王子サマはBL漫画家(わたし)の部屋にパラサイト中

榊原の屋敷での生活が始まって数日。
私はアレクシスに日本の家庭料理を教えるという、異世界での新たな任務に追われていた。

特に、フォルジェ王国の食文化の根幹にある「生で食べると危なそうだからとりあえず焼く」という調理法と、全体的にぼんやりした味の調味料の壁は、食卓改革にあたって非常に困難な問題だった。

「……この『ゴルゴン草』という野菜は、なぜこれほどまでに土の香りが強い? そして、この『ドラゴンの涙』という調味料は、何故これほどまでに味がしない……? ただの水と変わりがないな」

アレクシスは、私の指示通りに『攻めのシチュー』の材料を前に、形の良い眉をひそめている。
その悩ましげな横顔すら一枚の絵画のように美しいのが腹立たしい。

目の前には、鮮やかな緑色だが確かに強い土の匂いを放つゴルゴン草、そして、巨大な鶏肉のような見た目のグリフィン肉、さらに無色透明で舐めても味がほとんどしない液体調味料ドラゴンの涙が並べられている。

「ゴルゴン草は、セロリみたいなものだと思ってください。ドラゴンの涙は、うーん……こっちの水に近い塩みたいなもの、ですかね……」

私は曖昧に答える。

この世界の食材は、どれも個性が強すぎるのに、調味料は逆に個性がなさすぎる。
とりあえずなんでも焼く文化が蔓延るのも納得がいった。
素材の味を、そのまま、文字通りそのまま食べる。
それが、フォルジェ王国の食文化なのだろう。

とはいえ、主食となる麺や米、麦などの穀物類は想定の範囲内の味のため、榊原が薄い醤油風味の発酵酒をどんな料理にもかけていたという気持ちは、理解出来る。
あれを主菜や野菜にかけて穀物を食べれば、不味すぎて食べられない味からは脱する。

「ふむ……このゴルゴン草もグリフィン肉も、確かにそのまま焼けばそれなりに美味い。だが、シチューとなると話は別だ。この素材が持つ『魂』を、どのようにして『愛の融合』へと導くか……」

アレクシスは真剣な顔で、しかし目を輝かせながらぶつぶつと呟いている。
彼の頭の中では、すでに壮大な『フォルジェ風攻めのシチュー』の概念が構築されているようだった。