アレクシスは、ゆっくりと私の方に顔を向けた。
彼の瞳は、夜空の星のようにきらめき、私を真っ直ぐに見つめていた。
その視線に、思わず息を呑んだ。
「きっとアヤノの存在が、俺の探求を、より深いものにしている。この感謝の気持ちを、どう表せば良いのだろうな」
そう言うと、彼はそっと手を伸ばし、私の頬に触れた。
ひんやりとした夜の空気に慣れた指先が、私の肌に触れた瞬間、熱い電流が走ったような感覚に襲われた。
ドキリと心臓が跳ねる。彼の指は、そのまま私の顎を優しく辿り、顔を少しだけ上向かせた。
彼の顔が、ゆっくりと近づいてくる。
月明かりが、彼の完璧な横顔を照らし、その端正な顔立ちがさらに際立つ。
私は、彼の吸い込まれそうな瞳から目を離すことができなかった。呼吸の音が、やけに大きく聞こえる。
この距離は……これは、まるで漫画で描くような、あのシーンではないか。
やばい。
誰か。
たすけ、て。
リビングの窓がガラリと開き、鈴村君の声が響く。
「せ、先生! こんな時間に、バルコニーで何を! 風邪を引きますよ!」
鈴村君の顔は真っ赤だ。彼の背後には、心配そうなシリルが小さく見えた。
アレクシスは、何事もなかったかのようにすっと私から身を離すと、鈴村君の方を向いた。
「すっかり俺も夜型人間となってしまってな。夜空の美しさを語らっていただけだ」
アレクシスは、甘い余韻を残した涼しい顔で答えた。
私は、熱を持った頬を夜風に晒しながら、心臓の早鐘を感じていた。
異世界でのサイン会は、私にとって、壮絶な戦いなのだ。
しかし、その戦いは、食の祭典という新たな舞台へと突入するだけでなく、まさかの予感まで含んでいるらしい。



