桜とガラスの靴

 今年、ここ最近では珍しく、桜が皆揃って咲いた。

 最近は季節外れの桜も珍しくなかったので、皆こぞって花見をしている。
 もちろん、僕も現在進行形でしている。

 でも、上辺だけの付き合いなので、正直しんどい。
 飲めない酒を注がれ、気づかれないようにため息をつく。

 ちらりと桜を見る。
 皆、桜は淡いピンクだと言うが、僕には悲しい白にしか見えない。

 でも、あの時は――華やかな色だった。
 優しくて、どこか切ない桜色。

 。〇●〇。

 高校の頃だった。

 都会でも、田舎でもない町中に、桜のトンネルが実家の近くにある。
 その時は、親戚とそこで花見をしてた。

 でも皆、花を見ない。花より団子かよ。……僕も団子派なんだけどね。

 でも見もしない花見は、桜に悪いような気がして、途中で帰ることにした。
 桜のトンネルを通って。遠回りだけど。

 「あれ?ここ、こんな道だったっけ?」

 桜の道はだんだん知らない景色へ変わって行った。
 人っ子一人いない。モダンで洋と和が混ざった風景になった。

 道もなんだか長い気がする。

 長すぎて、駅から近いからと、家から遠くを会場にした親戚を恨んだ。

 遠くに人影が見えた。
 どんどん歩いていると、少し見えてくる。

 それは少女だった。透き通った青のドレスを着た、外人さん。

 王子様のハートも打ち抜くような美貌、溢れ出る優しさのオーラ、皆の視線を釘付けにしてしまいそうな微笑み。

 その姿はまさに、ヒロイン。

 桜を見ていたその子は、僕に気付くと「Shall we dance?」と、聞いてくる。

 僕は気づいたら共に踊っていた。

 何処からともなく流れるワルツに乗ってクルクル回る。
 ダンスとは無縁の僕を彼女は上手にリードしてくれる。少し恥ずかしい。

 ライトアップの光が幻想的に輝く。
 楽しそうな彼女の顔を見て、どきり、と胸が鳴った。

 踊ってる途中、ふと桜を見ると、華やかで美しい桜色に染まっていた。そして、儚く、切ない。

 通り雨でも降ったら、すぐ散ってしまいそうな。

 優しく、どんな孤独を包み込むかのような。

 そんな桜だった。

 流れていた音楽がなり、彼女は軽くお辞儀をした。
 僕もお辞儀をした。

 しかし、頭を上げた時にはもう、彼女は居なかった。
 全てが元に戻っていた。

 僕は、不思議でたまらなかった。なんだか、すごく寂しく思えた。

 足元にコツンと何かに当たる感覚がしたので、見て見ると、そこにはガラスの靴があった。

 まるでダイヤモンドかのような美しい輝きを発していた。

 なんとなく持って帰った方が、いい気がするので、そのまま持って帰った。

 一瞬の様に感じた時間はかなり掛かっていたらしく、先に帰っていた家族が「もう親戚のおじさん達かえったよ」と、あきれ顔で言われた。

 。〇●〇。

 あれは、なんだったんだろうか。

 ガラスの靴を鞄から取り出して、見つめる。
 そして大切に鞄に戻した。

 やっぱり皆、花より団子で桜を見ない。
 桜をぼんやりと見つめていたら、花見は終わった。

 一人で桜のトンネルを歩いた。

 また、あの子に会えるか期待して。

 あの子の顔ははっきりと覚えていない。

 でも、綺麗だった。それは覚えている。

 あれ?あの時と同じく、誰も居ない桜の道に、あの子がいる。

 こんどは僕から、言った。
 「Shall we dance?」
 ってね。

 ああ。

 好きだ。君が。

 ずっと、ずっと、好きだ。

 たとえ、君が僕の幻覚だとしても。