いい声で発表しているが、自分で王子とか名付けちゃうのはもう天然を通り越している。
アレクシスが差し出したシチューは、キングプラムの鮮やかな紫色に染まり、その中にはスカイサーモンが捌かれることなく、どっかりと横たわっている。
甘酸っぱい匂いと、生臭い魚の匂いが混じり合い、途端に警戒信号が灯った。
審査員席に座る私は、恐る恐るスプーンを手に取った。
口に含んだ瞬間、甘酸っぱさと魚の生臭さ、そして独特の粘り気が襲いかかる。
味は……例えるなら、「フルーツヨーグルトに刺身を混ぜたような」想像を絶する組み合わせだった。
これは、もはや料理というより、一つの哲学かもしれない。
私の隣に座っていたフォルジェ王国の重鎮らしき審査員たちが、恐る恐る一口食べ、顔を青ざめさせているのが見えた。
しかし、彼らはアレクシスを刺激しないよう、必死に笑顔を作っている。
彼らの顔は、まるで即効性の毒を目の前にしている者のようにも見えた。
「……斬新な味わいですな……」
「これほどまでに、色々な情念が込められた料理は初めてです……」
口々に、微妙な褒め言葉が飛び交う。
アレクシスは、その言葉を真に受け、鷹揚に微笑む。
彼の輝く瞳は、自分の料理が人々に感動を与えたと信じ込んでいる。
その無邪気な自信が、逆に周囲の気まずさを助長させていることに、彼は気づいていない。
その時だった。
アレクシスの背後で、熱心に動画を撮影していた鈴村君の身体が、突如として激しく痙攣を始めた。
「ぐ、ぐぅぅぅぅぅ……っ! これ以上は……! 僕の身体が、嗅覚破壊の衝撃に耐えきれません!」
「大丈夫ですかあああああああ」
シリルの悲鳴と共に、担当編集者の身体がその場に崩れ落ちた。
彼の口から、微かに青白い光が漏れ出している。
どうやら、衝撃に耐えうる嗅覚の限界を迎えたようだ。
苦悶を極め切った表情は、胸を締め付けるものがあった。
「スズムラ!? どうした!」
アレクシスが慌てて駆け寄る。
その瞬間、彼の焦りからか、無意識に魔力が発動した。
彼の指先から放たれた光が、会場の空中で複雑な魔法陣を描き始める。
「あっ……!」
私は思わず声を上げた。
会場は、再び混乱の渦に包まれる。
人々は、その光景に驚き、恐怖し、そして歓声を上げた。
既視感どころの騒ぎではない。私は似たような光景に間違いなく遭遇している。
「今です」
榊原の冷徹な声が響き、私の背中を思いきり押し出した。
鬼かこの男。



