王子サマはBL漫画家(わたし)の部屋にパラサイト中



「アヤノ先生! フォルジェ王国での書籍の売り上げが、とんでもないことになっています! これが、先生の取り分だそうです!」

シリル憑き鈴村君が差し出した収支報告書を見て、私は目を疑った。
そこに書かれていた数字は、一生かかっても稼げるかどうかの額。
異世界での絵師アヤノとしての報酬は、日本の常識をはるかに超えていた。

「これって……本当に私がもらっていいお金なんですか?」

震える声で尋ねる私に、唐突に榊原の声が割り込む。
この人、また勝手に連絡もなく私のベッドの上に転移してきた。
セキュリティどうなってるの。

「当然でございます。私のビジネスに無駄はございません。あなたがフォルジェ王国の財政に貢献してくださったのですから、当然の対価でございます。それに、この程度の収益を定期的にあげることが出来るのならば、アレクシス様が日本でどれほど『伝説の料理』とやらを極めようと、当面は私の懐を痛める心配もございません」

慇懃無礼な物言いだが、その金銭的な誘惑はあまりにも大きかった。
私は、この報酬があれば、もう締め切りに追われる日々から解放されるかもしれない、と一瞬夢を見る。

「しかし、問題が一つございまして。フォルジェ王国では、この『絵師アヤノ』のご尊顔を直接拝見し、指南書に関する解説を行っていただきたいとの声が殺到しているとか。特に、女性層からの熱烈なご要望がありまして。できれば、先日と同様の催事を開いていただきたいのでございます」

榊原の言葉に、私の血の気が引く。
顔出しNG、引きこもり体質の私には、悪夢以外の何物でもない。

「サイン会ですか!? いや、無理です! 私、顔出しNGですし、異世界なんて……そういう展開、む、向いてない!」

榊原が、くいっと眼鏡のふちを持ち上げる。
レンズが反射し奥の瞳が良く見えない。怖い。

「はぁ……。異世界転移は、向いている、向いていないの問題ではないのですよ。事態に引きずり込まれるのは主人公の宿命です」

呆れたような声音で、一気に続けた。

「心配は一切無用。フォルジェ王国で『絵師アヤノ』の顔は知られていません。もちろん、身の安全は確保します。それに、アレクシス様も一時的に帰国されますし、シリルも護衛に回りますので、一人で行けという話ではございません」

榊原は淡々と告げるが、アレクシスが一緒だからといって、私の不安が解消されるわけではない。
むしろ、彼がまた何かとんでもないことをしでかすのではないかと、新たな胃痛の種が増えるだけだ。

「きっと、故郷の民も喜ぶだろうな……」

アレクシスは、自分が漫画(指南書?)のモデルになっていることや、それが彼の祖国でも、どれほどの騒動を引き起こしているのか、全く理解していないのだ。その無自覚なイケメンオーラが諸悪の根源だというのに。

シリル憑き鈴村君は、顔を真っ青にして頷いている。

「先生……。向こうの国民の熱気がすごくて、正直、僕も怖いです。このまま先生がサイン会に行かないと、国民の暴動に繋がりかねない、とまで……夜な夜なシリルさんが魘されていて、睡眠不足も限界超えてるんで……」

「暴動!?」

まさかの展開に、私の胃が痙攣した。
異世界の国民の暴動を止めるために、私がサイン会に行かねばならないのか。
しかも、かなりの高額な報酬が確約されている以上、断るのもためらわれた。
私の漫画家人生は、もはや金銭的な欲と、異世界の平和の狭間で揺れ動いている。

結局私は、金に目がくらみ――フォルジェ王国での『絵師アヤノ』としての名声、そしてフォルジェ王国民の平和のために、異世界でのサイン会へ向かうことになるのだった。

巻き込まれキャラ王道パターン、此処に極まれり。