王子サマはBL漫画家(わたし)の部屋にパラサイト中


私が教えた日本のシチューのレシピは、牛乳やバター、小麦粉を使うものだったが、この世界には乳製品がほとんどなかった。
そこで、榊原が用意してくれたのは、粘り気のある白い樹液である『マナの雫』と、甘みのない白い粉『大地の恵み粉』という、怪しげな代替品だった。
見た目だけで集めた割に、なんとかなりそうな気もしないでもないのは、私がこの異世界ノリってやつにだいぶ慣れてきた証拠だろうか。
寒気がちょっとする。

「この『マナの雫』を、『攻め』のように豪快に鍋に注ぎ込む」

アレクシスは、巨大な鍋にマナの雫をドボドボと注ぎ込む。
そのあまりの量に、私は思わず「アレクシスさん、それはおらおら攻め過ぎます! 多すぎます! 『受け』る鍋の気持ちも考えてください! やさしく繊細に!」と叫んだ。
だが、彼の耳には届いていない。

「そして、『大地の恵み粉』を躊躇なく投入。これが『愛の濃度』を高めゆく」

彼はさらに、大地の恵み粉の大袋を逆さまにして鍋に叩き込んだ。
鍋の中の液体は瞬く間に粘度を増し、まるでスライムのようになっていく。
私は、すでに完成を諦めかけていた。

シチューが煮詰まる間、香ってきたのは、日本のシチューの芳醇な香りとは似ても似つかない、得体の知れない匂いだった。
土っぽいゴルゴン草の匂いと、グリフィン肉の野性的な香りが混じり合い、そこにマナの雫と大地の恵み粉の、ねっとりとした甘くない澱んだ匂いが加わる。

「これぞ、俺の『攻めのシチュー』だ。フォルジェ王国の食卓を改革する、第一歩となるだろう」

アレクシスが自信満々に差し出してきた『攻めのシチュー』は、見た目は灰色がかった粘性の塊で、所々にゴルゴン草の緑とグリフィン肉の茶色が見え隠れしている。
その上には、ほとんど味がしない『ドラゴンの涙』が振りかけられている。

惨状としか言いようのない料理のはずなのに、それを差し出す彼の手つきは一流レストランのギャルソンのように洗練されており、無駄に色気を放っているから始末に負えない。

私は、恐る恐るスプーンで一口すくった。
口に入れた瞬間、土のような風味と、野性的な肉の香りが広がる。
そして、得体の知れないねっとりとした食感。
味は……ぼんやりとしているのに、なぜか個性が強い。
不味いわけではないのだが、美味いとも言い切れない。

「……どうだ? 君の魂を揺さぶる味だろうか」

至近距離から覗き込んでくる彼から、ふわりと甘い香りがした。
灰色のスライムを食わせようとしている男の顔ではない。
期待に満ちた蒼い瞳に見つめられ、私は笑顔を引きつらせながら、なんとか言葉を絞り出した。

「ええと……斬新、ですね。とても、アレクシスさんらしい、攻めのシチュー……かなり、攻めてます」

私の胃は、新たな異世界の味覚の洗礼を受け、完全に限界を突破した。
本当にフォルジェ王国の食卓を改革できるのだろうか。
私の不安は尽きない。