恋するだけでは、終われない / 恋したことなら、忘れない


「……ど・う! 海原(うなはら)君!」
 とっても有名な、駅ビルのフォトスポットで。

「好きなだけとって、いいからね・っ!」
 わたしは、とっておきの笑顔で彼を見る。


「遠いかなぁ……」
「わかっ・た!」

 近寄るわたしに、彼は変わらず。
「うーん、まだ遠いか……」
 もっと近くがいいと要求してきて。

 海原君にしては、ずいぶんと大胆な要求だとは思いつつ。
 それでも、せっかく自分が輝ける出番がやってきたのだからと。
「こ・う?」
 これでどうだと、もう一歩前にでる。



「あの、波野(なみの)先輩?」
 もしかして、今度は近すぎた?

「なにしてるんですか?」
「……えっ?」

 よく見たら彼のデジカメは。
 わたしとは『真逆』のほうを、向いていて。

 その画面には、笑顔の女子高生のかわりに。
 ただの電車の顔が……記録されている。


「な・に、これ?」
「いい顔してますよねぇ。実物はやっぱりステキです」

 ほめているのは、わたしじゃな・く・て。
 ただの鉄の塊のことだよね?


「側面部はステンレスなので、普通鋼は先頭部分だけですけれど?」
 わたしの顔が『鉄仮面』。
 いや『能面』のようになっていることには気がつかず。

「いい表情ですよねぇ」
 彼は再度、うれしそうな顔で画面を見る。


「ふ・ー・ん」
「どうかしましたか?」
「別にぃ」

 でも、ポジティブなわたしは。
 少なくとも彼は、『顔の判別』くらいはできるのだと理解して。
 そのまま海原君を『見守る』ことにする。


 ……だって別の女の子を見て、喜んでいるわけじゃないも・ん・ね。




 修学旅行三日目の午後。
 珍しく彼は『自己主張』として。
 一時間だけ出かけてもいいかと、みんなに聞いてきた。

「ちょっと駅で写真を……」
「でたっ、鉄道オタク」
由衣(ゆい)、それくらいいいじゃないの」
「別にダメだなんて、いってませんけど!」

 いつものようにもめる月子(つきこ)たちを横目に。
「いってらっしゃい」
「帰りにおやつが欲しいなー」
 美也(みや)ちゃんと暖花(ほのか)が答えると。

 千雪(ちゆき)がチラリと……わたしを見た。




「……おまたせしました、波野先輩」
「え・っ?」
「ほかにもいきたいところが、あるんですよね?」


 ……『あと、なにかお話しがあるんですよね?』。


 正確には、海原君はそういった。

 基本的には彼は、どこまでも『鈍いだけ』なのだけれど。
 たまに、いやごくまれに。
 鋭くというか、思いっきり『()えている』ときがあるので。

 いままでより、少し距離を取って接している『つもり』のわたしについて。
 きっと『なにか』を……感じていたのだろう。



「う・ん!」
 わたしは、まずは笑顔で答えると。

「じゃぁ、展望台にい・こ・っ!」
 それから階段を上に向かって、のぼっていく。



 ……この景色を、一緒に見てくれてありがとう。



「ね・ぇ、海原君!」
 わたしは、彼に一歩近づくと。

「あのお寺の名前・は?」
「えっと、場所的にはですね……」
「な・に・な・に?」
 もっともっと、ふたりの距離を縮めていく。


 広げた地図と、見える建物とのあいだを。
 彼の視線が交互に移動するたび。
「ど・れ・ど・れ?」
 わたしは何度も何度も、笑顔を差しこみアピールする。

「あの、波野先輩?」
「な・ぁ・に?」
「頑張ってますんで……もうちょっとだけまってください」
「はあぃ」

 ……せかしているんじゃなくて、わたしを見ろってことな・の・に。

「もう。すぐ『鈍いほう』に・戻っちゃうんだから」
「えっ?」

 わたしは海原君との距離をさらに一歩つめると。

「あのね、いまは『ど・ん・な状況』?」
 ここで『察しろ』と、せまっていく。


「ちょうど、寺社名を確定したところですけど?」
 あぁ……違うから。

「海・原・君!」
「は、はい」
「お寺の名前はどっちでもい・い・の! わたしたちの、状・況のことっ!」
「珍しく……ふたりだけです」


 ……なんだ、少しはわかってるんだ。


「じゃぁ、次いこっ!」
「ええっ? せっかく調べたのに?」
「いいから、きてっ!」

 昼さがりだけあって、割とひとは少ないけれど。
 できればもっと。
 もっともっと、誰もいなさそうなところにいかせてほしいの。


 だってね、海原君。
 わたしは、いまから。


 ……大切なことを伝えるから。




 お日さまが高いからか、日差しがとってもまぶしくて。
 視界がなんだか……狭くなる。

 走ってはいないけれど、勢いのついていた歩幅を。
 少しゆるめて、それから遅くして。

 立ちどまったわたしが、ゆっくりと振り向くと。
 よかった。
 ちゃんと海原君は……ついてきてくれている。


 でも、あ・れ?
 なのにどうしてだろう?

「海原君?」
 すぐ近くに気配を感じているのに。



 ……彼が少し、見えにくい。



「あの、波野先輩」
 おまけに、いつもより少し落ち着いているその声には。
 すでに悲しげな音が混じっているけれど。
 いったい……どうしてな・の?


「わたし。『まだ』なにもいってないよ!」
「はい、ただ……」



 ……そこでようやく、わたしも気がついた。




 そっか、言葉よりも先に。

 涙のほうが……でていたんだ・ね。