「今こそ、これを開けるべき時であると思う」
ずずいと寄越される瓶の液体が、たぷんと揺れた。
「お酒ですか?」
「ああ」
瓶だけを寄越して、アレクシスはそれ以上何も語らない。
こういう言葉足らずな所は、日頃からお世話され慣れている雰囲気がする。
私はグラスを二つ取ってきて、中の液体を注いだ。
予想に反さず、深紅色。
ビーフシチューを煮込む時にも赤ワインは使っているけれど、あの安いワインとは違った、芳醇な香りがする。
「わ、おいし!」
想像以上の濃厚さで酸味が効いている。
お酒には強い方ではないけれど、呑むのは嫌いじゃない。
二皿目をしっかりと平らげたアレクシスは、グラスを片手にしてうっそりと目を細めている。
「気に入って貰えたようで良かった。昨年献上された物だからな。せめてもの慰みに持ってきたのだ」
鷹揚な物言いは、堂に入っている。
「このように楽しい夕餉は久々だな……」
「私も誰かと会話しながら食事するのは久しぶりです。たまにはいいですね、こういうの」
アルコールがアレクシスを饒舌にさせているのかは、分からない。
私も久々に飲むアルコールで、少々螺子が緩んでしまっていた。
空いているグラスに瓶の中身を注ぐ。
蒼い瞳とグラス越しに視線が合う。
「私の国では、男女が密室で酒を酌み交わす事に、特別な意味を持っている」
「どんな意味なんですか?」
「――知りたいのか?」
やや赤く染められている舌がチラリと見えた。
グラスを煽ると、喉ぼとけが上下し、そのラインに目を奪われる。
今のは絶対に動画で撮っておくべき場面だ。
全世界の特殊な趣味を持つ乙女たちにリアルタイムで配信すべき。
首輪、似合いそう。
グラスが置かれ、大きな掌がこちらへと伸ばされてくる。
ごつごつとしているけれど美しく長い指。
――まさか、髪についた糸くずでも取るつもり?
それとも、ただ頬に触れようとしている?
流麗な動作には一切の躊躇いがなく、あまりにも自然で……。
この指は一体どこへ向かおうとしている?
ぼんやりとその軌跡を眺め、半ば条件反射で一歩後ろへとお尻をずらした。



