恋するだけでは、終われない / 恋したことなら、忘れない


 ……発車のベルが鳴り終わると、目の前で扉がゆっくりしまる。

「やっと出発できたね」
 列車が加速をはじめて、(すばる)先輩に顔を向けたその瞬間。
 スーツケースが急に動いて……わたしは慌てて手をのばした。



暖花(ほのか)、気をつけないとな」
「……う、うん」
「最新車両は、起動加速度が大幅に向上したんだ」
「そ、そうなんだ……」

 ……なにをいっているのか、わからない。

 話しの中身以上に、それは『いま』話すことなのかと。
「いきなり、鉄道オタクにならないでよね」
 なんとかそう答えたわたしは、視線を先輩『だけに』向けておく。


 スーツケースのハンドルに、わたしの手はまにあわず。
 昴先輩がそれを、とめてはくれた。

 ただ、その上に重なったのは。
 月子(つきこ)ちゃんの……手のひらだ。



 昴先輩がわたしにくだらない話しをしている隙に。
 月子ちゃんは、その手をそっと離したものの。

 ……わたしが気づかなければ、どうしたのだろう?

 ただの偶然な上、ハンドルを持っていなかったわたしの責任ではあるけれど。
 月子ちゃんの手には……気がつかなったわけ?


「……昴先輩、それお願いね」
「えっ?」
「もしかして網棚にのせるの、わたしにさせるつもり?」

 月子ちゃんはどうやら、『自分に忙しい』みたいで。
 わたしの『おねだり』には文句をいわず。
 ひたすら、自分の手のひらを見つめていて。


「はいはい、わかったわかった」
 昴先輩は、わたしがただ。
 駄々をこねているだけだと思ったらしく。

三藤(みふじ)先輩、いきましょうか?」
 とっても軽く、そう声をかけると。

「ほら、暖花も中にはいるぞ」
 どこまでも『鈍く』、『鈍いまま』を……つらぬいた。







 ……あのぅ、こんなときになんですが。

 わたくし……山川(やまかわ)(しゅん)と、申しやス。



「なにしにきたんだ、お前?」
 確かに……めちゃくちゃひさしぶりの登場とはいえ。
 俺の親友のくせに、カイバラって冷たいヤツだ。


海原(うなはら)くんよ、間違えないで」
 おぉっ! 三藤パイセンが話しかけてくれやした!

「お願い、こっちを見ないで」
 しかも相変わらず、ツンツンしてやスね!


「昴先輩と同じ、二年一組なんですよね?」
 しかも、新入りピチピチちゃんまで参加してくれるとは。
 なんか俺、修学旅行でフィーバーしちゃえるんスか?

「……やめてもらえませんか。セクハラで訴えますよ」
「に、二度といいやせんごめんなさい」
 うわっ、めちゃくちゃキューティーなのに。
 三藤パイセン並みに、その視線が怖いっス。


「……ってカイバラ、あとの美人さんたちは?」
「写真撮影係だから、隣の号車ではしゃいでいるはずだ」
 そ、そうか。
 せっかくトークできるチャンスだったのにしかたねぇ。

 にしても、いいよなお前は。
 それでも両手に花なんて、うらやましいぜおい!



「でもあれ? ……にしては、空気微妙じゃね?」
「帰って……もらえません?」
 なんか新入りちゃんの視線が。
 出会ってまだ一日目なのに、メチャクチャ怖いけど。

 なんてったって、修学旅行だぜ!
 お、俺は友達がほしくて……その。


 ……トランプを誘いに、きたんだよ!


「……えっ?」
「山川、呼んでるぞ」
「だ、誰が?」

「おい! 山川はどこだ!」
 そのとき、鬼の形相の体育教師がやってきて。

「お前! 駅で便所をつめただろう!」
 よりによって、美女たちの前でひっでぇことをいいやがる。


「海原、こいつに新幹線の便所を使わすな!」
「はい?」
 しかもなんだそれは? とんでもねぇ命令だぜ。


「山川……つめたのか?」
「まぁな。だけど掃除のおばちゃんには、ちゃんと謝った」

「俺はな! あけて見ちまったんだよ!」
 ただ、体育教師は。
 きれいになる前にはいっちまったらしく。

「いいな委員長! しっかり見張っとけ!」
 俺をギロリとにらんで、消えていく。



 ……邪魔がはいったが、しきり直すとするか。



「あの、よかったら俺とトランプ……」
「いますぐ、消えなさい」
「あとトイレは、禁止です」

 ……なんだよそれ! せめて一回くらい!

「なに、かしら……?」
「い……いかがでしょうか?」
「……消えなさい」

 するとため息をついたダチが、俺にわかりやすく解説しれくれた。

「山川。このあとみんな、軽食タイムなんだ」
 あぁそうか!
 だったらトランプは、『そのあと』だよな!



「なぁ! カイバラ!」

 沈黙しちまったダチはもちろん。
 完全に俺を見捨てている美女たちもぜひ、聞いてくれ。


 ……友情に誓って、二度と便所はつめないぜ。


 全身全霊、渾身の決めゼリフは完全に無視されて。
「いいこと? この車両には、金輪際侵入しないで」
 三藤パイセンが、無情にもトランプができないと宣言する。


 ……断られた俺は……個室があったらはいりたい気分になっちまったぜ。


「それはな、『穴があったら』だろう」
 俺のダチは、こまかいことにこだわると。

「いいから、現地までおとなしくしておいてくれ」
 そうやっていいヤツぶりを発揮して。
「二度と、くるなよ」
 俺を本来の号車へと、きちんとエスコートしてくれた。


 ただ、ダチには悪いが。
 腹が痛くて我慢ができず。
 体育教師にバレないようにと、離れた車両の個室に駆けこんだ。

「それにしても。なんで俺、こんな役なんだ?」


 ……考えるポーズをしたが、答えはでない。


 ただ、あとから振り返れば。
 俺の存在意義が『より』発揮されるのは。
 修学旅行先での……ことなので。


 どうかこの、山川俊。
 またの登場を。


 みなさんはぜひ……楽しみにしていてほしい。