桜とガラスの靴

 「どうもぉ~」

 病院の窓から白い何かが入ってくる。
 それは人型だが、人間ではないようで。

 「僕、悪魔です」

 その雪色の天使は悪魔と名乗った。
 人々を魅了し、誑かす、その笑顔で。

 。〇●〇。

 私は不治の病に罹っていた。
 どんな医者でも、どんな薬でも、治せないそう。
 今更生きたいとも思わない。薬が出来ても、どうせ延命だけ。
 どちらにしろ、長くは生きられない。

 そんな時、君が来た。

 白く、美しい、何か。
 穢れの無い、綺麗な羽が羨ましい。

 「本当に悪魔なの?」
 「うん。そうだよぉ」

 悪魔は独特な喋り方をする人(じゃないけど)だった。語尾をすこし伸ばす感じ。
 
 「人々の命を奪う、悪魔だよぉ」

 少し悲しそうに笑った。
 なんでそこで悲しそうにするのだろうか。こちらが悲しそうにする方だろうに。
 意味が分からなかった。

 「ま、だからさぁ、気を付けないとね。僕に殺されちゃうよぉ?」
 「はあ」

 意地悪そうに笑う君に、私は心底興味無かった。
 別に、今死んでも、後で死んでも。
 全く変わらない。
 一人寂しく死ぬのは同じ。

 「……少しは興味持ってくれていいのにさぁ。」
 「ハハ。善処するよ」
 
 。〇●〇。

 それから毎日、悪魔はやって来た。
 暇なのだろうか。可哀想。
 まあ、私も孤児だから暇なんだけど。
 悪魔が来るたびに、私は悪魔の話を聞いた。
 病院の外の話だとか、地獄の話だとか。
 それらを聞いてるうちに、だんだんと、もっと聞きたいと思うようになってきた。

 「ねえ。」

 こんどは私から、質問をした。

 「なんで、悪魔なの?」

 その時、悪魔の時間が止まった。
 しばらくしてから話し出してくれた。
 それは、とある天使の悩みの話だった。

 。〇●〇。

 天使は悩んでいた。
 自分はなぜ、人を天国へと導く天使なのだろうか、と。
 人の魂を抜き取り、死の国へ連れて行く。
 それは、まるで、悪魔の所業。

 思い切って、神に相談した。
 しかし返ってきたのは、思いもよらない事だった。

 「そんなのはただの甘えである。お前らは黙って仕事をすればいい」

 なんという事でしょう。
 天使は、悪魔に使えていたのですから。
 それじゃあ、僕も……。


 悪魔じゃないか?


 その日から、その天使は天国に行く事は無かった。
 
 。〇●〇。

 「僕は悪魔です。」
 人々を殺す、悪魔。

 そう、重々しく告げる、天使。
 返す言葉に迷う。
 『そんなこと無い』だめだ。私如きが言うな。
 『それでも好き』だめだ。励ましにならない。
 『私も実は悪魔』嘘はだめだ。
 でも。1つ言いたい。
 
 「私は、君に殺されたい」

 









 。〇●〇。

「ごめんねぇ。殺しちゃって」
「いいよ。どの道もうすぐ死ぬんだしさ」

そう言って笑う二人の天使。
これで良かったのだろうか、と二人は思う。
一人は、友の死を後悔して。
一人は、己の死を後悔して。

(でも、幸せそうだからいっか。)

相変わらず仲良しである。