恋するだけでは、終われない / 恋したことなら、忘れない


 ……現在時刻は、夜の九時。

 夕食後の会場では現在。
 絶好調でレクリエーションなるものが続いていて。
 いつ終わるのかも……わからない。



海原(うなはら)くん。班長会議は、キャンセルでいいわよね?」
「そのほうが……よさそうですね」

 三藤(みふじ)先輩は迷うことなく、音響を担当中の波野(なみの)先輩と市野(いちの)さんに合図して。
 僕たちはにぎやかなものとは無縁の、ミーティングルームに戻っていく。


「『最後の晩餐中』につき、会議は中止……と」
「おい暖花(ほのか)、変なメッセージで送らないでくれ」
「なんだか、月子(つきこ)みたいだね」
「……どういうことですか、美也(みや)ちゃん?」
「発想が()んでいますね、訂正します」
「なんですって、暖花?」


 妙に馴染んだ三人と廊下を歩いていくと。
 反対側からは買い物帰りのグループが、にぎやかな感じでやってくる。

 実は、レクリエーションの参加は義務ではないので。
 三割くらいの生徒は、各自思い思いにすごしていて。

「一階のカフェで、パン食べてるからねっ!」
 暇つぶしをしている藤峰(ふじみね)先生に、現地で一度『あいさつ』さえすれば。
 近くの商業施設にいくことも可能である。



「あ! 海原君、と……」
「し、失礼しまーす」

 あれ? いま僕は避けられた?

「月子ちゃんがいたからですね」
「『制服』の女子大生のせいじゃないかしら?」
「いいえ……『あちら』ですね」
「へ?」


 ふとみれば、また別の方角から。
 なにやら『怒り』のオーラがただよっていて。

「海原っ!」
 高嶺(たかね)の声が、まるで僕を突き刺すかのように。
 一直線に飛んできて。


「……先に戻るわね」
「ま、またあとでね」
(すばる)先輩、言葉には気をつけてよ」

 みんなが慌てて消えていくと。
 ものすごく不機嫌だというその顔が。
 僕の前に……あらわれた。







 ……なんでこのタイミングで、アンタがいるわけ?

 しかも……なに楽しそうにしてんのよ!



「ど、どうした高嶺?」
 あぁ、第一声からして間抜けなヤツだ。

「なによ?」
「なにか……あったのか?」
「なんもないし」
「いや、あっただろ?」


 ……だったら考えろ、このバカ。


「と、とりあえず戻るか?」
「パス」
「へ?」
「アイス!」
「はい?」
「だから、アイス!」

 それだけいってわたしは。
 ホテルの『中』ではない……コンビニまで案内しろと。
 海原にさっさと動けと、合図する。



 ……で、なんか聞きなよ?



 街灯が並ぶ歩道をしばらく進んでいって。
 それから横断歩道の信号が、青になるのをまっていても。
 このバカはよくも悪くも、なにも聞かない。

 わたしなら、話したければ話すとわかっているし。
 もしそれが嫌なことなら、こちらから話すまでちゃんとまつ。

 中学のときから、コイツはずっとそうやって。
 わたしの『気持ち』を……優先してくれてきた。


「さっき『告白』されただけ」
「えっ?」
「そんなの、修学旅行の『定番』でしょ?」
「そ、そうなのか?」

 本当は『黙っていれば』とかいう条件つきらしいけれど。

「わたし『それなりにかわいい』じゃん」
「自分で……いうのか?」
「うるさいからっ!」
「イテッ!」

 わたしは海原の背中をバシリと叩くと。

「断ったから、心配しないで」
 わざわざ『余分なこと』まで、答えてしまう。


 ……だいたいアンタが、『知らないだけ』じゃん。


 わたしが『割と』告白されて。
 それを『いつも』断ってるのに。

 その『理由』とか……考えたこともないんでしょ?



「コ、コンビニのアイスで。いいんだよな?」
「は?」
「いやあそこに、ラーメンって書いてあるから」

 コイツは本気のバカなのと一瞬思って。
 それから一周まわって……思わず笑った。

「ちょっと、なんでここでラーメンなわけ?」
「いや、そのほうが『話せる』かと思って」
「もう、なにそれ?」



 ……アンタと恋バナなんか、しないから。

 するとしたら……恋しかないじゃん。



「ちょっとまった、いまのなし!」
「え?」

 海原に、『なしにした』のはラーメンなのかアイスと聞かれ。
 いまのは『ただの』、心の中のつぶやきだったと思いだす。

 こういうのを……『修学旅行マジック』っていうんだっけ?



「な、何度もアイスっていってるじゃん!」
 コンビニに突入したわたしは、迷わず『ひとつ』を選ぶと。

「アンタは、買っちゃダメ」
「え?」
 ここは絶対、『ひとつでいい』と主張する。


「な、なんでだよ……」
「だってお金、もったいないでしょ」

「でも。も、ものすごくたまにだし」
 それにまだ、お土産代を一度も使っていないのだと。
 思わずわたしは、『なにしにきてんの?』といいたくなったものの。

 ……コイツは『みんなのため』に修学旅行中なのだから。

 そこは黙ろう。
 でないとわたしは、『放送部員』の資格がないと。
 口には……しなかった。




「はい、海原」
「えっ?」

 ……『アイスモナカ』は、きちんと半分に割り切れるから。

「とけないうちに、食べよ」


 ……迷うことなく、アンタと『一緒』になれる。


「い、いいのか?」
「いいけど?」

 どうなの、海原?
 アンタが見ている、『黙ってなくても』かわいいはずのこの笑顔。
 少しくらいは……揺らいでみてよね。



 ……ただ、コイツは『本物』のバカだから。



「本当に、いいのか?」
「もう、なんでよ?」
「半分で、足りるのか?」
「は?」
「恨まれたくないから……先にいってくれ」


 バカすぎて……本気で腹が立つ。


「返して、それ」
「ええっ……」
「なんで? さっきまで遠慮してたじゃん!」
「お前こそ、さっきまで『ぶりっ子』してたのに……」
「は?」
「え……?」
「いま、なんて?」
「……な、なんでもありません」


 罰として、『両手にモナカ』の写真を撮らせてから。
 ご褒美にと、半分の半分だけアイツにあげたわたしは。
 きっとやさしい……女の子だ。




 ……未来の自分が、修学旅行の思い出はなにかと聞かれたとき。


「アイスモナカ」


 そう答えたわたしを。
 質問してきたひとは、不思議そうな顔で見たけれど。


 わたしはあのとき、割と本気で。


 ……楽しかったのだ。