恋するだけでは、終われない / 恋したことなら、忘れない


 ……夕食前の、十七時。

 観光にでていたみんなが、バスで続々とホテルに到着すると。
 エントランスは一気ににぎやかになってきて。
 まさかの問題が……発覚した。



由衣(ゆい)、まずいかも」
 なにかの役に立てばと、学校から持ってきたインカムから。
 不吉な千雪(ちゆき)の、声がする。

海原(うなはら)君呼んだから、ちょっと向こうで待ってて・ね!」
 姫妃(きき)ちゃんの訴えに、二組の子たちが戸惑いながら移動を終えると。
 別件で打ち合わせ中だったアイツがやってくる。



「……学校が、違うな」
「えっ?」
「そんなこと、あるの?」
 驚く千雪とわたしに、海原は驚くほど冷静で。

「二組のスーツケース、だけだよな?」
「う、うん」
「じゃぁ割と、助かったかも……」
 少しだけ表情を、やわらげる。


「じゃぁ、調べてみるね」
「海原くん、『こちらは』まかせておいて」
 美也(みや)ちゃんと月子(つきこ)ちゃんは、早速なにかを調べはじめて。

 普段はなんでも『鈍い』くせに。
 ときどき『覚醒』するアイツは。

「他校の荷物と間違えました、ごめんなさい」
 二組の子たちの前で、自分ひとりで謝っている。


「なぁ、どうしてそうなるんだよ?」
「僕の確認ミスでした。急いで対処します」
「海原、しっかりしてくれよな」

 本当の担当が暖花(ほのか)だったことなど。
 アイツは一切、口にはせずに。


「じゃ、由衣。お先に」
 それから千雪が、スッと動いて。
 小言を聞くため、『女子』の中にはいっていく。

 ……ってことは、『こっち』がわたしか。

「それで海原! いつ届くんだよ!」
「ちょっと、なんなのその態度」
「えっ?」

「あのバカがバカなりに、ごめんって謝ったのに。なんか文句あんの?」
「い、いや……」
「わかったんなら、アイツの邪魔しないでよね!」


 ……まったく。なんでわたしに、『男子』の世話係なんてさせるわけ?


「あ、あのな。高嶺(たかね)……」
「なによ、海原」
「み、見つかった」
「……は?」

 美也ちゃんも月子ちゃんも、仕事早すぎだから。
 だったらわたし……かわいいキャラとか、崩壊させる必要なかったじゃん。

「ご、ごめんね由衣」
「『黙っていたらかわいい』なんて、あなたにはもう無理な設定なのよ」


 ふと気がつくと、ホテルの担当者というか。
 その上司とかいうひとたちと。
 寺上(てらうえ)校長やほかの先生まで集まっていて。

「いいねっ!」
 全部見ていた佳織(かおり)先生がわざとらしく。
 わたしに親指を立て、おまけのウインクまでつけてくる。



 ……もう。なんかいってよ、海原。



「高嶺、もうひとつ頼みがある」
「な、なによ?」
「僕に『ついてきてくれ』」

 ……えっ?

「『ただの』付き添いという意味よ、由衣」
「いわれなくても、わかってますから!」
 まったく、月子ちゃんはややこしい上。

「そこは、由衣なんだ……」
 美也ちゃんが真顔で、つぶやいて。

 わたしはほかにも、たくさんの見送りを受けながら。
 ひとり落ちつかないまま……スタスタ歩くアイツを追いかけた。




「どうかしたのか、高嶺?」
「べ、別に」

 ……アンタさ、意味なく大胆なこといわないでよね。



 すべてが順調に解決したあとで。
「で、なんでわたしが同行したわけ?」
 思い切ってアイツに、その理由を聞いてみた。

 あとから考えたら、わたしは。
 はじめての旅先の街を。
 海原とふたりきりで……歩いていたのに。

 でもそのときの、わたしは。
「なに考えてんの! このバカっ!」
 最高に『不名誉』で、『不愉快』な気分になっていた。




 向かったホテルは、どこかの『男子校』の滞在先で。
 海原はスーツケースがないと困っていた生徒たちを前にして。
 わたしたちが、ここまで荷物を運んでくると提案した。

「な、なぁ。『その子みたいな女子が』いるんだよな?」
「共学校ですので、まぁそれなりには……」
「だったら必要ねぇぞ! 俺たちがいくぜ!」


 ……わたしが受けた指示は、『ただ黙って立っていること』。


「二組のみんなにも、すぐ動いてもらえますか?」
「もう出発させたわよ、海原くん」
 スマホの所有者は『わたし』なのに。

「お疲れさま、海原君」
 月子ちゃんと美也ちゃんの誇らしげな声が。
 スピーカーごしに、聞こえてくる。




「……で、なんでわたしが同行したわけ?」
「お前なら、万が一もめても。『男子に勝てる』だろ?」
「は?」
「そ、それは冗談だ。本当はさ」


 ……昔は黙ってさえいたら、『かわいい』って評判だっただろ?


 な、なんなのコイツ?
 いきなりわたしが『かわいい』とかいってくるなんて。
 完全に……反則だ。


 あれ? でも。


 ……『昔は』、『黙ってさえいたら』。


「ねぇ。『強調するとこ』変えたら。ぜんっぜん、ほめてなくない?」
 しかもさっき、月子ちゃんにもからかわれたし。

「い、いやそれは……」
「なに考えてんの! このバカっ!」


 くりかえしにはなるが、はじめての旅先の街を。
 海原とふたりきりで……歩いたとき。
 わたしは最高に『不名誉』で、『不愉快』な気分だった。



 ……でも。



「あ、そっか」
 その『強調するとこ』を変えてみたら、
 ちょっと……違うかも。


 ……わたしは『最高に』、不名誉で不愉快な気分だから。


「海原、なんか今度おごって」
「な、なんでだ?」


 それくらい……わかれ、このバカ。