王子サマはBL漫画家(わたし)の部屋にパラサイト中

榊原がリビングの床に描き上げた転移陣が、青白い光を放ち始めた。
ベッド上の転移陣はこの大所帯を移動させるにはいささか手狭らしく、有無を言わさぬ勢いで、蛍光塗料らしきもので榊原が一気にこの巨大な陣を描き上げたのだ。

……賃貸の退去時、原状回復費用はいくら取られるんだろう。

「アヤノ先生、準備はよろしいでしょうか……。転移は、身体に少々負担がかかりますが、大賢者様が施した術式は安全です。大丈夫です、私もついておりますので……」

シリル憑き鈴村君の唇からシリルのおどおどとした声が漏れ、無理やり笑顔を作っていた。
彼が一番、この異世界トリップを恐れているのかもしれない。
なんせ幽体だけで、こちらの世界に無理やり送り込まれたのだから。

「さあ、時間です」

榊原の地を這うような声が響く。
彼は転移陣の横に立ち、その銀縁眼鏡の奥の瞳で私たちをじっと見つめていた。
まるで、品定めしているかのようだ。

「転移は、瞬時です。向こうに着けば、シリルが記憶操作を施し、我々の存在を周囲に認識させないよう、ある程度の措置は講じます。しかし、アレクシス様は、くれぐれも無駄な行動は慎むように。特に、魔法の無駄遣いは厳禁です」

榊原の釘差しに、アレクシスは「ふむ、心得たぞ」と力強く頷いた。

あの顔は、心得てない気がする。

「では、行きましょうか、先生……!」

シリル憑き鈴村君が意を決したように私を促す。
私は大きく息を吸い込み、覚悟を決めた。
私のBL漫画家人生は、もはや後戻りできないところまで来てしまったのだ。

「それでは、参るぞ! ハァァァァァア!」

アレクシスが、なぜか無駄に良い声で雄叫びを上げて転移陣に足を踏み入れた。
その瞬間、足元から眩い光が溢れ、私の視界は真っ白になった。
身体が浮遊するような奇妙な感覚。
そして、一瞬の浮遊感の後、足元に硬い感触が戻ってきた。