幸せを願う嘘をひとつ

世界がこれほどまでに簡単に色を失うものだとは知らなかった。
あとに残されたのは、どこを見渡しても鉄のような景色だけだった。

翌日からの学校生活は、私にとって拷問だった。
朝、教室の扉を開けるたびに、私の胃は絞るように痛んで吐き気がした。

いつもの席。
いつもの窓際の光。
でも私のすぐ目の前に座る彼からは、かつて私を温めてくれたあの温かさが消え失せてた。

「煌河くん、おはよう!これ、今日の小テストの範囲なんだけど、一緒に見ない?」
響き渡る優奈の綺麗な声。

あの日を境に、優奈は毎朝煌河くんの席に行くようになった。
彼女の綺麗な髪が、煌河くんの前に揺れるたび心が欠けていくように痛んでゆく。

「……おはよう」
煌河くんの返す声には、以前のような明るさはなかった。
まるでラジオから流れる音声を聞いているかのような声。
それでも優奈は少しも気にする様子はなく。
「やったぁ、じゃあここ教えて!」
そう嬉しそうに彼の顔を覗き込んでいる。

私はただ、机の上にノートを広げ、文字を見つめるフリをすることしかできなかった。
視線の端に映る2人の姿が、視界の端にくっ付いて離れない。

何よりも私を絶望させたのは、授業中の煌河くんの拒絶だった。
これまでなら、先生が黒板に向かってるとき、彼はよく振り返ってくれた。
目が合うと片目を細めたり。
ノートに書いた落書きを見せてくれたりした。

彼との間だけに流れるあの時間が、私の退屈な高校生活のすべてだったのに。