王子サマはBL漫画家(わたし)の部屋にパラサイト中


その日シリル憑き鈴村君が、相変わらず蒼褪めた顔色で訪ねてきたと同時に、私のベッド上に転移陣が煌めき、榊原もやってきた。
何度も言っているのに……土足はやめて欲しい。
数日ぶりに、またもや広いとは言い難い私の部屋にでかい男が三人も集まり、色々と考えさせられる。

「より多くの人々に伝えるためには『動画』とやらを駆使するんだな」

日本での生活も長くなってきたアレクシスは、科学的文化に関しても知見をだいぶ深めていた。
スマホの画面に映る自分の動画を興味深げに見る。
その横で、榊原は相変わらずの鉄面皮で私に向き直った。

「さて、アヤノ様。貴女様には、アレクシス様の『伝説の料理』を、より戦略的にご活用いただきたく存じます」

「戦略的に……ですか?」

私は思わず聞き返した。
彼の言葉は、いつも私の想像の斜め上を行く。

「ええ。フォルジェ王国は、先般申し上げました通り、日本人的味覚の私からすると、料理が壊滅的に不味いという問題を抱えております。これが国民の士気を下げ、ひいては国力の低下を招いている状況と私は判断しました。王国の財政再建は進みましたが、残念ながら根本的な解決には至っておりません」

榊原は淡々と説明する。

不味い料理が国力低下の要因とは、一体どんな国なのだ。

「そこで、アレクシス様の『伝説の料理』を、フォルジェ王国の食卓改革に応用していく所存です。まずは、この動画コンテンツを通じて、日本の優れた食材と調理法を国民に啓蒙いたします。そして、最終的にはアレクシス様が『伝説の料理学校』を設立なさり、食文化そのものを変革していただく、という計画でございます」

榊原の壮大な計画に、私は眩暈がした。

動画コンテンツで異世界の食文化を変革?

そんなことが可能なのだろうか。
しかし、彼の瞳は、すでにその未来を見据えているかのようだった。

「そのために、アヤノ様には、アレクシス様の動画コンテンツの脚本監修と、彼の料理指導のサポートをお願いしたく存じます。特に、日本の家庭料理の基本を、異世界でもご理解いただけるよう、イラスト付きの指南書を作成していただきたいのです」

「イラスト付きの指南書……ですか?」

ただでさえ締め切りに追われているというのに、異世界の食卓改革にまで巻き込まれるというのか。

「もちろん、相応の報酬はお支払いいたします。貴女様の漫画連載にも、新たな題材を提供できるかと存じます」

榊原は、私の創作意欲を刺激する言葉を巧みに挟み込む。
彼の言葉は、いつも私の弱みに刺さる。

「それは素晴らしい案だ。ぜひ、俺にも新しい日本の料理を教えてほしい」

アレクシスは、私の肩を掴んで前のめりになる。
彼の瞳は、新たな知識の探求に燃えていた。

「え、ええ……」

圧に負けた私は、力なく頷いた。
榊原は、満足そうに眼鏡をくいっと上げる。

「よろしいでしょう。それでは早速ですが、明日の動画撮影に向けて、この『王子謹製:伝説の卵かけご飯』のレシピを考案していただきたく存じます。フォルジェ王国では生卵を食する習慣がございませんため、慎重に進める必要がございます」

榊原はそう言い放つと、シリル憑き鈴村君を伴い、次の仕事に取り掛かるように姿を消した。