恋するだけでは、終われない / 恋したことなら、忘れない


 ……『新キャラ』、登場。

 ま・ぁ、みんな一学年進級したのだから。
 後輩がひとりくらい増えるのは、しかたがないのだろうけれど。
 それにしてもこの子は……『面倒』な感じがする。



姫妃(きき)ちゃん、お願いします」
 わたしに役目を振る、千雪(ちゆき)のそのセリフは。
 文字でこそていねいに聞こえるけれど。
 意訳すると単に、『わたし、知らないんで』ってことだ・よ・ね?

「ちょっと月子(つきこ)ちゃん、ひどくないですか?」
 彼女ともう、うちとけたのか。
 それとも単に、後輩だからうれしいのか。
 由衣(ゆい)は『やさしくしてあげて』というけれど。

 ……海原(うなはら)君の『ただの』幼馴染だというその子は、なんだか危険な気が・す・る。

一碧(いっぺき)暖花(ほのか)さん、もう一度伝えるわよ」
 とはいえ、月子も月子だ。


「用が済んだのなら、どうぞあちらへ」
 初対面のあいさつを終えた、その瞬間。
 改札をさしてさっさと帰れとか、よくいえるよ・ね?

「あと少し、この場にいてもよろしいですか?」
 それにしても、月子に一歩もひかないこの子は。
 なんだか、『誰か』と同じ雰囲気がするんだ・よ・ね。


 ……するとおもむろに、月子の動きがとまった。


「もう。どうしてこうなるのよ……」
 えっ、な・に・な・に?

「姫妃、早く『佳織(かおり)先生』を呼びだして」
 えっ? どうしてもっとややこしい人をここで増やすの?

「さすがですね、『月子ちゃん』」
「あなたにそう呼ばれる筋合いはないわよ、一碧さん」


 相性の悪そうなふたりが理解しあう中。
 一方、先ほどからまったく頼りにならない海原君は。

 両脇に置いた、彼女の『ふたつ』あるスーツケースを交互に見比べていて。
 それからふと、なにかに気づいたらしく。


「えっ……」
 そういって、たっぷり三秒たってから。

「も、もしかして……」
 誰かに気づいてほしそうな声を、しぼりだす。



「ほ、暖花……」
 な・の・に。
 この状況でその子の名前を呼ぶ、海原君は嫌・いだな。

「『アザラシ』……好きなのか?」
 あとそれ、意味不明すぎて。


「ちょっと、ふざけな・い・で!」
 わたしが彼に、グッと近寄ったところ。

「姫妃、どさくさにまぎれないで」
 冷静な月子に……見破られてひき離された。



「一碧さん。あなたがあの柱の向こうに置いたスーツケースは」
 月子、な・に・そ・れ?  
 推理ものになったの、この作品?

「その『アザラシ』とは別物よね?」
 じゃなくてま・さ・か・の、動物物語?


「……姫妃、静かになさい」
 お・ぉ、こわっ。

 月子はそれから、荷物にちょこんとくっついている。
 少し汚れた、『アザラシ』のチャームをチラリと見ると。
 そっとその背中に……手を触れた。







 ……薄汚れたアザラシに罪はない。

 あるとすれば……その『持ち主』だけだろう。



「あれ? どうかした月子?」
 代表してわたしの名を呼ぶ、わざとらしい声。
 そんな我らが『顧問』は、ニヤリとこちらを見てから。

「そっか! 『六人』そろったね!」
 いかにもうれしそうな声で。
 またメチャクチャなことを、口にする。

 ……もはやもう、ため息さえわたしはでない。

「え? だって人手不足でしょ?」
 佳織先生は、さも当然のようにいうけれど。


 ……本当に『ただの』他校生を、つれていくのつもりなのだろうか?


「『月子ちゃん』、こちらを」
 なぜだか『暖花』が、わたしに親しげに呼びかけて。
 とてもとても……『嫌なもの』を渡してくる。


「海原くん、どうぞ」
 わたしは『副部長』なので、このようなものは受け取らない。

「……えっ?」
 小学校時代の『ただの』幼馴染ということは、当然。
 その背後にいるのは、『あの子』しかいないだろう。


「『(すばる)くん』、ちょっと失礼」
 なれなれしいその幼馴染は、軽々しく彼に告げると。

 わたしたち『放送部員』が、誰ひとりとして知らない書式の。
 校長・顧問・副顧問の署名が並んだ『入部届』を高々と掲げてから。

「なんと、『推薦状』もあります」
 上品な『茜色(あかねいろ)』の和紙の、一筆箋を取りだした。


 ……ちなみに『あの子』も、『放送部書記』として書面に署名済みだった。




  『暖花をよろしく 赤根(あかね)玲香(れいか)




「それ、自分で読むんだね……」
 暖花自らの『音読』に、千雪がため息まじりにそういうと。

「玲香ちゃん、いつから企んでたのかな?」
「突然留学にでただけじゃ、終わらないんだ・ね」
 由衣と姫妃が、妙に感心したような声になる。


「そういえば、出発前にとっておきの置き土産があると聞いた気が……」
 では海原くん、それはあなたにとって。
 喜ばしいものに……なるのかしら?



「仲良くなるのに『修学旅行』なんて、絶好の機会でしょ?」
 無茶苦茶なことをしているという自覚は。
 佳織先生には一切、ないようで。

「まずは『この』六人で、仲良くしようね!」
 先生は無駄にかわいく、ウインクする。


 ……玲香、帰国したあとで覚えていなさいよ。


「暖花、いいこと?」
 あなたは海原くんの、『ただの』幼馴染として受けいれてあげるから。

「それで、いいわよね?」
 わたしはうなずけと、彼女にせまる。


「はい、月子ちゃん」
 あえて『なに』かと聞かないあなたは。
 玲香並みにいい度胸を……しているようね。



 ……とにかく、一年一組に転入予定の。一年生放送部員はこうして誕生した。



「そろそろ、集合時刻が近いわね」
 修学旅行初日の早朝が、ようやく終わる。

「それでは、海原くん」
 わたしは彼の隣に立ち、その瞳をジッと見つめると。

「精一杯、お手伝いさせてもらうわね」
 そのためにここにきたのだと、己にいいきかせてから。



「暖花、ついてきなさい」
 まっすぐに背筋をのばして……ゆっくりと歩きだした。