど俺は鈍くないが、当の本人は多分わかっていない。
カーディガンでガードしても、鏡やカメラで後方の確認をしなくても、笠見が教室に戻ってきたとすぐにわかる。
目は口ほどに物を言うらしいが、視線を確かめなくても感情の矢印が向けられていることは嫌でも感じとれた。
不本意に放たれる俺の魅力に生徒がメロメロになっては困る。風紀を乱さないように、暑さに耐え忍んでいる俺をねぎらう気持ちがあるのかは謎だ。
「弁当買うついでに、葉久留のも買ってきてやるよ。炭酸系とお茶ならどっちだ? スポドリ系にしとこうか?」
何にするかと聞かないのは、お互いによく飲む銘柄を把握しているからだ。
「あー、じゃあスポドリで!」
「りょーかい!」
神北が校内のコンビニへ行ってしまっても笠見がこちらに近づいてくる気配はない。
物事を俯瞰し、他人を冷ややかに観察するのが冷笑系なら、コイツの場合は心配性と呼んだ方が良さそうだ。
エアコンのおかげで何とか倒れず済んでいるが、俺の体力にも限界はある。
そのうちやってくる猛暑日に、今の格好を続けたら体調不良に陥るだろう。
飲み物や塩分タブレットを差し出してこいとは言わないが、辛い状況を察して声くらいかけてこいよとは思う。
校内の風紀を乱すのは絶対マズイが、開放的な姿で過ごせるまわりの奴らがうらやましい。
「なっち、今日も暑そうだねー。身体冷やしすぎるのはよくないけどさぁ。無理は禁物だよ」
葉久留有南と美能亜莉奈。
名前が同じじゃんとクラス替え初日に話しかけてきた美能だけが、独特の呼び名を使ってくる。
アイロンで巻いてるだけですと宣言した髪はミルクティーカラー。
日焼け防止のベースメイクにちょい足しですよと説明して、まぶたや唇に色をのせている彼女は今日も堂々としている。
「前髪が汗でしめってるのってさ。なんか……ちょっとえっちだよね。なっちの魅力、爆発してる」
語尾に音符や星マークがつきそうな口調は、パーソナルスペースを気にしない美能のためにある。
ズカズカと踏み込んでは来ない絶妙なコミュニケーション能力は、彼女の武器の1つに過ぎない。



