いつの間にか、ステージ上には、私の描いたイラストが大きく掲げられている。
広場に集まったフォルジェ王国の民衆は、魔法陣の出現と、倒れ込む男、そしてステージに立つ私に、興味津々の視線を向けている。彼らにとって、これは全て絵師アヤノが仕掛ける、ショーの一環なのだろう。
祭典は、今まさに最高潮を迎えようとしていた。
混乱のるつぼと化した食の会場。
思考回路はショート寸前。
ステージ中央に立つ私の脳裏に、先ほどの料理対決が走馬灯のように駆け抜けていく。
「では、料理対決の優勝者は……王都の『陽だまりベーカリー』さんです!」
私の声が魔術拡声器を通して会場に響き渡ると、観客席からは歓声が上がった。
陽だまりベーカリーの店主は、素朴なパンを抱えて感涙にむせんでいる。
彼らのパンは、素朴で心温まる味がした。
アレクシスの初恋シチューの衝撃が強烈すぎたせいか、審査員の満場一致で、市井の皆にも愛される王都のパン屋に軍配が上がったのだ。
しかし、その瞬間、私の横にいたアレクシスの顔から、みるみるうちに血の気が引いていくのが見えた。
彼の瞳には、深い失意の色が浮かんでいる。
「……俺の『愛』では、足りなかったか」
彼は、私に縋るような視線を向けてくる。
普段の威風堂々とした態度はどこへやら、雨に濡れた大型犬のように切なげな瞳で見つめられ、私は思わずたじろいだ。
私が審査員として、彼を選ばなかったことへの、衝撃からか、落胆した表情は、私の胸を少しだけ締め付けた。
会場のざわめきが、ざわめき以上のものに変わった。
「あれを見ろ! 王子だ!」
「まさか、本物がいるなんて!」
「アレクシス殿下が、絵師アヤノ様が描かれた似姿の画題!?」
どうやら、アレクシスの怪しすぎる変装は完全に看破されたらしい。
分厚い丸眼鏡程度で、あの圧倒的な美貌とオーラが隠せるわけがなかったのだ。
せめて昨日までの地味なフード付き外套にしておけば良いものを。
誰があんなステージ用の衣装を用意したのだ。
人々は、彼の完璧な容姿に目を奪われ、瞬く間に会場は熱狂の渦に包まれた。
大歓声に、アレクシスは一瞬、呆然としたようだった。
しかし、彼の失意は、熱狂の波の中で、予測不能な行動へと駆り立てていく。



