恋するだけでは、終われない / 恋したことなら、忘れない


 ……新幹線がグングン加速し、あっというまに見えなくなる。


「いくぞ、暖花(ほのか)
「うん」

 わたしたち『放送部員』は行列の最後。
 特に(すばる)先輩とわたしは、その一番最後を。
 いまは並んで……歩いている。


「暖花、『危ないから』少し離れなさい」
 訂正、昴先輩のすぐ前。
 わたしの斜め前では、月子(つきこ)ちゃんが目を光らせていて。

海原(うなはら)君、手伝おうか?」
「だ、大丈夫だよ」
 その隣というか、わたしのすぐ目の前では。

 千雪(ちゆき)ちゃんが昴先輩に向かって。
「そう? でも手伝えるよ?」
 やたらと声を、かけている。


 改札をこえて、ゾロゾロと駅前のバスロータリーに向かうと。
 それからも割と整然と。
 みんなは待機していた、観光バスに乗っていく。

「いってらっしゃい!」
「バイバ・ー・イ!
 由衣(ゆい)ちゃんと姫妃(きき)ちゃんの笑顔に見送られながら。
 次々と発車していく、バスの群れ。


 普通の修学旅行なら、昴先輩たちも当然乗るはずなのに。
 誰ひとり乗らない……わたしたち。


「自転車操業中よ、そんな余裕なんてないじゃない」
 月子ちゃんの言葉がしめすとおり。
 山盛りの『雑務』をこなすため。

 観光にもいかずに、宿泊先に直行するという。
 なんだか奇妙な修学旅行の……はじまりだ。




 ホテルに到着し、担当のかたたちとのあいさつを済ますと。
 わたしたちは団体用エントランスにある、ツアーデスクを確認してから。
 その足でミーティングルームに入室する。


「はじめよっか、昴先輩?」
 こうなったからには、少しでも貢献してみせると思った矢先。

「悪い暖花、みんなの荷物置いてきてもらえるか?」
「えっ?」
「どうかしたか?」
「……別に」
 いきなり小間使いとか、調子が狂う上。

 女子『五人分』の荷物は、意外と重たいのに。
「いまだけ、エレベーター使っていいぞ」
 先輩からの言葉は……たったそれだけ。


「どうした、暖花?」
「別に」

「修学旅行生は、原則使用禁止なんだぞ」
 そんなひとことだけで、済まそうなんて。
 少し手抜きじゃないのかな? 

「一緒に持っていくとか、しないの?」
「『女子』のフロアだ、無理に決まってるだろ」
「えっ?」
「どうかしたか、暖花?」
「な、なんでもない」


 ……なるほど、一応『そういう』意識はあるらしい。


「じゃ、いってくる」
 ただ『女子』といわれただけなのに。
 そのあと、少し早足でエレベーターホールに向かったわたしは。
 到着したエレベータにひとりで乗りこむと。

「五階、五階と」
 腕を伸ばして、ボタンに触れる。

 すると、閉まりかけた扉の向こうに『誰かが』見えて。
 わたしは慌てて、『開く』のボタンを押す。


「ありがとうございました」 
 耳に流れたのは、きれいな声で。
 わたしはもちろん、返答しかけたものの。

 驚きのあまり、荷物を思わず腕にからませて。
 すぐには声が……だせずに終わる。



 ……のびてきたのは、美しくて白い腕。



「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます」
「……よかった」

 その笑顔は、わたしの所持する『データ』よりも。
 はるかにずっと……すてきなもので。

「同じ階なので、お持ちしますね」
 わたしに合わせてきた、そのまなざしは。


 ……ねぇ、聞いてないよ玲香ちゃん。


 思わず、そう言葉にしたくなるくらい。
 ただただ……魅力的なものだった。




「……『一年生』だけど、『二年生』の修学旅行のお手伝い?」
「はい。おまけに『三年生』もふたりいます」
 エレベーターを降りて、廊下を並んで歩きながら。
 普通ならもっと、驚くはずのことなのに。

「なんだか、『わたしの学校』みたいだね」
 その人は自然と受けいれると、とっても楽しそうな顔をする。


「おかしいとか、思いませんか?」
「うーん、割と慣れてるというか……」

 隣に立つ『その人』は。
「そういうのって。わたしは結構、好きかもしれない」
 なにかを『懐かしむ』ような、顔をするものの。

 まだ『前の学校の制服のまま』のわたしと話しているので。
 とても『重大なこと』には、気づいていない。





 ……わたしを知らない、その人を。

 わたしは誰だか……知っている。





「もしかして、隣の部屋なの?」
「どうやら、そのようですね」
「もし『わたしの学校』の生徒たちが、うるさかったらごめんなさい」

 やさしい『その人』は評判どおりの。
 とても気づかいのできる人ではあるものの。

 部屋の『つくり』を理解しているわたしは。
 彼女の心配が無用なことなど、当然のごとく知っている


 ……ただ唯一、わたしが知らなかったのは。


「本当に、扉もあけていいの?」
「はい。ぜひ、お願いします」



 ……あなたが『きょう』、ここにあらわれることだけだ。



 キーカードをかざして、ロックが外れると。
 わたしは彼女に、部屋の中まで進んでもらう。


「……あれ?」
 ようやく見せた、戸惑いの表情に。

「『コネクティング・ルーム』なので、つながっているんです」 
 わたしは真正面からそう答えると。

 その人のことを。
 我ながら失礼なほどじっと。
 これでもかとじっと、見つめてしまう。




 ……卒業しても、まだ大好きだなんて。


 にわかには……信じられなかった。




「あらためまして、ごあいさつさをせていただきます」


 海原(うなはら)(すばる)と再会するという(たかぶ)りを。
 どうにも隠しきれない『その人』に。

一碧(いっぺき)暖花(ほのか)と、申します」
 わたしは深々と、一礼する。



 ……『予定』よりは、早かったものの。

 出会ったものは……しかたがない。





 ……なので、はじめまして。



 都木(とき)美也(みや)・先輩。