王子サマはBL漫画家(わたし)の部屋にパラサイト中

「サイン会に合わせて、フォルジェ王国の食の祭典を催すことになりました」

榊原の言葉は、いつものように淡々としていたが、その内容は私の思考をフル稼働させるものだった。

食の祭典、とは?

サイン会だけでも気が重いのに、なぜ私が異世界の料理対決に巻き込まれなければならないのか。
頭の隅で、微かな緊張感が走る。

「食の祭典、ですか? 私は料理人ではありませんし、サイン会だけでも……」

「ご心配なく、アヤノ殿には、祭りの目玉となる料理対決の審査員を務めていただきます。そして、アレクシス様には、特別ゲストとして、自慢の腕前を披露していただくことになります」

榊原の言葉に、アレクシスは静かに目を輝かせた。

「コウ、それは素晴らしい。俺の『伝説の料理』を、フォルジェ王国の民に味わってもらう絶好の機会ではないか」

彼は、すでにどんな料理を披露するか、頭の中で構想を練り始めているようだ。
私の胃は、彼のBL仕込みである伝説の料理が、フォルジェ王国の食の祭典でどのような反応を引き起こすのかを想像し、少しばかりの不安を感じ始めた。

祭りの準備は、榊原邸で大々的に行われることになった。
広大な厨房は、異世界の食材で埋め尽くされる。
その奇妙な光景は、とりあえずスケッチに残しておこうと思ったものの、お絵かき用のタブレットもペンも持ち合わせておらず、私はついうっかり「裏紙でもいいので~」と執事さんにお願いしたことを後々後悔する羽目になる。


「さて、この『叫ぶマンドラゴラ』という野菜は、どのように調理すれば良いのだろうか。そして、この『虹色イカ』は、一体どんな味がするのだろう」

アレクシスは、興味津々な様子で私に質問を投げかける。
叫ぶマンドラゴラ?
虹色イカ?
私は、日本の家庭料理の基本を教えるはずだったのに、なぜ異世界の珍食材の調理法を考案しなければならないのか。

しかし悲しいかな、典型的巻き込まれ体質な私は、先日王立図書館で目を通した世界の珍味大辞典のページを頭の中で捲る。

「アレクシスさん、叫ぶマンドラゴラは、その名の通り、見た目だけ叫んでいるようにみえる人参みたいな野菜っぽいです。虹色イカは、焼くと地味な色に変化するらしいです」

アレクシスは「なるほど。我が国にもニンジーンがあったのだな。興味深い」と、さらに静かに目を輝かせた。
彼の頭の中では、すでに奇想天外な料理のアイデアが渦巻いていることだろう。

一方、榊原は、祭りの準備を淡々と進めていた。

彼は、祭りの宣伝戦略から、会場の設営、そして警備体制まで、全てを完璧に管理している。
彼の頭の中には、祭典を成功させるための緻密な計算が詰まっていることだろう。

「アヤノ殿。祭りの目玉となる料理対決ですが、審査基準は、『独創性』『味』『見た目』の三点とします。ただし、フォルジェ王国の国民の下は肥えていると非常に言い難いため、その点を考慮して審査してください」

榊原の言葉に、私は静かに息を吐いた。
アレクシスの料理は、既に十分すぎるほど刺激的だ。
私が審査員を務める料理対決は、一体どんな展開になるのだろうか。